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第40話 森が燃えている
「そんな、森が森が燃えている――」
エメラルドが呆然と森から上がる火の手を見つめつつ、呟いた。かなり広い森であり燃えているのは森の一部だ。だが、見ている限りかなり火の手が回るのが早い。
「エメラルドしっかりしろ! まだ、あの位置なら大樹は無事な筈。それに皆だってきっと大丈夫だ! 君が取り乱してどうする!」
クローバーがエメラルドの肩を揺すり諭すように言った。しかし大樹? どうやらあの森には何か大事なものがあるようだ。
「私がいない間に、こんなことになるなんて……」
マイリスが表情を曇らせた。唇を噛み締め悔しそうにしている。
「後悔すんのは後にしぃ。それに、あんたがいようといまいと森は狙われてたんやろ。だったらこれからどうするかや」
「さすが姐御! 言葉の一つ一つに重みと信念を感じます!」
「アイリーンは相変わらずカラーナにべったりにゃん」
ニャーコが呆れたように言った。まぁ今に始まったことでもない。
「とにかく、俺達は今できることを全力でやろう。これは自然災害じゃないわけだし、森を燃やしている連中を見つけて倒していかないと」
勿論燃え広がりつつある火も鎮火しないといけないが、原因となっている物を先ずは排除しないと仕方ない。
「確かに……それに森を燃やすのがいなくなれば、後は私の自然魔法で火を消すことも出来る」
なら話は早い。
「とは言え、相手の戦力が知りたいな」
「……フェンリィを先ず向かわせる」
「ガウッ!」
「なら、私のファルも一緒に、空からの偵察が得意ですから」
ファルが翼を広げて飛び立ち、上空を旋回した。任せてくれと語っているようだった。フェンリィも張り切っていて頼もしい。
「それなら頼む」
「はい、行ってファル!」
「……フェンリィ」
「ガウガウガウ!」
そして鷹のファルと狼のフェンリィが森に向かう。俺たちも後に続こうと思う。偵察には行ってもらったがこっちはこっちで少しでも近づいておきたい。
「言っておくが俺たちはいかないぜ。約束通りここまでは案内したんだ」
だが背後から盗賊の頭が声を上げた。そういえばこいつらもいたんだったな。
「……一緒には来てくれないのね」
「当たり前だ! 俺らだって命は惜しい。あの町の冒険者は手練も多いからな。言っとくがかなり無謀な真似しようとしてるぜ?」
「なんやけったいなこというな。あんたらがここまで案内してくれたんやろ?」
「そうだが、まさかここまでとは思っていなかったからな。奴ら、本気で森を燃やし尽くすつもりかもしれない。そんな奴らと付き合ってられないぜ」
頭はこう言うが俺としては悩みどころだ。本当にこのまま逃していいものかどうか。
「……わかったわ。約束だものね。ヒット、馬と皆の武器も返して上げて」
「何や、あんたも結構なお人好しやね」
「約束なんて守ることないと思うにゃん」
「そうだ! こんな連中逃したら何をしでかすかわかったものじゃない! エメラルドもそう思うだろ?」
「え? 私は、マイリスがそう言うなら……それに約束は約束だし……」
マイリスもエメラルドもそういうところは律儀だな。
「本当にいいのか?」
「そう言ってるわ」
「……仕方ない。攫われた君がそう言うならな」
俺は盗賊から奪っておいた武器を返した。ただ警戒はしておく。妙な真似したらもう殺すほかないだろう。
「……確かに武器は返してもらったぜ――だが、俺が言うのも何だが、本当にいいのか?」
「あら? 気が変わった? 協力してくれる気になったの?」
「……ふん、馬鹿いえ。絶対ゴメンだ。お前らはお人好しすぎだとは思うがな。その馬鹿みたいなやり方が仇にならないようせいぜい気をつけるこった」
そして盗賊たちは馬に乗って背中を見せるが、マイリスが後ろ姿を見せる盗賊の頭に声をかける。
