Study87: Secret relationship「秘密の関係」

1/1
2549人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ

Study87: Secret relationship「秘密の関係」

茫然とした驚きのあとに、全身の血が音を立てて引いていくような焦りに襲われて、何をどうして保健室まで真崎を運んだのか覚えていない。 ただ動揺の中で清水に一喝され、我に返ってすぐに顔を真っ青にした佐竹を目の前に見て、事態を悟った。 「多分、頭を打っただけだろうけどね、まー、頭だし、病院行っとくかな」 清水が携帯を取り出し、夢月を見遣る。 「そーなるとさ、秘密裏には動けないけど、いいよね?」 校医として清水が動くとなると、校長や教頭に伏せてはおけない。 「よろしくお願いします」 夢月は頭を下げながら、唇を噛んだ。 どうやって落ちて、真崎がどう頭を打ったのかわからない。 もし打ちどころが悪かったら、このまま目を覚まさない状態になったらと思うと怖くて堪らない。 「………いー、いらね」 ボソッとベットの上で声がして、夢月は振り返る。 「真崎っ!!」 佐竹が声を上げると、煩そうに眉を顰め真崎が目を開けた。 「病院行くほどじゃねーし………」 身体を起こし、真崎が弱々しく頭を振る。 胸の底からじんわりとした安堵が込み上げると、どうしようもなく溢れ、夢月は思わず真崎の首に腕を回し抱き着いた。 「……良かった、真崎くん」 喉の奥から絞り出す声が震える。 「夢月は平気?」 夢月の背に手を当て真崎が息を吐き、頷く夢月を受け止めた。 「………あのさ」 背後で佐竹の声がして、夢月は凍り付く。 安心したら停滞していた頭が回り出したように、色々と気付いてしまう。 教材室で二人でいたとか 私の取り乱しぶりとか こんな抱き着いてる現状……… 誤魔化しようがない!! 「もしかしなくてもさ、真崎って、夢月先生と付き合ってんの?」 この場合、どう答えれば正解なのか、混乱した頭では絞り出せる訳もなく、夢月は真崎の首にしがみついたまま微動だにできない。 そんな夢月の頭に真崎が手を当てた。 「………あー、うん、ガッツリ」 真崎の返答に、夢月の鼓動が跳ね上がる。 認めてしまったことへの驚きと、夢月の髪に頬を摺り寄せ穏やかに告げた真崎の声が酷く温かく聞こえた。 好きだと言われているような台詞の威力に、とても照れ臭くなり夢月は赤面した。 「うわっ、エロ!秘密の関係ってヤツ?!」 「誰にも言うなよ」 「分かってるって!………バレたらやっぱヤバいの?」 「オレと一緒に卒業したくて、夢月先生の授業受けたいなら、黙ってろよ」 「え?退学に、クビってこと?」 「まー、だな。どっちかか、両方か」 「分かった、任せとけ!」 一抹の不安が過ぎる軽い応え方に真崎が溜め息を吐く。 安堵したような、呆れたような、そんな真崎の溜め息に、事態の終局が見えた気がした。 佐竹は意外と義理堅い。 恐らく故意に言い触らすようなことはしないだろう。 うっかり、はありそうだけれど……… いつまでも真崎にくっついてはいられないので、夢月はそっと真崎から身体を離した。 「落ち着いた?」 目が合うと真崎が微笑む。 「………ごめんね、なんかつい」 取り乱したことも、思わず抱き着いたことも、うまく取り繕えないことも、不甲斐なくて仕方ない。 俯いた夢月の顎を真崎が指先で持ち上げたかと思うと、触れるだけのキスをした。 清水も佐竹もいる、この状況下、あまりに予想外の真崎の行動に夢月は唖然とする。 「あー、ごめん、つい(・・)」 くすくすと笑う真崎に、背後から清水の深く大きな溜め息が聞こえて、夢月はますます振り向き難くなる。 「見せつけてんじゃねーよ!」 佐竹が叫び、真崎が笑うけれど、夢月は笑えなかった。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!