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二人で廊下を歩く。
彼を見る。私より20センチ位背が高いので、下から見上げるようになる。
「月島さんは顔を隠してるの?」
「どうしてですか?」
「見上げてる月島さんは今髪が上がって顔がはっきり見えるから。」
「!!!」なんてこと言うのよ。この人は?
確かに髪で顔を隠しているのは事実だ。目立ちたくないし、月島の令嬢として危険を回避してきたから。
「綺麗な顔立ちなのにもったいない。」
「キャッ。」またもや想定外の言葉に、階段を降りかけていた私は足を踏み外してしまった。
前から落ちる。階段の踊り場がみるみる近づいてくる。
あっダメだって思った瞬間、目の前が真っ暗になり、落下がとまった。
恐る恐る上を見る。嶋田君の顔がそこにあった。
どうやら落下する私の先に回り込み、私を抱き抱えながら、右手一本で、落下をとめたようだ。この人は凄い。
あっ、茜ちゃんの聞いた。嶋田君は女性に触ったら呼吸困難を起こすって。
彼を見る。私を見て、にかっと笑い、「大丈夫?」といいながら抱きしめる左手に力が入る。
「貴方こそ。それに呼吸は?」
自分の体を見つめて、「あれ?平気だ。」なんて。
「私を女の子と思ってないんですか?」助けてくれた彼に酷いことを言ってしまった。
「いや、ならすぐに放り出すさ。女の子を抱きしめるなんて初めてだから…。もう少しいいか?」
「!!!」私は真っ赤になる。この人は…。私を女の子として見てくれてる?
「月島さんこそ男ダメなんだろ?俺は見られてないの?」
はっと気づく。男性に触られたら気を失っていたのに…。この人の抱っこ暖かい。心が安らぐ?
「私も初めてです。こんなに抱きしめられるなんて。」
「あっ、ダメだったね。」といって離れようとする彼にしがみつく。
「もう少しこのままで。」
彼の胸に踞る私の頭を撫でてくれる。なに?私どうなっちゃうの?
暗くなった夜道を私をおんぶして歩く嶋田君。足を捻った私をおんぶしていくと譲らない彼。
私が頑なに断ると、なんと彼は私をお姫様抱っこして歩き出すではないか。
私は真っ赤になって下ろしてくれるように頼むが聞く耳持たない。
誰かに見られる前に、私は嶋田君のおんぶの案に乗るのであった。
「ごめんな、遅くなってしまって。」
「私こそ、貴方の提案を最初から受けていたら…。ごめんなさい。」
「いいよ。」といって軽快に進んでいく。
彼の背中の上で。
彼の背中にくっついて。
私は黒く染まっていた心に、ひと欠片の光が差し込んだ気がした。
これが私が将来共に生きる男性との出会い、再会であった。
完
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