大山 栄一

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 翌日、下に住んでいる毛利という男が訪ねて来た。  小説家らしく取材をしたいと頼まれたが異星人の存在を知られる訳にもいかない。  しつこく要求してくる毛利を見てある案が浮かんだ。取材を受ける代わりに池で亀を取って来てもらおう。あの手足が汚れる作業は出来ればもうしたくない。    もちろん毛利は亀の生け捕りを頼まれ首を傾げていたが、一時間後ちゃんと3匹のミドリガメを持ってきた。  ユウタをトイレに潜ませ、毛利の質問に答える。適当に済ませて問題なく終わらせる予定だったがそうはいかなかった。  ユウタがトイレで声を出したのだ。  完全に聞かれた。それも不自然な言葉を大声で……。  誤魔化しきれないのを承知で嘘を言い、直ぐに毛利には出て行ってもらったが怪訝に思ったのは間違いないだろう。 しかし思い返すと何故彼が急に訪ねてきたのかも不思議だ。今まで挨拶もした事ない人間があそこまでせがむだろうか。もしかしたらユウタが来た時から何か怪しんでうちに来たのかもしれない。何れにせよ今後、毛利は要注意人物として接しなければならない。 「声を出したらバレるだろう!」  トイレのドア前でユウタに注意をする。  ドアが開くとシルクハットを被ったユウタが座っている。 「ごめん、あそうだ亀だと思ったら声がもう出てました。でも機転というのを利かせた」 「余計な事を喋り過ぎだ。なんだ、亀持って来いって」 「一石二鳥を図りました」 「その3匹しか今は無い」  亀は2匹に減っていた。 「食べたのか?」 「ええ」 「しかしどうやって食べるんだ?」 「まずはこれで殺めて、かじっていきます」 「これ?」  ユウタが人差し指を見せてくる。すると指が鋭く、キリのように変形した。 「な、なんだそれは」 「身体だけど道具。道具だけど身体。んー、あ、猿にも同じような奴がいたぞ、指が細い道具の奴」 「いないそんな奇妙な指の猿は」 「栄一、心配するな。もし今後ここを開けられたらこれで刺すから」 「やめろ…。それにもう此処に人は入れない」  その日、ユウタは夕方までに家にある本を全て読み終え、その後は何時間もテレビに齧り付いていた。
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