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護身用に食事用のナイフをワークパンツのポケットに入れた。
足音は徐々に近づき、いよいよ洞穴の前で音が止んだ。
またギャングどもか?
すると
「すいません」
男の声がした。
俺は寝たふりをして黙っていた。
「あの…お休みのところ、すいません」
やけに丁重な物言いだ。
そう思って、俺は薄目を開けて、外を見た。
するとそこには、男女二人に子供一人が立っていた。
誰だ?
当然、見たことのない顔だ。
俺は起き上がって3人の方を向いた。
「はい、何ですか?こんな夜分に?」
「あ、すいません、おやすみのところ…。あの、こちらにお住まいの方ですか?」
「そうですけど?」
「あの私、ゴミ山に働きに来た者ですけど。ここで生活できるんでしょうか?」
「いや、この辺に住んでるのは俺くらいです」
「そうですか。実は戦争に巻き込まれまして。避難所にいたんですが、そこも破壊されてしまって…。命からがら家族3人で逃げてきたんです」
俺も戦争に巻き込まれてここに逃げてきた一人だ。
だが家族はバラバラになってしまったが。
男は泥まみれの服装だった。
隣にいる妻らしき女性も、男の娘らしき子供も泥にまみれてフラフラしている。
「それでどうするんですか?ここで暮らしていくとでも?」
「とりあえずは。ゴミ山に仕事があると聞いてきたものですから」
「あんた1人ならそれでいいかもしれないが、家族を抱えてということになると、かなり難しいよ。まず奥さんや娘さんは売られてしまうだろう。あんただっていつギャングの流れ弾に当たって死ぬかもわからんよ。あそこはそういう場所だ」
「はい。さっきゴミ山の近くを通りかかったら、妻と娘を攫われそうになりました。しかし今や、食うや食わずの毎日なんです。3人ともこの三日間何も食べていないんです。だからどんな仕事でもいいからやって、まずは妻と娘に何か食べさせないと。二人を死なすわけにはいかんのです」
妻と呼ばれた女性は、確かにかなりやせ細った体つきをしていた。
小さな娘の方は、もうほとんど飢餓地域の栄養失調の子供のようだった。
「俺はいつも街に出稼ぎに出ている。奥さんと娘はここに置いておいて、あんたも街に出稼ぎに行くといいんじゃないか」
「そうですか。それじゃあ一緒に出稼ぎに行かせてもらいます」
隣にいる妻と娘は、もはや意識朦朧とした状態で座っていた。
たぶん、余程の空腹状態なのだろう。
男の方も、すでに倒れそうな顔をしている。
俺は後ろにある鉄の扉を開けて、中に入った。
そこからまだほとんど食べていないチキンとクスクスを取り出した。
それを男の前に置いた。
これで俺の食料は底をつくが仕方ない。
男は俺を見て、目を潤ませたが、すぐに目の前のチキンとクスクスを、自分の娘の前に置いた。
「どうもありがとうございます!なんとお礼を言ったらよいか!さあアイシャ、早く食べなさい。ごめんな、今までひもじい思いをさせて。さあレイラも早く食べて。本当にありがとうございます!」
俺は土の中を掘り起こし、クスクスの残りを取り出した。
そいつにまた熱湯をかけて戻し、男の前に置いた。
「ありがとうございます!」
余程の空腹状態だったのだろう。
三人は目の前のチキンとクスクスを本当に美味そうに、貪るように食べていた。
これで俺の食料は底をついたし、結局今日はほとんど何も食べていないのだが、まあ何とかなるだろう。
明日は出稼ぎ仕事がないから、ゴミ山に行くしかない。
三人はここに残しておいて、俺がゴミ山に行くしかない。
だがその時、外から怒鳴り声がした。
「おい!逃げてんじゃねえよ!お前ら!」
すぐに外の方を見ると、そこにはこの間のとは違う一派のギャングたちがいた。
目の前の男の顔は見る見る蒼ざめ、すぐに横にいる妻と娘を背後に隠した。
どうやら、ゴミ山の近くで、妻と娘を攫おうとしたギャングたちらしい。
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