大山 宏文

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 仕事は大手ファッション通販サイトのWEBデザインやシステム構築等、プログラミングを任されている。仕事もすっかり慣れてきて毎日これといった刺激もなく、平凡な日々を送っている。 「大山さん、これ今日のプレゼン用ですよね?」  出勤早々、隣のデスクの正英が声をかけてきた。昨日作成したプレゼン内容の資料に赤ペンで何か書かれている。 「何これ?」 「昨日部長から直しがありました、社長はこっちの方が好むって」  月に数回、各部署のプレゼンテーションが社長交えて行われている。橋爪部長に頼まれ、昨日やっと完成したページ案に修正部分が記されていた。 「ん?柄よりサイズ先に選ぶようにするの?」 「みたいです」 「あと5時間しかないよ?」 「厳しいですよね?」 「はぁ……」 「無理なら言いましょうよ、部長に」 「いいって、なんとかやってみるよ」 「……そうですか」  正英はここへ来て1年ちょっとしか経っていない新人。年齢も俺よりだいぶ若いが言いたい事はズバズバ言ってくるブレーキの壊れたような人間だ。可愛げは無いが仕事も出来るし気が利かない訳でもなく、自分には害もないので特にストレス無く一緒に仕事をしている。恐らく部長は正英の事を厄介な小僧と思っているだろうが。 「えーとー、何処から変えればいいんだ、色々ズレてくるな」 「大山さん、無理して中途半端になるくらいなら今から言った方がいいですよ」と、自分のPC画面を見ながら淡々とした口調で俺に話かけてくる正英。 「上が言ったんだからしょうがないだろう。やらなきゃいけないんだよ」 「下からの意見も伝えないと」 「下が何言ったって未来は変わらないよ」 「変わりますよ。でなくても変わるきっかけにはなるかもしれませんし、あ、会議の前に社長いつも喫煙室行くじゃないですか、そこでー」 「正英、俺らは上の期待にどれだけ応えられるかで評価されるんだよ。お前も何年か経てば俺の気持ちが分かる、と思う、はず、うん」 「……会議って何なんですかね」 「……。因みにさ、正英はサイズから選ぶ?」 「柄ですね」 「やっぱそうだよな?」  と、愚痴も交えながら会議開始ギリギリまで作業し、再考案した資料を部長に渡した。
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