《69》

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 15歳で初陣というのが早いのか遅いのか、信康は馬上で考えてみたが、よくわからなかった。  岡崎城から東に3里(約12キロメートル)行った場所で武田軍が城砦を築こうとしているのだ。それを潰す為の出陣だった。 左に石川数正、右に平岩親吉(チカヨシ)がついている。どちらも信康の後見人である。 「良いですか、若殿」 馬を寄せてきて数正が言う。 「敵との遭遇が近まれば斥候を放つのです。野戦に於いて一番警戒すべきは埋伏なのです」 「わかりきった事を一々言うな」 信康は前を見据えて言った。もう少し進めば左右を森に挟まれた路になる。兵を伏せるには適した場所だ。信康は3騎、斥候を走らせた。 「少ないです」 駆け去る斥候の背中を睨み、数正が言った。 「眼を増やさねば見えぬ事もあるのですよ」 「うるさいぞ、数正」  信康は馬脚を早めた。冷たく、淡々と物を言う石川数正の事が信康は苦手だった。どちらかと云えば明朗な性格の平岩親吉と気が合う。 「尖りなさるな、若殿」 馬を並べ、親吉が笑いながら言う。 「誰もが待ちわびた英傑徳川信康の初陣ですからのう。数正も逸る気持ちを抑える事が大変なのです。それでわかりきった事でも言ってしまうのです。許してやってくだされ」  信康が岡崎城の城主になったのは3年前だった。父、家康から城を譲られるような形で城主になった。 本当は浜松城に入りたかった。岡崎城に隣接する他家は尾張の織田だけである。織田は同盟国だ。岡崎城に居てはいくさに臨む事はほぼ無い。幼い頃から信康は1日でも早くいくさ場に立ちたいと思っていた。
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