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第30話 砦を奪還したその後で
ダンデを倒したことで、元々はアイリーンの父親と仲間が拠点としていた砦を取り返すことが出来た。
アイリーンの父親を含め仲間たちは活動を続けていたこの砦近くで埋葬することになった。アイリーンの父が好きだったという空が近く森と街を見下ろせる場所に簡易ではあるけどお墓を作ってあげた。
アイリーンは何も言わず空だけを眺めていた。だけどその瞳は決意に満ち溢れていた。
「この砦を取り返すことが出来たのは大きいですね」
「そんなにもか? だけど、ここは町からもかなり離れてるし、何がそこまで大きいのかわからないのだけど……」
作戦会議室に使われていた部屋でブルーの話を聞いたが、俺にはどうしてもここにこだわる理由がわからなかったのだが。
「こっちへ来てください」
ブルーに手招きされ俺たちは彼の後をついていった。砦は三階建てでその三階部分に来たわけだが。
「ここは倉庫か何かか?」
一番上の階に倉庫があっても運んでくるのが面倒そうにも思えるが……ただ埃を被った荷物が置かれてはいるが、あまり活用されているようには思えない。
「う~ん、何やここ、妙な感じがするわ」
「ワンワン!」
「え? そうなのか?」
カーラがうんうん、とうなずいた。俺にはさっぱりわからないが、盗賊系のジョブ持ちのカーラだから判ることもあるのか。
「流石カーラさんですね。この部屋はこの通り確かに一見何もなさそうに見えますが……」
ブルーが壁の一部に手を添え、指で何かをなぞったか描いたのか……そんな動きを見せると、天井がガタンッと開き、階段が落ちてきた。
「隠し部屋があったのか……」
「やっぱりか~何か臭うと思ったんや」
「流石ですねカーラ」
「うむ、しかし、ニャーコはわからなかったのか?」
「にゃ! も、勿論判っていたにゃ!」
アンジェの問いに答えるニャーコだけど、うん、絶対判ってなかったな。
「……フェンリィは何か訴えてた」
「アン!」
そういえば、カーラが喋っていた時、フェンリィも吠えてたな。ニャーコよりよっぽど優秀ってことだな。撫でてあげよう。
「く~ん、く~ん」
「……フェンリィ嬉しそう」
喜んでくれてよかった。う~ん毛並みが気持ちいい。
「それではいきましょう」
「おっとそうだな」
フェンリィをモフるのも気持ちいいけど、本題を忘れてはいけないな。
俺たちはブルーと一緒に隠し部屋へ上ったわけだが。
「結構広いんだな。それに、これは何だ?」
隠し部屋はわりと天井が高く、五人程度なら中で余裕を持って作業が出来そうなスペースが確保されていた。
そんな部屋で一点だけ異彩を放っていたのは中央に配置された台座とその上でふわふわと浮かんでいる大きな水晶玉だ。
「これはかつて戦争が頻繁に起きていた時に使われていた魔導兵器ケラウノスです」
ケラウノス……神話で語り継がれていた雷と同じ名前か。なんとも仰々しいな。
「つまりこれで攻撃出来るのか……でもどこを攻撃するんだ?」
「半径10km以内なら雷による攻撃が可能なのですよ。見ていてください」
ブルーが水晶に手をかざす、すると驚いたことに水晶の中に周囲の映像が浮かび上がってきた。上から俯瞰する形で見えているが、場面の拡大縮小も可能だという。
「すごいですね、確かにこれは兵器ですが、ちょっと怖いです」
メリッサが自分の肩を抱き寄せるようにして僅かに震えた。確かに物々しい感じがしてきた。
「うむ、中々物騒ではあるな。大体こんなものを持ち出してこれから一体何をする気なのだ?」
「勿論戦争ですよ」
顎を押さえアンジェが疑問を投げかけると、ブルーがいつものような軽い調子で返事する。一瞬聞き流しそうになったが。
「は? せ、戦争?」
「……なんや、穏やかでない話やな」
「まさか、この兵器で侵略でもするつもりであるまいな? もしそうなら――」
アンジェがエッジタンゲに手をかけると、おっと、と口にしブルーが手を上げた。
「ごめんごめん。別にこれをつかってどこかに戦争を仕掛けようっていうんじゃないんだ。言い方が悪かったね。僕がいいたいのは結果的に戦争になるということで、とりあえずはそうだな。防衛戦に備えるってところかな」
「防衛戦……そうか例の話か」
「そう。勿論判ってると思うけど、改めて確認だね。アドベンフッドは冒険者ギルドの支配下から君たちが解放してくれた。でも、副長のグレイが逃げたことでそのことはすぐに上に伝わると思う。そうなれば、当然アドベンフッドを取り戻すために動き始めるはずだからね」
なるほど、そうなると確かに街を守るために戦う、防衛戦になるというわけか。
「言いたいことは判ったけど、なんや、いつのまにかうちらも戦力に入れられてへん?」
「え! 姐御一緒に戦ってはくれないのですか?」
アイリーンが縋るような目で見ると、カラーナが頭を摩り困ったような顔を見せ。
「うちはボスの判断に従うまでや」
じ~とアイリーンが俺を見てきた。というより睨んできた。嫌だとは言えない雰囲気だな……。
まぁアドベンウッドの街での話からある程度覚悟はしていたけど。
「怒らずに聞いてほしいのですが、皆さんがこの先、つまりこの領地からカナール領に向かいたいなら、この問題は避けられないかと思いますよ。アクネと冒険者ギルドのマスターは完全に繋がっていて、現状どこの街もアクネとギルドの監視下にありますからね。皆さんだけで領地から出るというのは現実的ではないでしょう」
俺はため息を吐きつつ、ブルーを見た。ニコニコとした笑顔だけど、中々食えない男だな。最初は胸フェチのおかしなやつって印象だったのに。
「なぁ、一つ聞きたいんだが、あんた一体何者なんだ? この砦の隠し部屋にも詳しいし、ただの吟遊詩人ってわけじゃないんだろ?」
「……それは、いずれ話すべき時が来たら話します。今はちょっとミステリアスな色男とでも認識しておいてください」
自分で色男って言うかね……。
「ふぅ、まぁいいか。どっちにしろあんたの言う通り、俺たちだけで行動するにも不安の方が大きいしな。アドベンフッドの街についてもこのまま放ってはおけないし、協力するよ」
「はは、貴方ならきっとそう言ってくれると思いました。では、早速作戦会議といきますか」
そして俺たちは再び会議室で話し合う。
「さて、以前に話したとおり、これでこのあたりの盗賊の問題は解消されると見ていい。なのでマントス領へ協力を申し出たいと思いますが――これは私が行こうと思います」
「俺たちでなくてもいいのか?」
「はい。私はこれでも交渉事は得意な方ですからね。それにヒットさんたちには他に動いて欲しいことがあるのです」
「動いてほしいこと? それは一体?」
「はい。西のノマデスの森へ向かってほしいのです。そこでひっそりと暮らす遊牧民族を仲間に引き込むためにね――」
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