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周りの野次馬からの哀れみと蔑みの視線が耐え難く、男子生徒が頭を抱え込む。すると、チョンチョンと腕を突かれた。
男子生徒が億劫な気持ちで顔を上げると、黒髪の男前が此方を覗いていた。どこかで見た顔だと内心首を傾げる。
「…深刻そうなとこ悪いけど、どうせすぐ忘れるぞ」
男が言う。ハスキーで色気を感じる声だ。
男子生徒は今度こそ本当に首を傾げた。なんの事だ、と気怠そうに首を摩る男を見上げる。
男は男子生徒の反応に、面倒くさそうに一度口を噤んだが、
「…さっきの。東山の事は忘れていいって事。あ、もうバイバイ先輩」
親切にも男子生徒に目線を合わせる為に膝を折っていた男が立ち上がる。随分と背が高く見えた。
呆然と、男が去っていく後ろ姿を男子生徒が見つめると、男の行く先に東山彼方が壁を背にして立っているのが見えた。
男子生徒の背筋がまたしても寒くなる。
あ、思い出した。男子生徒はポツリと言う。
自分に話しかけてきた男は、ついさっき見た、東山彼方の取り巻きの中の1人だ。
…これ、別の意味で目をつけられたんじゃないか。
こちらを見る東山彼方の表情は存外険しくて。男子生徒は目眩がした。
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