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第31話 森へ……
ブルーに言われ俺たちはノマデスの森に向かった。尤もこの名前は形式的なもので実際は特に名前が決まった森ではないらしい。
ただノマデスという一族は伯爵家に迫害された過去があり、今はグレインベースという町を囲むように存在する山脈の奥地でひっそりと暮らしているようだ。
今俺たちはその森に向かっている。馬車は目立つため、徒歩での移動だ。出来るだけひと目につかないルートを選んでいるためかなりの遠回りであり、山あり谷ありの険阻な道のりだ。
メンバーは先ずは俺、そしてカラーナ、アイリーン、ニャーコ、セイラ、フェンリィ、それにエリンだ。
う~ん、なんというかかなり珍しい組み合わせな気はする。俺としてはメリッサがいないのもかなり意外に思ってしまう。
彼女とは付き合いが長いからな……なんだかんだでいつも俺に寄り添ってくれていたのは彼女だ。
勿論一時的に少しの間離れるということはあったが、完全に別れて行動というのはな。
ただ、理由は勿論ある。今回解放したあの砦でメリッサの役割はかなり重要らしく、魔導兵器ケラウノスを扱う上でメリッサのジョブとスキルは相当役立つようだ。
確かにメリッサのスポッターは偵察や調査に非常に向いたジョブだ。より遠くまで見渡す事もできる。
ブルーによると、あの水晶を地図と連動させて特定の位置を映し出した上で狙いを定めることは可能なようだが、やはり位置情報を知るにはそれに特化した観測者が必須らしい。
だから今のうちに実際の戦闘を想定した仮想シミュレーションをしておきたいのだそうだ。
そう言われてしまうと、俺も嫌とは言えないしな。さて、あとはアンジェも俺たちのメンバーに加わっていないが、これもやはり彼女の立場を加味してのことだ。
アンジェは嫌がるかもだが、やはり王女様だしな。今更とも思えるが、今回のように王国内の影響ある貴族と争うという話になった以上、下手な動きをさせては彼女にとってあまり良い結果に繋がらない可能性もある。
アンジェ程の腕があれば攫われたりなんてことは先ず無いとは思うけど、まぁ念の為だ。
さて、それはそれとして、エリンはなぜかと言ったところだが、まぁこれは彼女がどうしても一緒に行きたいと言ってきかなかったのと、ブルーがエリンは連れて行った方が良いかもしれないなどといい出したのが要因だ。
何でもこれから会うノマデスという一族は、森とともに生きてきただけあってエルフに対する敬愛が強いらしい。だからエリンも一緒に行けば話が上手くまとまるかもしれないと、そういうことだ。
ちなみにそのエリンは今はフェンリィの背中の上に乗って移動している。何かもふもふも堪能している。
フェンリィもここに来てかなり成長したんだよな。流石にフェンリル程とまでいかないけど、大型の狼ぐらいの大きさにはなっている。
だからエリンだけでなく、俺なんかでも背中に乗せることは可能らしい。
しかし、俺にはステップキャンセルもあるわけだが、今回は森中を多く通るから少々使いづらい。障害物は無視できないから木が多いとどうしてもな。
さて、こんなことを考えながら進んではいるけど、当然移動中も平穏無事とはいかない。森の中なんかは魔物も多く出現するからだ。
まぁそれも今のところそこまで問題にはなってないのだけど。俺たちも成長しているし、よほどの相手でなければそう問題にならない。
今も丁度、ジャイアントボアに遭遇したところだが、晩飯の食材に丁度いいなとか考えてしまった程だ。
「……フェンリィ」
「ウォン! ウォン!」
「エリンも狩るなの!」
そして哀れなジャイアントボアはフェンリィの牙とエリンの精霊魔法であっさりと食材に変わってしまったとさ。
そんなわけでその日の夜は相変わらずの野宿ながらもわりと豪勢な食事となった。ジャイアントボアの肉は脂も乗っていて凄く美味かったからな。
更に、この森には水浴びに最適な泉があった。そんなわけで夕食後は水浴びタイムとなる。
俺は、勿論女性陣が水浴びを終えるまで見張りだ! 覗いたりしないからな!
