第32話 森の若い二人

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第32話 森の若い二人

 水浴びも終え、交代で夜は休み、俺達はノマデスの森へと向かった。森までは結構距離もあるし、道中は様々な魔物とも交戦となったがとりあえずは無事倒して進むことが出来た。  このまま何事もなく目的地までつければいいんだが、そんなことを考えていた矢先だった。 「ボス、向こうで何か魔物と戦ってる二人組がおんねん」  斥候役を務めてくれたカラーナからそんな連絡が入った。この辺りを見渡せる喬木の梢から見渡して見つけたようだ。 「何か変わった格好してる男女二人やねん」  そして俺の目の前まで下りてきてカラーナが口にする。着地の仕方はかなりスムーズなのだが、大きな胸は立派に上下していた。 「お前、姐御がわざわざこうやって伝えてくれたのにどこ見てんだコラ!」 「ど、どこって、な、何も見てねぇよ!」  すると、アイリーンが眉を怒らせて詰め寄ってくる。こ、こいつよく見てるな! 「何や、それならボスも遠慮せんと見ても触ってもええのに」 「触ってもって、ば、馬鹿おま!」  しかもカラーナはカラーナで急に密着してきた、む、胸が腕に―― 「姐御、当たってますよ! そんな密着したら姐さんの貴重なお胸にその出歯亀の腕が!」 「当ててんのや」 「あててんなの!」 「いや、エリンまで……」  いつの間にかエリンが俺の膝に密着してそんなことを言ってきた。このぐらいの年齢は年上の真似をしたがるというけれど、そんな真似をしてお兄さん心配ですよ!」 「……カラーナ、教育に悪い」 「アオン……」  セイラが抑揚のない声で、でもどこか注意するように言った。フェンリィも呆れてるぞ。 「なんでや、別にえぇやろ? 女の武器はな、小さいうちから知っておいた方がええのや」 「女の武器なの!」  いや、エリンは絶対わかってないから。てかエリンが悪女になるのは嫌だからやめるんだ! 「ニャン、話が進まないニャン」  そんな会話をしていたらニャーコに呆れられた! あのニャーコに! 「とにかくエリンの教育については一度置いておいてだ」 「おいておくなの」  あぁ畜生可愛いな畜生。 「それで、その二人はどんな感じなんだカラーナ?」 「う~ん、わりと強いと思うんやけど結構魔物の数が多いねん」 「姐御、それはクソ領主の仲間って可能性は?」 「比較的若い二人やしな。あんまそんな雰囲気もせぇへんけど」  若いのか……しかし、そんな若い二人がこんな森の中に? なんだろうな。少し気になるし。 「ちょっと近くまで寄って様子を見てみるか」  俺はそう判断し、カラーナの案内で二人連れがいる付近まで移動した。俺とカラーナが先頭ですぐ後ろでアイリーンが目を光らせている。敵じゃなくて俺に対してな!  あまり密集して動くわけにもいかないから少し離れた位置から後の三人とフェンリィが付いてきている形だ。  後ろから何かがやってきても大丈夫なようにでもある。  そして俺たちは叢の影から覗き込むようにしてその二人を見てみた。  確かに若い。そして二人揃って確かに少し変わった格好をしていた。う~ん、緑を基調とした民族衣装といったところか。  女の子の方はカラーナよりも若いかな。緑色の髪を三編みにして羽根の髪飾りをしている。小柄で弓を扱うようだが、何より目立つのは肩にいる鷹の存在だ。眼光鋭く周囲を警戒している。  ここから少しでも近づいたら気づかれるかも知れないな。男の方は木製の杖を持っている。男にしては髪は長めだな。少女よりは年上っぽく見えるけどまだ確かに若そうだ。  二人を囲っているのは大型な狼の魔物だ。俺たちも何度か相手している。群れで行動してくるので厄介かもしれない。俺達からすればそれほどの相手でもなかったが。 「ファル!」  ファルというのは鷹の名前だろうか? 少女が命じるように指を突き出し叫ぶと、鷹が物凄い速度で周囲の魔物に飛びかかっていった。鉤爪が相当に鋭いようであっという間に切り裂かれていく。  少女も鷹にまかせっきりではなく、弓で追撃していき、魔物の数はみるみる減っていく。  そして男の方が杖を掲げると周囲の葉っぱが舞い上がり、魔物の身をずたずたに切り裂いた。