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第27話 お金がない!
「半年で五割だと!」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げて叫んでしまっていた。
唯でさえ奴隷のあり方でジロジロと見られてるのに、その叫びで更に視線が集まる。
メリッサも慌てて、お、落ち着いてくださいご主人様! なんて言い出す始末だ。
だが、これが落ち着いていられるか!
「五割ってそれは預金の半分が持っていかれるって事だろ! しかも半年って一年で全て持っていかれる事になる! だれがそんな銀行を使うっていうんだ?」
俺はつい語気が荒くなるのを感じていた。だがメリッサが不安な表情を見せてきたのでなんとか落ち着かせるよう務める。
「ご主人様のいう通りです。今の銀行は誰しもが使いたくないと思っております」
「当然だメリッサ。俺もすぐにでも銀行にいって全て卸してやろうと思ってるよ。全く冗談じゃない」
「……ご主人様それがそうもいかないのです。この領地の銀行は一度預けると月に卸せる金額は一割までと制限されてます」
「な!?」
俺は絶句した。月に一割しか下ろせないとか経営破綻した国かよ!
「なんだそれは! そんな事していてはメリッサのいうように誰も銀行にお金など預けないじゃないか!」
「はい。ですのである程度稼ぎのある人間には銀行から直接預金命令がくるようになっております。それを無視すると罰金や場合によっては厳罰に処される事もあるのです」
「よ、預金命令? なんだそれは……意味が判らん。第一そんな事をすれば貴族が黙っていないだろ?」
「そこですが、一部の優遇されている貴族は金利も発生しなければ、下ろす金額の制限もうけません。いつでも自由にしかも最優先で動いてもらえます。更にそういった貴族は銀行と付き合いがあると、銀行が手にした金利の一部が年に一度協力金とし分け与えられます」
くっ! ここでもまた貴族優遇か!
「ですので地位のある貴族ほど銀行は積極的に利用しますし、この制度を止めさせようとも思っておりません」
当然だろう。その貴族からしたら甘い蜜を吸い続けられるのだからな。
「くそ! そんな馬鹿な事になってるとは! つまり俺の金も半年後には半分になるということか!」
「……そこなのですがご主人様。先ほどお話しした半年に一度というのはあくまで銀行からみての事でして、預金した日は考慮されません。そしてその金利が取られるのは四月と一〇月なのです……」
……もはやその程度じゃ驚けなくなってるが。
「それでメリッサ。今は何月なんだ?」
一応念のため確認だ。
「四月です」
「やはりそうか……とりあえず一〇月までは大丈夫という事か。だがくそ! とりあえずすぐにギルドに戻って」
「あのご主人様……金利が発生するのが四月ですので四月にお金を預金した場合は、そ、その瞬間に預金額が半分になる仕組みなのですが――」
「!?」
なんだそれは! くそ頭がクラクラしてきた――
「メリッサ! 急いで出るぞ! まだ間に合うかもしれん!」
「は、はい!」
◇◆◇
「さっきの預金分にゃりか? 安心するにゃん。もうとっくに銀行に預けられてるにゃん」
「ふっざけるなあぁあああぁ~~~~~~!」
「にゃ!? にゃんにゃりか~~~~~~!」
俺は思わずニャーコの襟首を掴んでいた。当然だ!
「貴様! 何故金利の事を黙っていた! 卸せる金額の事も!」
「にゃ!? にゃにゃ! そ、そんなの常識にゃん! みんな知ってると思うにゃん!」
「俺は旅人だったと言っておいただろう! そんな制度知るか!」
「にゃ~ん、苦しいにゃん! とにかく放すにゃん! このままじゃ問題になるにゃん!」
「ご、ご主人様……」
くっ! メリッサも心配そうに眉を落として……くそ! 確かにこいつにだけ文句をいっても仕方ないか。
しかしとっくに銀行にお金がいってるとは、なんでこういうことだけ早いんだ! これじゃあキャンセルも使えない!
「ふぅにゃん。大体なんでそんなに怒ってるにゃん? 確かにいきなりあれだけ預金するのも珍しいにゃんが、それでも何れは入れなきゃいけないお金にゃん。冒険者なら誰もが銀行を利用するにゃん」
「はぁ? 馬鹿な事を言うな! 黙っていてもお金を持っていかれると知っていて、誰がお金を預けるんだ!」
「それでも預けるにゃん。さっきも言った通りギルドは銀行と提携を結んでるにゃん。にゃから個々の冒険者の稼ぎを銀行は全て把握してるにゃん。預ける預けないはギルドではタッチしていないにゃりが、もし預金していなければ本来の請求がそのまま冒険者に届くことになるにゃん」
本来の請求?
