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まわる
住宅街を歩いていると、空き地に出会った。可愛らしい箱のような家々が並んでいる通り沿いに、突然、正方形の更地があらわれた。更地は道と道に挟まれていたから、細い筋をつなぐ広場のようにも見えた。
ここには何があっただろうか。
思い返そうとしても、更地ではなかったということしか思い出せない。そこは更地であるのだから、記憶を刺激しようにも、手がかりがない。もとよりそこには何もなかったかのような心地になる。
意識してしまった記憶の空白が、漠然とした不安に満たされていく。
ところで、私はどこへ歩いていくつもりだったのだろう。
住宅街を歩いていると、空き地はなくなっていた。可愛らしい箱のような家々が並んでいて、閑静としか形容しえなかった。
あの更地はどのあたりだっただろうか。
思い返そうとしても、この並びのどこかが更地であったということしか思い出せない。更地は家となって塞がっているはずだ。家並みはともかく、一軒一軒を覚えているわけでもない。もとより更地などなかったかのような心地になる。
空白であった記憶を満たしていた不安が、そんな空白などなかったのだと、厳然とした事実により告げられて、行き場をなくして潰れていく。ついえはしても消えはしない。わだかまっていた不安は圧縮され、反発して、膨れあがった。
この膨張には覚えがある。
かつて、この住宅街には更地があった。その更地は、かつて、一軒の家だった。
膨れあがる憂惧をいなしきれなくなった私が住んでいた家だった。
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