大山 宏文

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日本晴れの朝。  俺は仕事前に車である場所へ向かった。  足取りは重い。  アクセルは踏んでいるつもりだが、心なしか車のスピードも出ていない気がする。  家から車で10分程離れた所に団地がある。5階建て、3棟横並びで造設されたどこにでもある様な建物だ。  近くに車を路駐した。助手席に置いてある紙袋を手に持ち、2号棟の204号室へと向かう。  そこに俺の親父は住んでいる。  表側の小窓カーテンは少し開いていた。起きているのだろうか。  階段を上がり、ドアの前へと辿り着く。 溜息に近い呼吸をし、インターホンのボタンへゆっくりと人差し指を近づけていく。 「……」  人差し指で茶色いインターホンを、  ‥‥俺は手を下した。  予め用意していたメモ用紙に「お土産食べて。宏文、真紀」と書き、紙袋の中に入れてドアノブに引っ掛けた。  インターホンは押せなかった。  紙袋の中身は真紀と旅行で行った山形の桜桃ゼリーだ。親父の事はよく知らないが去年他界した母が昔、親父は桃が好きだと言った記憶が微かに真紀の記憶に残っており、俺に内緒で買っていたモノだ。  俺と同い年の妻、真紀は俺の母が亡くなってからやたらと俺と親父の事を気にかけてくる。俺にとっては余計なお世話でしかない。  土産を俺は階段をササっと降りて車を自宅へ戻し、職場へと向かった。  
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