《86》

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 あっという間に、昌豊の一隊が消し飛んだ。 「原盛胤殿、真田昌輝殿、内藤昌豊殿、討ち死に」 前方から来た騎馬が勝頼に注進を入れる。 「第一陣、第二陣、ほぼ総崩れ。前衛を指揮する諸将は皆、撤退すべし、と口を揃えております」 「前進だ」 勝頼は言った。 「柵はいくらか倒しているのだ。敵陣深く攻め入り、信長の首級をあげる」  破裂音は止む気配がなかった。設楽ヶ原に屍体が塁塁と積み上がった。連吾川の畔に屍体の堤防が出来ている。  騎馬に周囲を固めさせて、勝頼は屍体を馬で踏み散らしながら進んだ。  鉄砲など認めるわけにはいかない。最強は騎馬、武田騎馬軍団だ。  柵を引き倒し、何騎かは敵陣の中に侵入できている。だが、そこから先が進めない。徳川軍の本多忠勝が陣内を動き回り、侵入に成功した騎馬をことごとく打ち倒してしまうのだ。  勝頼が設楽ヶ原に兵を進めたのは早朝だった。いつの間にか陽が中天に掛かっている。随分長い刻、争闘していた。侍大将の討ち死にの報告と撤退の進言が続々と勝頼の元に飛び込んできた。1万いた騎馬はもう3千を切っている。  勝頼は弱気になりそうな自分を鼓舞し、前へ進み続けた。これがあの武田騎馬軍団か、と疑いたくなるほど前進は遅々としていた。馬が鉄砲に怯え始めているのだ。 「申し上げます」 伝令の騎馬、背後からだった。 「鳶ヶ巣山に築いた砦がすべて陥落しました。主将である河窪信実殿以下、守将全員討ち死に。敵はそのまま長篠城攻囲軍を攻撃。攻囲軍もほぼ全滅。高坂昌澄殿、討ち死に。更には有海に駐屯する我が軍の補給隊も襲われております」  勝頼は振り返った。鳶ヶ巣山に煙が上がっていた。
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