あれは魔法か? 葉っぱがまるで鋭利な刃物のようだな。 「なんだ、強いじゃないか。これなら助けるまでもないんじゃないか?」 「確かにあたい達の出る幕じゃないかもしれませんね」 「いや……ちゃうねん。あの狼より厄介なのが、木の上や藪からあの二人を取り囲んでるねん」 「え? 厄介なの?」 「……確かに何かいる。そうフェンリィが言ってる」 「ウォン!」 「うぉ、セイラ!」  それにフェンリィも。どうやら気になってきてくれたみたいだ。 「それ、もしかしたらリリパットかもしれません。森に潜んでる小人っぽい魔物で、気配を消すのが上手くて、毒矢なんて使ってくる嫌らしい相手だよ」  アイリーンはどうやらよく知っている魔物なようだ。毒矢か、確かに対策をとってないと厄介だな。 「このままじゃ狙われるかも知れへん。しゃぁない。ええやろボス?」 「まぁそうだな。よし、なら皆で助けよう。カラーナ、それにセイラ、敵の場所を教えてくれ」 「それなら、向こうとそこや!」 「ウォン! ウォン!」  そしてカラーナがナイフを投げると、悲鳴が聞こえてフードをかぶった小柄な魔物が落ちてきた。これがリリパットか。  そしてフェンリィも疾駆し、リリパットの潜んでいる藪を襲撃し、アイリーンも弓で射抜いていく。 「アリィ!」  何か独特な声を上げて、リリパットの一体が少女に向けて矢を放った。だが、それは俺には見えている。 「キャンセル!」 「アィ!?」  射った筈の矢が戻っていて、驚いているリリパットを、俺は腕に装着した小型の弩であるファルコンで撃ち落とした。  こうしてあの二人を狙っていたリリパットは全て倒すことに成功した。 「ふぅ、全員倒したな。二人とも大丈夫かい?」  魔物も片付いたので、俺は若い男女に声をかける。すると、揃ってポカーンとした顔を見せていた。  ま、急に出てきても、そりゃそんな顔になるか。 「あ、え~と、悪いな。余計なお世話かなとも思ったんだが、リリパットという魔物が二人を狙っていたから加勢させてもらったんだ」  とりあえず、怪しまれないよう説明はさせてもらった。まぁ、リリパットの死骸があるから理解してくれるとは思うんだが。 「……そういうことか。何かと思ったが、本当に余計なお世話だな」 「……はい?」  すると二人の内、少年の方が面白くなさそうな顔で返事してきた。な、なにかいきなり助けに入ったことを否定されたが。 「何や、可愛くない男やなぁ。あんたら、放っておいたらリリパットの毒矢にやられていたかも知れないんやで?」  すると他の皆も近寄ってきて、カラーナが先ず反論したわけだが。 「そんなものこっちはわかっていた」 「え? わかって、いた?」 「そうだ。こっちにはエメラルドのファルだっている。他に魔物がいることぐらいわからないわけないだろう」  険しい目を向けてくる少年だが、その様子に黙っていられなくなったのかアイリーンが口を挟む。 「は、何がわかっていたよ。後からならなんとでも言えるじゃない。大体だったら何で黙ってやられるのを待っていたのよ?」 「やられるのを待っていたわけでありません。ただ、まだ攻撃してこない以上、こちらからは手を出したくなかったのです」  アイリーンが不機嫌そうに口にすると、男の隣で話を聞いていた少女が口を開いた。男よりはまだ口調は穏やかな方かも知れない。そしてよく見るとかなりの美少女だ。 「そういうことだ。俺たちは無駄な殺生を好まない。お前たちはどうやら違うようだがな。全くすぐに殺すことしか考えられないとは、これだから野蛮人は」  や、野蛮人扱いかよ……いや、確かに助けが欲しいかどうか聞いたわけじゃなかったけど。 「クローバー、失礼ですよ。確かに私たちは無駄な殺生は好みませんが、この皆さんは私たちを助けようと思ってしてくれたのですから」 「エメラルド、君は君でお人好しが過ぎる。大体この連中だってこんなことを言いながら、俺たちをいいカモと思っているかもしれない。なんなら盗賊の仲間の可能性もある。おい、それ以上俺たちに近づくなよ。そこから一歩でも近づいたら敵とみなして容赦なく攻撃するからな!」
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