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10月27日(日)
空青のアパートにて。
空青というのは俺の幼馴染みで、主にゲーム関係のイラストレーターをやっているやつです。名前は空青と書いて『くうせい』と読みます。
以下、今日の空青との会話です。
「くぅ? いる?」
「ああああああああああああ、あらたあああああああ!」
「おわっ、なんだよ。急に飛び付いてくんなよ」
(くぅは、いつも大体こんな感じです。俺が部屋に寄ると、いつも待ってましたとばかりに飛び付いてきます)
「どした? また、なんか悩んでんのか?」
「昨日、仕事の打ち合わせで、どうしても会ったことのない人に会わなきゃならなくて、前に自己紹介がしんどいって言ったら、おまえ名刺作ればいいじゃんて言ったからぁ、自分で名刺作って持ってったんだよ」
「おう、いいじゃん」
「そこまでは良かったんだけどさぁ、俺、名前にルビ振るの忘れちゃって……俺の名前、一発で読める人なんか地球上に存在しないじゃんか。名前だけならまだしも苗字だって珍しいし」
「いや、地球上って。一人くらいはいるだろ」
「いても死ぬまでには出会えないよ。それでさ、名刺出したらやっぱり相手の人は固まっちゃって、すげえ頑張って、かぶらぎ……そらおさんですか? って言ってくれたんだよ」
「おお、かぶらぎは正解してんじゃん」
「俺……なんか申し訳なくて。だって、かぶらぎでやめとけばセーフなのに、頑張って名前のほうまで読んでくれようとして不正解って、なんか俺言えなくて、昨日一日そらおになった」
(くぅは、いつもこんな調子です。とてもネガティブで人見知りでコミュ障です。その反動かどうかはわかりませんが、俺にだけはめちゃくちゃ喋ります)
「否定出来なかったんだ?」
「うん。だって、俺ごときが、俺みたいなゴミみたいな人間に否定されるって、とんでもない屈辱じゃん。だから、もうそらおでいいかなって」
「ゴミって……。でも、後でそらおじゃなくて、くうせいだってその人が知ったら、もっと気まずいじゃん」
「そう! そうなんだよ! 今後、その人に会う予定は今のところないんだけど、もしネットとかで、そらおじゃなくてくうせいじゃんてバレてたらどうしようって、昨日一睡も出来なかった……」
「そもそもさ、その人はくぅと仕事するのに、くぅの名前すら知らなかったってことだろ? そんなやつのことなんか気にする必要ないよ。そっちのほうがゴミだわ」
(ブラックな俺が出てしまいました……反省。でも、くぅと仕事するのに名前も知らないとか有り得ないだろ。大体、なんで会う必要があったんだ?)
「それに、イラストの仕事はくぅって名前でやってるじゃん。なのに、そらおって読むとか、そいつセンスの欠片もねえな。くぅまできたら、せいしかないだろ。だから、くぅは悪くないよ」
「そ、そうかな? で、でもでもでも、名前知られてて当たり前みたいな態度も良くないと思うし、俺がルビ振り忘れたから……」
(こんな感じで終始くぅは落ち込んでいました。くぅを落ち込ませたやつ許すまじ!)
と、まあ、今日はこんな感じでした。
ちなみに俺はくぅが好きですが、くぅが俺をどう思っているかはわかりません。子供の頃からの付き合いなので、くぅにとって俺は保護者のような存在なのかもしれませんが、俺にとってのくぅはブサかわいい犬のようで……いや、断じて不細工ではないですが、愛嬌があると言い換えておきます。
とりあえず今から、くぅの仕事状況を調べたいと思います。ネットストーカーではありません。心配だから把握しておきたいだけです。
それでは皆さん、おやすみなさい。
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