「そういえば、貴方の名前聞いてなかったわね。折角だから教えてよ」
「……ガンダルだよ――」
「そ、ここまでありがとうねガンダル」
「……フンッ!」
そして馬を駆りガンダルを含めて盗賊たちは大人しく去っていった。なにかしてこないか心配だったが気をもみ過ぎたか。
とは言え、お人好しか……そう言われてみれば確かにそうかもしれない。
「行っちゃったわね」
「しゃぁないやろ。奴らは盗賊や。うちらとは相容れないし」
「カラーナも盗賊にゃん」
「うちは元や」
「あたいは山賊!」
いや、山賊も盗賊もそんなに変わらんだろう。
さて、連中ともわかれたところで俺たちも森に向かうが。
「ファルが戻ってきました」
「……フェンリィも」
途中で鷹と狼のコンビが戻り、エメラルドとセイラに何かを伝えていた。勿論これは飼い主である二人にしかわからないだろうが。
「……森に二十人は来ている。魔法系も多い。全員火が主体」
「特に三人、強力な相手がいるとのことです」
二十人か……こっちの戦力は七人、フェンリィとファルも戦力としてみれば九か。相手次第ではなんとかなるかもしれない。
「戦力は分散してますが位置は大体把握しました」
「……火力が強い。急いだほうがいい」
「よし、行こう!」
そして俺たちは森へ急いだわけだが。
「徹底して燃やせ! 容赦する必要はないぞ」
「はは、森もノマデスの連中も焼き尽くしてやる!」
「ブレストインフェルノ!」
「く、くそ、火が、このままでは森が――」
「はは、全くノマデスの民っていうのも大したことないな。何が森と共に生きるだくだらねぇ」
「お前たち、こんなことして今に天罰が!」
「くるかよば~か」
「ぐはぁ!」
「おお、痛いか? この傷が痛いか? 傷口を更に火で炙ってやろう――え?」
ファルコンで射った矢が、ノマデスの民と思われる男性を足蹴にしていた男の胸を貫いた。口から血を吐き出し、そのまま男は傾倒する。
「な、だ、誰だ!」
「森の消火に来たただの通りがかりだよ。ま、ついでにお前らも排除するけどな」
◇◆◇
一方ヒットたちから解放されたガンダルを含めた盗賊たちは、小高い丘の上から森の様子を眺めていた。
「あいつら、上手くやりますかね」
「ふん、あんなお人好し連中がグレインベースの冒険者に敵うもんかよ。セブンスって奴までいやがるしな。今はいないにしても、あの町の冒険者は手練揃い。そんなのに関わりたくないから俺らだってこの地を離れたんだしな」
「たしかにそうですね」
「でも、あいつらも律儀な奴だぜ。馬と武器まで返してくれるなんて」
「俺ら盗賊だってのにな」
「なんだかんだで途中では俺らを魔物から庇ってもくれたな。怪我も治してくれたし、飯も用意してくれた」
「…………フンッ」
仲間達の言うように、連中はガンダルが道案内している間は、盗賊だからと無下に扱ったりはしなかった。囮にするとか言っていたことはあったが本気ではなかった。
勿論、全く確執がないわけじゃない。仲間も沢山殺された。だが、それは盗賊稼業をやってるからには覚悟の上でもあった。人に誇れることなんて何もやってこなかった連中だ。恨まれた数のほうが圧倒的に多いだろう。
「……もう行くぞ。俺らは所詮盗賊だしな」
そして馬を駆り、再び森とは反対側へ駆け出す。しかし――途中でガンダルが馬を嘶せ、向きを変えた。
「テメェら――よく聞け! 冷静に考えてみれば案内したってのに報酬を全く貰ってなかった。そんなのはありえねぇ! だから、今から取りに戻るぞ!」
その頭の叫びに、仲間も顔を合わせるが。
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
そして再び来た道を戻りだす盗賊たちであった――
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