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放課後。私は音楽室に向かった。趣味で始めたピアノ。ピアノを弾くと気分が落ち着く。
初めて尽くしの私には息抜きが必要。帰る前に弾いていこう。
私はあの曲を弾く。幼い頃K町で迷子になった私。泣きじゃくる私を助けてくれた女の人。その人がピアノで弾いていた曲。私は楽譜もないこの曲を、記憶だけで、悪戦苦闘しながらマスターしたのだ。
この曲は軽快に弾ける。嬉しい気分になりながら曲を終えた。
「月島さん?」入り口から声?わ、私ったら、夢中になってしまって、誰かが聴いているなんて全く気づかなかった。
「嶋田君?」振り向くと、学級委員長が拍手しながら聞いていたのだ。
「なんでこの曲を?」私は経緯を説明する。
「あ、あの時女の子?」嶋田君は思い出したかのように私に尋ねてくる。
思い出した。迷子になって泣いていた私に話しかけてきた男の子。私の手を繋いで連れていってくれたお家でピアノを聴いた。私の家まで手を繋いで帰ってくれた。
私は小さい頃に助けてくれた恩人に、再び出会うことが出来たのだ。
「月島さん、K町だよね。一緒に帰ろう。」
暗くなってきたので、彼は一緒に帰ることを提案してくれた。
私は男性が苦手だ。クラスの男子から痛烈ないじめにあった私は、男の人に接することは出来ない…。はずなのに。「はい、お願いします。」男性からの提案にあっさり了承してしまった。
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