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真紀がすかさず反応する。
「あら?トイレに居るんです?」
「そうだ。そこが落ち着くみたいでな。そんな事より、誕生日を祝ってくれるなんて、珍しいじゃないか。どうした急に」
親父の不自然な逸らし方に疑問を感じながらも誕生日の話になったので流れは戻せなかった。
「え?あぁ、喜寿だし、一緒に食事なんてした事なかったし……って真紀も」
「でも宏文も言ってたんですよ?やっぱりちゃんと家族でお祝いしようって、いい機会ですし…ね!」
「……そうだな」
「良かった~。はいどうぞ~」とお茶を淹れた湯飲みを配る真紀が、椅子に座り、調子を上げいく。
「ねぇお義父さん、タキシードって持ってます?」
「タキシード?」
「だから要らないって」
「まだ分からないじゃない。あのですね、喜寿のお祝いにタキシードなんてどうかなーって思ったんですけど、そういうの好きじゃないです?」
「そういうのは着た事がないな」
「ほら、着ないって」
「…そっかー帽子に似合うと思ったんだけどなー」
「帽子?何の事だ?」
「この前真紀が、“たまたま”うちの雄太の散歩してる時にここ通って、で、“たまたま”そこの窓見たらしいんだけど、そしたらなんかハット被った姿を…」
「見たのかっ!!?」
親父の突然出した大きな声に、俺も真紀も固まってしまった。
「か、影を、ね?でしょ真紀?」
急に表情を変えた親父に真紀も焦り出す。「ほ、ほんと“たまたま”なんです!たまには長距離も歩こうかしらなんて言ったりして、そんな時に〝たまたま〟その御姿を。でもあれは隣の家だったかもしれないっていう、決して覗きとかそういう事じゃないん…です、ごめんなさい…」
「……」
親父は黙り込み、何か苦慮している様にも見える。真紀は親父が怒ったと思っているかもしれないが俺にはそう見えなかった。
俺はあえて掘り下げてみた。
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