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逆ナン
「個人的に?って言いますと・・今度はカメラマンなしでって言うことですか」
『そうです、私だけでもお話を訊かせてもらえます?』
「そちらさえよければ、私はいいですよ・・そういえば、カメラマンさんは先に帰られましたけど・・今日は写真?撮られました・・私には覚えが無いんですけれど・・」
『写真は十分撮らせて頂きましたわ、でも掲載には一枚しか使いませんけど・・そりゃそうと室長さんにも、お子さんいらっしゃるんでしょ・・お幾つ?・・いや何年生かな・・?』
「中一と小学校5年生と二人いますが、どうして?・・」
『男の子?・・女のお子さんかしら・・』
「どっちも、男だけど・・水沼さん、家族のプライベートだけは勘弁してくださいよ・・女房とはずいぶん前に離婚しているんだから・・」
(水沼は既に知っていた・・村田がこの研究室に来る前には、某大学の講師をしながら核分裂の研究をしていたことなど、取材の相手として社からの情報はもらっていた。勿論、家族構成もそうである)
『勿論、プライベートは記事にしませんし、今日の取材活動は既に閉店いたしましたので、ご安心ください・・』
「閉店?・・あぁ、そういう意味ですが・・水沼さんも冗談言われるんですね・・
そうですね・・それだったら次回は処理済みタンクの現場をご案内しましょう・・是非カメラをご持参ください、なにせ高さだけでも10メートルもある、凄い奴ですよ」
『だから、次回は取材という設定では無くて、村田室長の夢を聞かせて欲しいのです・・そんなのって駄目ですか?‥』
「夢ですか・・そうですね・・私の夢は岩盤のように凄く大きくて、固い岩に穴をあけることです・・それだけに一時間や二時間では語りつくせません・・それでも訊いてくれるんですか・・?」
『そう、そんな話が好きなんです・・それじゃ後日に私の都合を連絡しますが、村田室長のお休みは何曜日なんですか・・』
「えっ、休みですか?・・基本休みでも研究室にはいますが・・」
『基本的には何曜日がお休みですか?』
「基本、現場は休日が有りません。なにせ今は緊急事態なので」
『めんどくさ・・』
(水沼は小さくまるで独り言のようにボヤいていた)
『それじゃ、わたしから連絡しますので、携帯・・教えていただけます』
「えぇ、携帯?・・この研究室の電話じゃダメなんですか?」
『分かりました、先日アポ電した番号ですね・・もしかして室長は携帯、持っていらっしゃら無いの?』
「いいえ、持っていますよ・・会社のが一つと、わたし個人のが一つ・・二つ持ってますよ」
『じゃ、その個人の番号教えてくれませんか・・それは駄目・・ですか?』
「どうぞ・・これです」
(ほんと、めんどくさい室長ですよね・・これで核から人類が守れるんですかね)
村田の携帯番号を控えた水沼記者は、飛ぶようにして研究室を後にした。
その水沼の仕草や話振りは中途半端な男性よりも、よりダイナミックだったのがとても印象的だった。
しかし、頭はよく切れるし・・改めて顔を見たとき、長いまつ毛に大きく澄み切った瞳は、まるで少女雑誌の男性役のようでもあった。
『室長・・お疲れ様でした・・結構長い時間でしたよね・・』
(研究室に戻ると、二人のスタッフが声をかけてきた)
「それでも、まだ訊き足りないようで、次回は私の夢を訊かせろ、って捨て台詞、言って帰ったもんね」
『夢ねぇ・・えぇ?・・室長の夢を・・室長!・・室長が今独身だってことその記者さん知っていました』
「そういえば、家族のこと訊いてたかな・・」
『室長・・今度は何処で取材するって言ってました?・・』
「後日、彼女から電話するって・・携帯番号も聴かれたよな・・」
『室長・・それって逆ナンじゃありませんか・・』
「へぇ・・そうかな?・・ところで逆ナンって何だ?・・」
『室長、だめですよ・・今更とぼけたって・・それから?・・』
「それから・・そうだ休日はいつか?とも尋ねられたかな・・」
『室長やりましたね・・彼女美人だったのに何も感じなかったのですか』
「・・・そうか、あんなのが美人っていうのかね?・・」
『室長、聞こえてますか・・室長・・』
〈第一部 完〉
このドラマはフィクションであり、登場人物並びに施設名は全て架空の名称です。
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