第26話 異世界の銀行事情

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第26話 異世界の銀行事情

 ランチは適当に目についた場所を選んだ。王都南側の大通り沿いには中々洒落た店も並んでいたしな。    で、店に入りメリッサも慣れたのか普通に対面の椅子に座ってくれるようになった。  それを注文を訊きに来たウェイトレスが変な顔で見るのも一緒だ。  昼はランチ専用のメニューがあったのでそれを二人前頼んだ。  そこでも、え? 二人分ですか? と不思議そうに聞かれたが、それが俺のやり方だと告げ後は目でそれ以上その事に触れるなと訴えた。    俺の願力が通じたのか女は笑顔を貼り付けたまま奥へと引っ込んでいく。   「ご主人様はやはり凄いです」 「うん? 何がだ?」 「だって……」    そういってメリッサがちらりと他の席を見る。  あぁなるほど。確かに奇異の目を向けられているな。  そんな中でも気にしない事が凄いって事か?  「そんな視線いちいち気にしていたってしかたない。メリッサは気になるのか?」 「いえ。私は寧ろ幸せです」  花が咲いたような笑顔を見せてくる。う~んこの笑顔を見て地べたに座らすなんて輩がいるというんだから信じられないな。  その後はウェイトレスが持ってきた水を飲みながら、メリッサの質問に答えた。  どうやら彼女はさっきの冒険者連中との戦い方はどうだったか気になってたらしい。  ただ俺から見て特に指摘する事もあまりなかったが。俺の言うとおり動いてくれたし。  トドメも刺さないでいてくれた。  メリッサには殺人はさせたくなかったから前もってそれは言っておいたわけだ。  動きだけ止めて貰えばいいと。  まぁそれでも色々訊いてくるしな。俺はむしろ戦闘のことより薬草についての知識はあるか? とかを逆に質問した。    すると前の主人に命じられそういった書物も読まされていたらしい。  なんでも薬草を調合した薬の商売にも手を広げようとしていたとか。  ただ本人はそういった事に関しては面倒くさがりだったので、メリッサに覚えさせてどうにかしようと思っていたらしい。  結局その夢も叶わず死んでしまったが、もしかしたらあのトルネロとかいうのもメリッサをドラッカーにしようと思っていたのかもしれない。  まぁ俺としてはドラッカーよりチェッカーになって貰いたいからスミスでもいいんだが、メリッサは鍛冶が出来る雰囲気ではないしな。  だったらやはりここはドラッカーから試してみるべきか。  どっちにしろナンコウ草も少しは残しているしな。  他にも薬草系があったならそれらを採っておいてメリッサを奴隷として迎えた後に試してもらうとしよう。  それに薬草からの薬作りは結構重要だ。ゲームでは薬草単体では殆ど効果がなかったからだ。  それに薬の種類も多い。もともとゲームでもよくあるRPGのように飲んですぐ怪我が治るような便利なものもなかった。  何せ数字的表記は一切ないから怪我とかは見た目で判断するしかない。  その上で怪我した箇所に傷薬を塗り包帯を巻くというのが基本だった。    そういう意味では回復魔法の方が万能だが、これはこれで回復するのに時間を求められた。  回復は基本瞬時には出来ない。  あまりに大怪我だと回復魔法使用中は何も出来なくなるし、サポートは必須だったはずだ。    教会なんかでは回復魔法を掛けてもらえるが費用が結構掛かる。  しかしこのゲームでは怪我だけでなく毒にも気を使う。  毒と言っても体力を奪う毒や熱を伴う毒。  只の腹痛から、出血が止まらなくなる毒や麻痺毒に変わったものでは石化毒なんでのもあった。  毒とは別に風邪などの病気もあり、それらを治療するのにはある程度薬に頼る必要がある。  回復魔法にも毒消しなどはあるが種類によって系統が違う上、全てを極められるものは少ないし基本職はそもそも対応できる毒が少ない。  ドラッカーであれば、基本職とはいえ熟練度を高めればかなりの薬を作り出すことができるようになる。  現地で手に入れた材料で薬が作れるのはそれだけでもかなり役立つはずだ。 「お待たせいたしました」  おっとそんな事を考えている間に料理がやってきたな。  とりあえず飯を食べるか―― 「ご馳走様ですご主人様」  メリッサが深々と頭を下げてきたので、そんな必要はないと右手を振って返す。  奴隷がまともな食事にありつける事は基本ないらしいからなのか、かなり嬉しそうだ。  まぁ喜んでもらえたのは光栄だがな。  でもまぁ味に関しては可もなく付加もなくってところだったけど。  無難といえばそうだな。俺のいた世界のファミレスレベルだ。  しかし異世界でファミレスレベルの食事にありつけるのは寧ろ凄いことなのかもしれない。    