「ボスも気にせんと一緒に入ればええやん。うちなら周囲に怪しいのがいたら気配で判るわけやし」
「な、なななな! 何を馬鹿言ってるんだ!」
泉を背にして大樹の幹に背中を預け、周囲を警戒している俺にカラーナがとんでもないことを言ってきた。一緒になんて入れるわけないだろう!
「え~なんでなの? おにいたんも一緒に入るといいなの!」
エリンまで! いやいや犯罪臭しかしないから!
「にゃん、ヒットの照れてる顔が頭に浮かぶにゃん」
「……別に私もフェンリィも気にしない」
「ウォン!」
ニャーコがからかうように口にした。そしてセイラは、なんとなくそんな性格なのは知ってたけど、うん、もう少し恥じらいを持とうか。
フェンリィは、いやメスだけどもともと裸みたいなもんだし。
そんなわけで多くの女性陣が俺をひたすらからかう中、一人だけは様子が違ったわけで。
「いや、入ってきたら絶対殺す。その場で射抜く!」
そう、アイリーンだ。
「大体、あんな男に姐御のこのわがまま過ぎるボディを見せるなんてありえません! 絶対駄目ですよ、姐御も自分を安売りしちゃ駄目絶対!」
うん、すごい嫌悪されてるな俺……。
「そう言うてもなぁ。うちもう裸なら何度も見られてるし」
――ドスドスドス。
「うぉ! ちょ、矢が矢が!」
「アイリーン何しとんの!?」
「すみません、出歯亀をつい射抜きたくなって」
いやいや俺何もしてないだろう! なのに矢が幹を貫いて飛んできたよ! 普通に危ないよ! あと水浴びに弓矢持ち込んでるのかよ!
「ふぅ、姐御、こればっかりは言わせてください。あんな男のどこがいいんですか?」
「全部や! ボスはうちの全てやし!」
うん、そうはっきり言われると照れて仕方ない。
「カラーナは積極的にゃん」
「確かにそこが姐御のいいところではありますが、一方あの男はなんですか! まったくもって煮え切らない! 大体姐御にこれだけ想われていながら、あのメリッサという乳デカ女にも鼻の下を伸ばしてデレデレしているのも気に食わない! どうせ今だってあの影で私たちだけでなくあの乳デカ女のことも妄想して悶々してるんです、飛んだ獣ですよ! 万死に値します!」
何か凄い言われてるし、いやそんな妄想なんてしてないからね。本当だよ?
「それはしゃ~ないわ。大体うちだってメリッサのこと好きやし、ボスにはうちだけでなくメリッサも愛してほしいと思うとるし」
「ぶっ!」
落ち着こうと水筒の水を口に含んだが思わず吹き出しちまったじゃないか!
「にゃん、でもそう考えたらヒットはメリッサのこと心配じゃないのかにゃん?」
「え? 心配?」
ニャーコが突然そんなことを言ってきたけど、何のことだ?
「にゃん、だってメリッサは今、あのブルーという男に色々教わっていて二人きりになることも多いと思うにゃん。あいつはおっぱいが好きみたいだし、何かあってもおかしくないにゃん」
「え? そ、そうなのか?」
ニャーコの発言にアイリーンが聞き返した。ふむ、なるほど、いやでもな。
「その心配はあまりしてないんだよなぁ」
「……どうして?」
セイラが問い返してきたけど、いやだって。
「何かあのブルーはアイリーンといい感じだろ? アイリーンも満更ではなさそうだし、うぉ!」
また矢が幹を貫いて飛んできた! なんなんだ一体!
「ば、ばっかお前! な、何言ってるんだおま! ふ、ふざけたこと言ってんじゃないよ! あ、あたいはそんなんじゃねっての! バーカバーカ!」
「う~ん、アイリーンもわかりやすいなぁ」
「姐御までそんな! 何を言ってるんですか!」
アイリーンが叫んだ。いやはや全く、わかりやすいことで……。
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