これが私たちの出会いです。

8/8
前へ
/9ページ
次へ
二人で廊下を歩く。 彼を見る。私より20センチ位背が高いので、下から見上げるようになる。 「月島さんは顔を隠してるの?」 「どうしてですか?」 「見上げてる月島さんは今髪が上がって顔がはっきり見えるから。」 「!!!」なんてこと言うのよ。この人は? 確かに髪で顔を隠しているのは事実だ。目立ちたくないし、月島の令嬢として危険を回避してきたから。 「綺麗な顔立ちなのにもったいない。」 「キャッ。」またもや想定外の言葉に、階段を降りかけていた私は足を踏み外してしまった。 前から落ちる。階段の踊り場がみるみる近づいてくる。 あっダメだって思った瞬間、目の前が真っ暗になり、落下がとまった。 恐る恐る上を見る。嶋田君の顔がそこにあった。 どうやら落下する私の先に回り込み、私を抱き抱えながら、右手一本で、落下をとめたようだ。この人は凄い。 あっ、茜ちゃんの聞いた。嶋田君は女性に触ったら呼吸困難を起こすって。 彼を見る。私を見て、にかっと笑い、「大丈夫?」といいながら抱きしめる左手に力が入る。 「貴方こそ。それに呼吸は?」 自分の体を見つめて、「あれ?平気だ。」なんて。 「私を女の子と思ってないんですか?」助けてくれた彼に酷いことを言ってしまった。 「いや、ならすぐに放り出すさ。女の子を抱きしめるなんて初めてだから…。もう少しいいか?」 「!!!」私は真っ赤になる。この人は…。私を女の子として見てくれてる? 「月島さんこそ男ダメなんだろ?俺は見られてないの?」 はっと気づく。男性に触られたら気を失っていたのに…。この人の抱っこ暖かい。心が安らぐ? 「私も初めてです。こんなに抱きしめられるなんて。」 「あっ、ダメだったね。」といって離れようとする彼にしがみつく。 「もう少しこのままで。」 彼の胸に踞る私の頭を撫でてくれる。なに?私どうなっちゃうの? 暗くなった夜道を私をおんぶして歩く嶋田君。足を捻った私をおんぶしていくと譲らない彼。 私が頑なに断ると、なんと彼は私をお姫様抱っこして歩き出すではないか。 私は真っ赤になって下ろしてくれるように頼むが聞く耳持たない。 誰かに見られる前に、私は嶋田君のおんぶの案に乗るのであった。 「ごめんな、遅くなってしまって。」 「私こそ、貴方の提案を最初から受けていたら…。ごめんなさい。」 「いいよ。」といって軽快に進んでいく。 彼の背中の上で。 彼の背中にくっついて。 私は黒く染まっていた心に、ひと欠片の光が差し込んだ気がした。 これが私が将来共に生きる男性との出会い、再会であった。 完
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加