大山 栄一

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 玄関で靴を履いていると、外から声が聞こえてきた。向かいに住んでいる家族だ。 〝ねぇ早く早く!〟 〝まってまって、ねぇ虫カゴはー?〟 「何してる」  ユウタが出て行かないわしを見て声を掛ける。 「…いや、別に」  人付き合いが苦手なので住人とはそこまで接しようとはしない。  この頑固な性格が人とのコミュニケーションの妨げになる事がもう分かっているので誰かと仲良くなろうとも思わなくなってしまった。家族との関係が拗れたのも根源はわしの自分勝手な――― 「栄一、行かないのか?」 「ん、ああ、行ってくる」  玄関を出ると、小さい男の子がこの改造支柱にさっそく反応した。 〝見て見てー!大きー!〟 「…おはよう、坊主」 「あ、どうも~」と後から出て来た両親がこの支柱見るや否や子供の手を取りそそくさと降りていく。 「……まぁ、怪しいよな」  池では相も変わらずミドリガメが何匹も泳いでいた。  いざ取るとなると気が引ける。臭いもあるし鋭い爪もある。これを食べる所を想像すると吐き気がしてくる。  猫も食べたんだ、これも食べるだろう…。  念のためこの日は持ってきたビニール袋に1匹だけ入れ、家に帰った。 「あー知ってる!あーなんだっけ!」  ユウタが嬉しそうに袋の中を覗く。 「いいから早く食べてくれ。トイレで頼む。骨は袋に入れて縛ってくれ」 「あ、骨も食べるから大丈夫」とまるで子供がお菓子を持って行くかの様に歩いていくユウタ。  何と無しに3人で暮らしていた頃を思い出した。
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