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その異様な光景も、しかし彼方は当たり前のように受け入れていた。
自身の周りに集まる人も、鬱陶しいと思う事はあれど、自分だから仕方がないという認識でいる。
内面や成績、親の職業にすら触れなくても、この容姿だけで人が集まる。それは彼方自身わかり切っている事だ。
だが、容姿にだけ釣られてくる人間に、彼方はほとほと興味を持てない。故に、今集まっている女子生徒にも、微塵の興味も湧いてはいない。
「…これ美味いな」
女子生徒の手作りには珍しい、大きなステンレス製の弁当箱。その中のこれまた珍しい日の丸弁当のお菜である唐揚げを食べて、
その美味しさに彼方は目を瞬かせて驚いた。
シェフにでも作らせたのか。ニンニク風味のタレが良く染み込んでいて、肉が非常にジューシーでホクホクだ。これはまた食べたい。
3個全ての唐揚げを口の中に掻き込んで、そこで彼方は気づいた。
静かなのはいつもの事だが、常なら食いつかんばかりに挙がる手と声が、今回はまだないことに。
「…誰だ?これを作ったのは」
この昼食の習慣が出来て、初めて彼方自身で挙手を催促した。取り巻きがザワつく。彼方が催促してもなお、誰も出ようとしない
「……誰もいねえのか?」
再び問う彼方の声色に不機嫌が混ざる。
すると、取り巻きの一人が、コソコソ噂話をするボリュームで「…てかあれ、橋水のじゃね?」と隣の男子生徒に言った。
目敏く彼方がそれを見つける。
「おい、お前なんて言った」
指名された男子生徒は肩をビクッと震わせ、反射的に立ち上がり姿勢を正すと
「あっええっと、橋水って奴が…今、トイレ行ってて…確かそいつの弁当箱に、似てるなぁって…」
しどろもどろに男子生徒が答える。彼方はその見知らぬ名前に眉を潜めた。
「……いつ、帰ってくるんだ?」
いや、それは分からないだろと男子生徒が内心突っ込む。だが、不機嫌を現にする彼方に、せめて大か小か聞いておけば良かったか、と見当違いな後悔をした。
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