食事しながらもメリッサとは色々話したりしたが、調味料関係はやはり俺のいた世界と微妙に異なるものがあった。    例えば味噌はあるのだが、その作り方は大豆と麹によるものではなく、一部の魔物の脳みそを加工した物らしい。  それを聞いて最初はうぇってなったが、よくかんがえたら俺のいた世界でも羊の脳みそなんかは料理に使われてたしな。  そう考えたら気にすることでもない。    それと塩と砂糖はあるが名称はソルトとシュガーだ。これを漢字でいってもメリッサには通じなかったな。  でも確かにゲームでも名称はそうだった。  醤油もないが代わりにソースの種類が多く、その中に醤油に近いものがある。  そもそも日本のゲームがベースの世界だから、細かい違いはあれど味は日本人好みのものとなってるようだ。米もライスと言わないと通じないけどあるしな。  まぁそのわりに麦とかはそのままムギで通用したりするけど。  細かいことを気にしても仕方ないけどさ。  そんなわけで食事も終わりサービスで付いてきた食後の紅茶を飲みながらまったりしつつ、これからの予定を考えていると。 「ところでご主人様。依頼の報酬は如何でしたか?」  ふとメリッサがそんな事を訊いてきた。そういえば詳細は話していなかったな。 「あぁ思ったより採れていてな。全部で十六万二八五〇ゴルドになったよ」 「そんなにですか!? 凄いですご主人様」  メリッサが目を見開き心底驚いてる感じだ。でもまぁ確かに。 「おかげで資金が一〇〇万ゴルドを超えた。この調子でいけば明日は無理でも比較的すぐに一五〇万ゴルドにはなりそうだ」  俺はメリッサに向けて微笑みながらそう告げた。安心させたかったというのもある。 「ご主人様……私はご主人様にそこまでして頂き本当に幸せな奴隷でございます。ご主人様と出会えた事が私にとっての奇跡です」  大袈裟だなぁ、と笑って返す。  いえ、本当です! と少しむきになって答える姿も中々可愛らしい。 「でも、そうなるとこのバッグは厳重に保管せねばなりませんね。盗られてもしたら大変です」 「あぁ、まぁそれはそうなんだがお金に関しては最悪の事が起きないようにと用心してな、銀行に預けておいた」 「え?」  うん? 俺が銀行の事を告げるとメリッサが短い声を上げて、なんか呆けてるんだが? 「ご主人様、銀行にですか? え? 一体いつ?」 「あぁ。冒険者ギルドが銀行と提携していたらしくてな。すぐにやってくれるというから頼んだんだ」 「……おいくらですか?」 「うん? 一〇〇万ゴルドだ。とりあえず必要な分だけ残してな」  て? なんだ? 目をまん丸くさせて肩をワナワナさせて? 「あ、の。失礼ながらご主人様、銀行の仕組みは、ご、ご存知でしたでしょうか?」  なんだ変わったことをきくな。ゲームと基本一緒だろうし。 「知ってるさ。お金を預けておけるところだろ? 保管しておいて貰えば盗られる心配もないしな。必要な分は卸せばいいし――」 「あ、ああぁあ、うああぁぁあ! 申し訳ありませんご主人様~~~~!」    ええぇえええ!? なんだ突然! テーブルに突っ伏して謝りだしたぞ! 「どうしたメリッサ突然! なんで謝る?」 「う、うぅう、私がしっかり先に説明しておけばこんな事には、ご、ごめんなさい~~~~!」 「いや! だから何がだ!? ちゃんと説明してくれ!」  何か涙さえ流してるしなんだってんだ! 「ぐすん、うぅご主人様。確かに以前はご主人様のいうように、銀行は自由にお金を預け引き出せるところでした……でも今は、領主様と銀行の責任者が変わってからは銀行の仕組みも大分変わっておりまして……」  変わった、だって? 「それは何だ? 一体何が変わったと言うんだ?」 「はい……例えば金利という仕組みが新しく加わりました……」  金利? なんだそれだったら別に何の問題もないだろ。 「そんな事か。だったらいいことだろう。お金を預けておけば僅かでも預金が増えていくわけだから」 「!? とんでもありませんご主人様! 金利は預金分が銀行に持っていかれる制度でございます!」  ……は!? はぁ!  「何だそれは! 一体何を言っているんだ? 金利でお金を持っていかれるなんて聞いたことないぞ!」 「はい……確かにこの制度はこの領地だけで行われている制度とも聞き及びます。なんでも銀行がお金を預かってやっているんだからその分利を寄越せという意味で金利と呼ばれてるとか――」 「ふぁ!? はぁ? な、なんだそれは! 馬鹿な事を! 大体それでいくら持っていかれるんだ?」 「はい……金利は半年に一回発生し預金の五割を持っていかれます……」  ……はっ?
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