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レジに進むと、自然と橋水が手を離した。会計をする為だ。当然だった。
繋がれていた手は一方的に橋水が握っていただけで、彼方は握り返していない。拘束されていた気分だった彼方は、その呆気なさに喪失感を抱いた。
「ありがとぅございました〜」
店員が頭を下げる。沸いて降ってきたようなイケメン2人組に、店員はホクホク顔だった。
しかも2人が可愛らしく手を繋いで入店して来た事も知っている。眼福だなあと心の中で拝んでいた。
そんな事を露知らず、橋水は笑顔でお礼を言うと、2人は連れ添って店を出た。
大方の物は既に買い揃え、そろそろ帰るのかと彼方が思っていると、しかし、橋水は「少し付き合って」と彼方に声をかけきた。
今までのお洒落なブランド店とはうって変わって、2人がやって来たのは、玩具コーナーだった。カラフルな商品が多く並んでいて、彼方は初めて見るその光景に胸が高鳴った。
「ここ動物の玩具も売ってるんだよ。ハナの買ってくるからちょっと待ってて」
「俺も行く」
彼方の好奇心に満ち溢れた顔が橋水の目に留める。「あ、そう」橋水は意外そうに了承した。
「アイツはどういうのが好きなんだ?」
「フリスビーとボール。あと音が出る物は大体好きだよ」
橋水の横で、彼方も陳列された商品を手に取った。ゴム製のボールの中にカラカラ音が鳴る玩具が入っている。
こういうので良いのか?彼方は首を傾げた。
「うん、それ好きかも。いい?東山」
橋水が彼方の手元を覗き込み、手を差し出してくる。だから近い、と彼方は思う。橋水の髪が頬を撫で、ぞくりと鳥肌が立った。
「あ、あぁ………バイト代が出たら返す。さっきの買い物もそうだが」
橋水は首をひねる。
「良いよ、全部必要品だし」
そっと彼方の手から玩具が抜かれた。もう既に数個入っているカゴの中を整理しながら、橋水が言う。
「ハナも東山の事好きだから、東山の為に使ったら嬉しいと思う」
だから可愛がってね。と付け加えられた。彼方は頷く。帰ったら頭でも撫でてみようと心に決めていた。
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