「なんだその本来の請求というのは?」
「つまり冒険者が稼いだお金をそのまま銀行に預けた場合の金利にゃん。銀行は年に数回預金内容を精査するにゃん。その時冒険者が預金していないことを知ればその分請求がくるにゃん。その場合当然請求は稼ぎの一〇割つまり全部もっていかれるにゃん」
「……それは本気で言っているのか?」
「本気も何もそういう制度にゃん。にゃから冒険者はというか多分預金者全員にゃりが、預金したら月に一度一割ずつ下ろしていくにゃん。こうすれば預金額の半分を持っていかれる制度にゃので少しは負担が減るにゃん」
俺は思わず力が抜けてその場にへたりこみそうになった。預金していなければ年に一回全額稼ぎが持っていかれるだと? なんだそれは。無茶苦茶だ。頭おかしいだろ絶対……
「……預金はここでは卸せないのか?」
「それはさっきもいった通り無理にゃん。第一そんな事をしていたらここがパンクするにゃん。銀行でさえ処理しきれなくて預金を引き下ろすのは最低一〇日待ちと言われてるぐらいにゃん」
「と、一〇日待ちだと?」
「そうにゃん。銀行はお金を卸さないと半年に一回五割持っていかれるにゃん。だからみんなたとえ一割でも下ろしたくて仕方ないにゃん。だから銀行は常に人が殺到してるにゃん。でも銀行も一日で処理出来る人数に限度があるにゃん。銀行はそこで番号札を渡していくにゃん。その待ち期間が大体一〇日にゃん」
もはやそれぐらいじゃ驚かなくなってる俺が怖い。
「気をつけないといけないのはあくまで一〇日は目安にゃん。銀行は番号を呼んで反応がなければ容赦なく飛ばすにゃん。そうなったらまた一〇日は待たないといけないにゃん」
「もういい判った……悪かったな怒鳴ったりして――」
「ヒットにゃん。気を落とすなにゃん。寧ろここで預けて良かったにゃりよ。冒険者の中には頑なに預金を拒んで資産差し押さえの借金まで背負わされ、そのまま奴隷落ちしたのも大勢いるにゃん。一度奴隷に落ちたら悲惨にゃん。もう一生奴隷ギルドの食い物にされるにゃん」
メリッサの前でそんな事を言うなと俺は恨めしそうな顔を向ける。
ニャーコの肩がビクリと震えた。そしてこんな時でもぷるんぷるん震える胸に目がいってしまう。
……ニャーコは一応俺に気を遣って言っているわけだし文句もいえないか――
俺は邪魔したなとだけ言い残しメリッサとギルドを出る。
途中銀行は今から言って予約が間に合うかをメリッサに訊いてみたが。
「ご主人様……銀行は午後3時までなのです――」
そういうところだけ俺のいた世界と一緒か!
◇◆◇
俺は正直ショックで打ち拉がれそうにもなってたが、だからといって脚も止めていられないので当初の予定通りドワンの元を訪れることにした。
例の依頼の件でだ。それに何かしてないと苛々が募るばかりだしな。
「そういうわけで依頼がギルドに伝わってなかったみたいなんだ。ギルドの誰に依頼したかは覚えているか?」
「いや冒険者ギルドに直接依頼したわけじゃねぇよ。よく来てた冒険者にお願いしたんだ。そういう依頼も受けられるといってたからな」
冒険者に? そういえば営業も大歓迎といってたな。
でも来てたという過去形なのが気になるが……
「その冒険者はもうきてないのか?」
「そういえばあれからめっきり姿をみせねぇな」
髭を擦りながらそんな事をいう。
「あの……もしかしてドワンさん依頼料を先に渡してしまったとか?」
メリッサが心配そうに眉を落とす。確かに俺もそれが気になるところだが。
「それはねぇよ。俺だってそこまで馬鹿じゃない。依頼料は前払いで半額支払いというのは聞いていたが、それは後から正式なギルドの職員が見積もり持って来るっていってたしな」
メリッサがホッと大きな胸を撫で下ろす。
まぁそれなら一安心だがそれにしてもだったらどうしてそいつはギルドに依頼を伝えなかったんだ? 忘れていたのか?
「その冒険者の名前は判るか?」
「ラグナって言っていたな。目の真ん丸な男だ。別に怪しい奴にも見えなかったんだけどな。うちでも何点か購入してくれたし」
ふむ、ますます意味が判らないな。メリッサが直ぐ様メモをとっているが。
「とりあえず申し訳ないんだがまた依頼書を書いて貰ってもいいか? 今度は俺がしっかりギルドに伝えるから」
「うん? あぁそうだな。仕方ないもう一度書くが今度こそ頼むぞ。まぁまだ在庫はあるが」
「あぁ間違いなく伝える」
俺がそういって依頼書を手渡すと中身を埋めてくれた。
それによると。
依頼内容
・鉄鉱石と魔鉱石の運搬
詳細
マウントストーン鉱山から
・鉄鉱石三〇kg
・土の魔鉱石一kg
・火の魔鉱石一kg
を運んできて欲しい。
代金はドランから頼まれたといえば判るようになっている。
「ありがとう。依頼料とかはきいてるのか?」
「大体はな。ただ詳しくは担当が見積もり持ってくるからそれみてくれと言われた。そういえばその見積もまだみてなかったな……」
……いやそれは結局正式に依頼は完了してないんじゃないか?
「恐らく見積もきてないなら正式な依頼としては扱われていないな。普通はそれで決定してからギルドも受注となるはずだ。まぁでも俺からも急ぐようにいっておくよ」
「あぁ頼んだ。しかし見積もりかうっかりしてたな」
頓着がなさすぎだろ。
「ところでこの依頼はあんたが請けてくれるのかい?」
「それは判らないな。ギルドの判断だ」
「そうか。なんとなくあんたは信頼できそうだからお願いしたいところだけどな」
そう言われてもな……
「あのご主人様。この指定者というところを埋めれば、冒険者の指定が出来るのではないですか?」
うん? あぁそういえば確かに指定の項目があるな。
「あぁそういえば前も指定にそいつの名前を書いておいてくれって言われたな。そういう事か」
おいおい……
「ほら記入したぞ。依頼の件頼んだ」
そういって俺の名前を指定欄に記入し依頼書を手渡された。
俺はそれを受け取りメリッサと店を後にする。
それにしてもそいつはなんで指名までしてもらってギルドに依頼を届けなかったんだろな?
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