東山彼方という男

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昼休み。クラス1-Bでは、これまた見慣れた風景が広がっていた。 東山彼方の周りを囲む多くの机と人。 窓際の1番後ろの席に位置する彼の席の周りには、クラスの半分程の机が集まり、その上女子生徒が持ち寄ったお弁当が卓上に並ぶことで、一種のパーティーと化していた。 またわざわざ他クラスや他学年から来た生徒もおり、ことの大きさが窺えるだろう。 ワイワイ。ガヤガヤと。大賑わいの取り巻き達の中、彼方はそんな賑わいなど意にも介さないとばかりに食事をしていた。 彼の箸使いは非常に上品なもので、一部の女子は自身の昼食をそっち退けで、惚けるようにそれを眺めている。 「…この卵焼き美味いな」 ボソリと彼方が呟けば、水紋が広がるように一気に静けさが広がった。 その中で、髪を茶髪に染めた女子生徒が1人嬉々として手を挙げて、 「わ、私ですっ…!東山様!」 周りの女子生徒を押し退けて彼方の側に近寄る。他の女子生徒は悔しそうに唇を噛んだ。 「明日も食べたい」 「は、はい!!!是非!」 女子生徒が悲鳴に近い声で返事をすると、彼方は顔を顰めた。煩いと、無言の内に語っている。 それを合図に黙って見ていた他の女子生徒達が、その女子生徒の腕を掴み、そこから引きずりだす。 そのままギャーギャーと言い合いながら、教室から出て行ってしまった。彼方は我関せずでお弁当をつついている。 彼方が再び昼食を再開した事で、取り巻きたちも賑やかさを取り戻し、先程と同じような光景が広がった。 彼方の存在は、まるで人というオーケストラを指揮する王様のようだった。
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