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ケイドロ
父はここ最近めっぽう元気が無くなった。定年退職後、まるで人生の目的を失ったかの様に、寝ては起きるだけの毎日を過ごしている。
父の名は狩谷浩二。凄腕の刑事だった。凄みの無い見た目とは裏腹に、狙った犯人は逃がさない事から、フクロウの狩谷と呼ばれていた。
父は定年間際、ある強盗事件の犯人を追いかけていた。偶然この事件の時効が、父の定年退職とほぼ重なっていたこともあり、父はこの事件を解決することこそが自分の使命の様に感じていた。
しかも犯人を佐伯という男に特定し、顔写真付きで全国に指名手配、逮捕も時間の問題というところまで追いつめていた。ところがである、結果としては父の定年退職と時効まで犯人が逃げ切ってしまった。
父はこの敗北感と退職による喪失感から、魂の抜け殻の様になってしまったのだ。そして定年から僅か五年後。早くも身の回りの事すら一人で出来なくなってしまった。
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