11月の日記

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 11月1日(金)  もう11月ですね。こんばんは。新です。  今日は空青との会話ではなく、うちのバイト君が興味深いことを言っていたので、その会話を書き起こしていきたいと思います。 「店長、そのバングルどうしたんですか?」 「あー、これ? 幼なじみが誕生日プレゼントにくれた」 「へぇ。誕生日、昨日だったんですか?」 「いや、四月」 「はい? 今もう……今日から十一月ですけど?」 「いいんだよ。そういうやつなの」 (バイト君は、小野寺開(おのでらかい)君といって、ミュージシャンを目指す夢多き若者です。いや、俺とみっつしか変わらないけど、ミュージシャンを目指して駅前で歌ってるとか、俺には眩しくて仕方がありません) 「ちょっと見せてもらってもいいですか?」 (言うや否や、小野寺君は俺の手首を掴みあげ、鈍く光る銀のバングルをしげしげと眺めました。俺ほどじゃないけど、なかなかのイケメンです。男同士とはいえ、やはり整った顔が間近にあるとドキッとしてしまうもので、くぅも俺にドキッとしてくれる瞬間があったりするんだろうか? と、小野寺君の顔を見ながら思いました) 「幼なじみって女でしたっけ?」 「ん? 違うよ。前にも話したでしょ。イラストレーターやってる空青」 「あー、はいはい。ですよね」 「なに? なんかおかしい?」 「いえ。でも、幼なじみに名前入りのアクセサリーって、意味深だなぁと思って」 「どういう意味?」 「じゃあ、例えば俺が店長の幼なじみだったとして、名前入りのものプレゼントするとしたら、なに選びます?」 「そうだなぁ……ギターのピックとか?」 「ですよね。小野寺開のピックだってわかるようにってことじゃないですか、それは」 「ん、うん?」 「アクセサリーって身につけるものでしょう? 身につけるものに名前入れる必要ありますか? 恋人ならまだしも、幼なじみに」 「いや、それはさ。さっき、小野寺君が言ったように四橋新のバングルだってわかるように……」 (言いながら俺もおかしいなと思いました。外す時があったとして、一体誰に対するアピールなんでしょうか。最悪、なくしてしまった時には手元に戻ってくる可能性が高いという利点はありますが、基本的に本人の名前なんて入れる必要はなかったんじゃないでしょうか) 「俺には、このバングルを贈った人物の自己主張のように思えますけどね。普通、名前入りのアクセサリーしてたら恋人からのプレゼントかな? って思うでしょ。こいつは俺のものですよっていう」 (本当にそうなんでしょうか。そもそも名前を入れることになったのは、青衣さんからの口添えがあったからで、そこにくぅの意思はあるんでしょうか。そう疑問に思ったので、俺はそれを小野寺君にぶつけてみました) 「一緒に選んでくれた子がいるみたいで、その子が名前入れたらいいんじゃないかって提案したらしいんだけど」 「でも、幼なじみでしょ? 普通の感覚だったら、幼なじみに対して名前入りのアクセサリーなんか照れくさくて無理っていうか、若干気持ち悪いでしょ? あ、俺がキモいって思ってるとかじゃなく、一般論ですよ」 (小野寺君は、やけに幼なじみを強調してきますが、幼なじみといってもその関係性は色々で。特に、くぅのような常人とは違う感性を持った人間ならば、幼なじみに名前入りのアクセサリーを贈ったとしても、おかしくはないような気がします) 「気になるんだったら聞いてみたらどうです?」 「なにを?」 「俺のことどう思ってる? って」 (小野寺君の目が三日月のように細くなり、どこか面白がっているようでした。彼のこういう飄々としたところは嫌いじゃないですが、若干イラッとします) 「そういう君はどうなの? たまに来てるでしょ。真面目そうな年上イケメン」 「あー……冨樫さんね」 「お友だちって感じには見えないけど?」 (小野寺君は答えませんでした。答えないということは、ただの友だちではないんでしょう)  皆さん、どう思います? いや、小野寺君と冨樫さんのことじゃなくて、バングルの意味。どちらにしても、あまり期待はしないでおこうかと思います。くぅのことだから、深い意味はない気がするし、青衣さんに勧められたからそうしたっていうだけのような気がします。  今日は空青の部屋には行ったんですが、仕事がたてこんでいるようで、あまり実のある会話は出来ませんでした。  それでは、また明日。
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