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その時、ガラリと扉を開け、全員の注目を一心に浴びて、1人の男子生徒が帰って来た。
男子生徒は、皆んなが一斉に自分を見るので、何事かと不思議そうにそのパーティー集団を見返している。
「はしみずぅぅぅうう!!」
身の置き場が無く、気まずそうに立っていた男子生徒は、まるで主人の帰りを待つ犬の如く橋水と呼ばれた男子生徒に飛びつく。
橋水…?彼方の唇がその名前をなぞった。
彼方は橋水という名は初耳だった。今日まで橋水という男の姿は一度も認識していないが、今日だけで二度も認識している。
確か今朝、自分の後をついて来ず、あの失礼な男の元へ向かった男だ。
彼方の中で、橋水が完全に記憶された。
「…なあんだよ、鬱陶しい」
橋水は腰に引っ付く男子生徒をそのままに、引き摺りながら自身の席に近づくと、あれ?と首を傾げた。
「俺の弁当は?」
コレぐらいの。手元で弁当箱の形を作って見せる橋水。男子生徒が説明しようと、橋水に耳打ちした時
「この弁当、明日も作れ」
それを遮るように、彼方が言った。その手の中には橋水が探しているであろう弁当箱がある。もう白米以外は既にない。
橋水はすぐに状況を察した。自分の弁当を貢物だと勘違いして誰かが持って行った事。そしてその弁当を彼方が食べ、気に入ってしまった事。
あーあ。自身の昼食抜きが決定し、橋水は心底萎えた。自分も取り巻きをやっているが、弁当を捧げる気は無かったのに。
「返事は?」
彼方が聞く。聞いている割には、有無を言わさない凄みがある。
「…わかった。材料が揃えば」
橋水がポリポリ髪を掻く。おいおい、と男子生徒が少し焦った様子で橋水の服の裾を引っ張った。
男子生徒の反応通り、そのような曖昧な返事は、普段なら許されない所ではあるが、あれだけ美味しい唐揚げなのだ。特別な材料を使っているのだろうと、彼方は推測した。
故に、「ああ」了承の返事だけし、席に座って残りの白米を食べ始めた。
周りの取り巻き達は皆ポカーンとした。誰も彼方の思考を知る由もないのだ、当然である。
唯一橋水だけは、弁当が完全に戻ってこないことが決定し、ガックリ肩を落とした。
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