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「ゴミ山で殺されそうになったんだ」
男は血まみれの顔をこちらに向けて言った。
「何があった?」
「ゴミ山じゃ、ギャングの抗争がしょっちゅうなのは知ってるだろ。俺はその抗争に巻き込まれた。一方のギャングの一味と思われ、敵対するギャングに襲われた。棒で頭をかち割られたが、そこから命からがら逃げてきたんだ」
「ここにギャングが追ってくるのか?」
「わからん。逃げるところを見られていたら、来るだろうな」
「俺を巻き込むな。俺はギャングなんか関係ない」
「頼む!奴らに見つかったら間違いなく殺される!」
「それで俺にも巻き添えを食って死ねってのか?」
「あんたに迷惑はかけないよ」
「しかし奴らが来たら、お前だけ殺して俺を野放しになんかするわけないだろ」
「いや…」
とその時、複数の人間が走ってくる音が響いた。
地響きがするくらいだから、人数は多そうだ。
しばらくすると、5人ほどの荒くれた連中が俺の住処である洞穴を見つけて、不躾に土足で入り込んできた。
ゴミ山の仕事をした時、見かけたことがあるギャングの連中だった。
「おい!血を流した男が来なかったか?答えろ!クソガキ!」
「いいや、見てません。ここには来てませんよ」
「嘘をつくなよ、ガキ!」
ギャングの一人は鋭い眼光で俺を睨みつけ、派手に威嚇してきた。
「本当です。今寝てたところなので、全くわからないんです」
「本当か?!」
「は、はい」
「よおーし、じゃあこの穴ん中調べさせてもらうぜ!」
「はい」
マズい…
だが男が見つからなければ何とかなる。
そう祈るしかない…
ギャングたちは洞穴の中に入って来て、あちこち見ていたが、男の姿が見えないことから、首を振りながら一人一人外へ出て行った。
だが…
「おい!お前の後ろのそいつはどうなってる?」
「え?ただの鉄の壁ですが」
マズい。
奴が見つかったら一巻の終わりだ…
「ただの壁?そいつは開かないのか?」
「はい。ただの壁ですが…」
「ふーん。じゃあ壁の横にある、そいつは何だ?」
一瞬、鉄の壁に付いている取手のことを言っているのかと思い、俺はギクリとしたが、ギャングが指さしていたのは、鉄壁の横に作った棚に置かれた瓶の方だった。
「あ、これはコーラの瓶ですよ。街で買ったものです。飲みますか?」
「コーラ?お、しかもコカコーラじゃねえか。久しぶりだな。最近飲んでなくてな。いいのか?」
「どうぞ」
「フフ、ありがとよ」
ギャングに栓抜きを渡すと、奴はすぐに栓を抜いて、ゴクゴクとコカコーラを飲み干した。
「うめえ。いい戦利品が手に入ったぜ。ここまで来た甲斐があったぜ。ありがとな」
ギャングはそう言うと、ニヤリと笑ってから、穴の外にいる仲間たちに、
「ここにはいねえ。もっと向こうを探せ!」
と怒鳴り、穴を出てから、丘をギャング仲間たちと下って行った。
しばらくは、ギャングたちが去っていくのを見送った。
奴らが丘を下りきり、もう見えなくなったところで、俺は後ろの鉄壁に付いた取手を掴み、力一杯引っ張って鉄の扉を開けた。
「奴らは帰ったよ」
俺がそう言うと、鉄の扉の向こうにある、手製の寝室から、血まみれの男が外に出てきた。
「ありがとう。何とお礼を言ってよいやら…」
男は少し泣きながら、俺にそう言った。
「しかし、ここに長居は出来ないぞ」
「わかっている」
「あんたは、あいつらに目を付けられている。このゴミ山の場所からは早く消えた方がいい。明日、俺は街に出稼ぎに行く。その時に一緒に街に出て、ここにはもう戻って来ない方がいい」
「わかった。そうするよ」
「街での生活は保証出来ない。だが、ここで殺されるよりはマシだろ」
「わかった。後は何とかするよ」
俺は水の入ったポリタンクを取り、中から水を出してタオルを濡らし、血まみれの男の顔を拭いた。
「血だらけじゃ街には行けない。顔がバレないように髭も剃るんだ。それから俺のシャツをやるから、そいつに着替えて明日ここを出るんだ」
「わかった…ありがとな!」
男は、俺の手を強く握りながらそう言った。
しばらくして、男の顔の髭をナイフで剃ってやり、俺のシャツに着替えさせたが、その後、すでに疲労がピークに達していたのか、男はいつのまにか眠っていた。
俺も今日は疲れた。
ぐっすり朝まで眠ることにした。
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