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「…邪魔だ。俺の前を横切るなよ」
今年の春から、金持学園の新たな名物となった、通称”大名行列“。
しかし、今朝の様子はいつもと違っていた。
艶やかに染められた金色の髪。冷ややかな目元は猫のように鋭いが、その整った相貌はどの人間も手放しで褒め称え羨望するほど麗しい。
まるで天使と氷が交わって生まれたような、そんな形容が相応しい男だ。
その男、東山彼方が、眉間にしわを寄せ目の前の人物を睨む。
小石に躓いたのか、ただ転けたのか。理由は分からないが、東山彼方の進む道を遮るように男子生徒が倒れ込んだのだ。
「っ…ご、ごめん!悪気はなかったんだ!」
男子生徒は慌てて立ち上がる。
自分にタメ口を使った男子生徒の胸ブローチを彼方はチラリと見た。自分より1学年上、青色のブローチは2年生だ。
自分の事は当然知っているだろうに。彼方は溜息を吐きたい気分になった。
「先輩、」
彼方は表情を一変し、ニコリと笑う。すぐ側にいた取り巻きの女子生徒がうっとりと頬を赤らめた。
「…な、何?」
男子生徒も若干頬を染め、目線をピクピク動かしながら言う。自分がついさっきした行為は、一瞬の内に頭の中から消え去った。
「気をつけて」
彼方の手が、男子生徒の肩に伸びる。息つく間に距離が無くなり、男子生徒の耳元で彼方は笑った。
「あんたん家なんて、すぐ潰せんだからな」
男子生徒の喉がヒュッと音を立てて締まる。彼方はポンポンと軽く肩を叩いて、そのまま歩いて行ってしまった。
ゾロゾロと取り巻きが続く。クスクス、と男子生徒に嘲笑を向けながら。
背後の気配が過ぎ去るのを感じ、男子生徒は力が抜けたように座り込んだ。気分が悪い…自分はなんて事をしてしまったんだろう。
東山彼方に目をつけられた。東山製薬に喧嘩を売った。親になんて言えばいい。
東山彼方の発言はただの売り言葉ではなく、実行力を伴った脅しである。東山製薬と比べたら自分の会社はとても小さなものだ。
おまけに東山家は1人息子を溺愛している事で知られている。
簡単に想像できる、自身の未来を考え背筋がゾッとした。
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