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11月2日(土)
こんばんは。新です。
今日は空青にコーヒー豆を持っていきました。今年の空青の誕生日にコーヒーメーカーをプレゼントしたんですが、出不精な空青はすぐに豆を切らしてしまうので、俺が持っていってミル挽きし特製ブレンドに仕立てあげました。
プレゼントしたコーヒーメーカーは割と操作が簡単で、味も申し分ないと思うのですが、空青は俺が淹れたほうが美味しいと言ってくれます。俺が淹れるもなにも、抽出作業をしているのはコーヒーメーカーなんですが。
今日はちょっと、いや、かなり大変なことになりました。今、冷静にコーヒーがどうこう言ってる自分が信じられないです。
では、今日の空青との会話です。
「あ、新に、おね、お願いがあるんだけどっ」
「お願い? いいよ、なに?」
「こ、今度、恋愛シミュレーション系ゲームのイラストを担当することになって」
「おお、いいじゃん。くぅの描く女の子かわいいし」
(くぅの描くイラストは、いかにもアニメ! って感じではなく、描写が繊細というか、とにかく綺麗なのです。髪の毛一本一本までもが、動きだしそうなくらい丁寧に細かく描きこまれていて、イラスト一枚描くのにどれだけの時間がかかるのだろう? と、俺は感心しかありません)
「それで、そのっ……恋愛ものだからさぁ、その……き、き……キス、うわああああああ、ごめんなさいごめんなさい! 俺みたいなキモいやつが、キスなんて単語を発してすみません!」
(いや、うん。かわいいんだけど病気だよね、ここまできたら)
「くぅ、落ち着いて。大丈夫、俺しか聞いてないから」
「う、うん……それで、俺そういうの経験ないから、うまく描けそうもなくて……だから、振りっていうか真似だけでいいから、新……その、俺に……」
(この時の俺は、さぞやあほ面だったと思います。要するに真似事でいいから、俺にキスしてほしいってことでしょ? 俺得! って思わないわけじゃないけど、それはなんか違うっていうか……とにかく俺は、そんなことで事務的に、例え真似事であっても、くぅに触れたくはなかったのです)
「え、いや……ほら、動画とか、そういうの観たらいいんじゃない?」
「わ、わかるよ? わかるわかるわかってる。けど、自分の身で体験しないと、リアルに欠けるっていうか」
(突然のプロ意識! 俺、こういうの弱いなぁ。そんなふうに言われたら断るこっちが悪みたいな感じがしません? しかも体験て言っちゃってるし。真似事じゃ済まないやつじゃん)
「いや、でもさ。絵って見て描くもんでしょ? 例えば、なんていうか……花を描くとしたらくぅは花を見て描くわけで、花そのものにはなれないでしょ?」
(もはや支離滅裂です。くぅが言っているのは、花に例えたら見て触って匂いを嗅いでっていうことなのに……我ながらテンパりすぎて頭の悪い例えをしてしまったなと反省しています)
「新が嫌なのはわかるけど……そうだよね、嫌だよね……俺なんかに真似とはいえキスするとかキモいよね……」
(この時のくぅは、なんていうか……いつもと違って見えました。なんだろう? 同情を引いて、こっちを折れさせようとしているような……あざとい女子がよく言う「どうせ私なんか」っていう本当はそんなこと思ってないだろ的な。いや、くぅに限ってそんなあざとい真似をするわけがないですが、なんとなく、そんなふうに見えたのです)
「と、とりあえず一回なんか動画見て描いてみたら? それで、やっぱりうまく描けないっていうなら、俺も考えるし」
「ほんと?」
「うん」
「わかった。じゃあ、明日までに描いてみるから……明日、絶対来てよ?」
「う、はい」
(くぅは、小悪魔だったのでしょうか? なんだか俺をじとっと睨む顔が、そんなふうに見えました)
というわけで、キスの真似事は回避したわけですが、くぅの様子がいつもと違って見えて少し怖かったです。明日には、いつも通りのくぅに戻るかな? イラスト、うまく描けているといいのですが……。
それでは、おやすみなさい。
また明日。
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