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第33話 怪しまれるヒット達
もしかしたら俺たちは余計なお節介をしてしまったのかもしれない。だからといって一応は親切心でやったことで、近づいたら攻撃するとまで言われるのは心外でもあるが。
「クローバー、杖を下げて、失礼が過ぎます」
「エメラルド、そうは言うが、もし盗賊だったらこちらが隙を見せた瞬間襲いかかってくる可能性だって十分にある」
「その気があるなら助けるよりあの場ですぐに襲いかかってくると思います」
クローバーと呼ばれている少年はこちらをやたら警戒しているようだが、エメラルドという少女はそうでもないようだ。寧ろ一応は助けようとしたこちらに対して敬意を払ってくれている気配もある。
ただ、正直言えば盗賊かどうかという話になると全く間違いでもないんだよな……勿論あくまで元という部分とジョブ的な意味合いでだけど。
まぁメリッサもアイリーンも義賊だからこの二人の思う盗賊とは異なる存在ではあるのだけど。
「あんたらさっきから聞いていれば、エメラルドの方はえぇとしてもそっちの坊やは失礼が過ぎるやろ」
「な! 坊やだと!」
クローバーが眉を吊り上げ不快さを顕にした。カラーナもまだ若いのだけど、彼女は彼を年下と判断したのだろうな。
「大体盗賊を悪者と決めてつけてるようだけど、全員が全員悪者ってわけじゃないんだからな。全くそんなこともわからないとか視野が狭くて嫌になりますね姐御」
「聞いたか? やはりこいつら盗賊とつながりがあるんだ間違いない!」
アイリーン……言いたいことはわかるがそれはもう本当、余計な一言でしか無いから。
「にゃん、こっちは片がついたのかにゃん?」
「あ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが別なお兄ちゃんとお姉ちゃんと険悪な雰囲気なの! 修羅場なの! 痴情のもつれなの!」
「……何かあった?」
「アン!」
俺たちが二人と話していると、後方にいた三人とフェンリィもやってきた。ある程度時間が経ったから気になってきたんだろうな。
というかエリンは妙な誤解しない!
「き、貴様ら、その子どもはエルフ! さてはやはり盗賊の仲間だな、己、マイリスをどこにやった!」
「いや、誰だよ……さっぱり知らないし、あの子は俺たちの連れだ」
「嘘をつけ、エルフの子どもがそう簡単に人になつくものか」
そういうものなのか? まぁエルフの子どもと言ってもエリンはエルフとドワーフとの間に出来た子どもなんだが。
「先程からクローバーが本当に申し訳ないです。村で色々とあって少し疑り深くなっているのです」
するとエメラルドが前に出てきて俺たちに頭を下げてきた。クローバーという彼と違って話がわかりそうだ。
「エメラルド下がるんだ、奴らはエルフの子どもだって連れているのだぞ。何かやましいことがあるに決まっている」
「よく見てください。あの子はどうみても彼らに懐いています」
「うん、エリンお兄ちゃんもお姉ちゃんも大好きだよ」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ。ほんまエリンはかわええわ」
「えへへへ~」
カラーナに撫でられてエリンは嬉しそうに笑った。もし俺たちが盗賊だったとしたらこんなふうには笑えないだろう。
「む、むぅ……」
クローバーも嬉しそうなエリンを見て微妙そうな面持ちで喉を鳴らした。少しは自分の考えが間違っているかも知れないと思い始めたのかも知れない。
「それにそちらのメイド様が連れている狼……恐らくはフェンリルの子ども」
「な! フェンリルだと!」
「へぇ、凄いな。随分と詳しい」
「はい。森と共に生きる遊牧民として知られているノマデスとして、それなりに勉強はしてきましたから。フェンリルは森を守る神獣としても知られているのです」
へぇ、大したものだな。ノマデスねぇ、うん? ノマデス?
「エメラルド、そんな簡単に素性を明かしては……」
「何故ですか? 相手を信用しそして信用されるにはこちらの素性ぐらい明かさねば」
「いやだから別にこの連中に教える必要も」
「ま、待ってくれ! 君たちはつまりノマデス、なのか?」
「だから何だ? まさかお前たち……ノマデスウッドの森を狙う者か!」
クローバーの顔がまた険しくなった。ノマデスウッドの森は俺たちの目的地だ。やはり彼らはノマデスのようだが、狙う?
「いい加減にしてクローバー。全く……失礼しました。ご質問の答えですが確かに私たちはノマデスです。ですが、何故それを?」
「あぁ、勿論君達や森を狙っていたわけじゃないんだが、丁度俺たちはノマデスウッドに向かう途中だったのさ。ノマデスの長と話がしたくてね」
「お話ですか?」
「そう、君達はブルーという人物を知っているかな? 変わった歌を披露する男性なんだけど」
「何? ブルーさんの知りあいなのか?」
するとこの名前に先ず反応したのはクローバーだった。どうやら彼もよく知っているようだな。
「もし、そのブルー様が、吟遊詩人であり、そして、その、お。お胸が大好きな御方であるなら、存じています」
エメラルドが若干気恥ずかしそうにしながら答えてくれた。うん、間違いなくそれだ。そしてブルー……こんな子にまで性癖が知られるとは、一体何をしてきたんだ。
「……エメラルド、一ついい?」
「はい、何でしょう?」
「ブルーはあんたになにかしたわけ? 例えばそのおっぱいを揉んだとか吸ったとか、破廉恥なことでもしたんじゃないだろうね!」
「え? 揉む、吸う?」
エメラルドの顔がか~っと熱を帯びたように真っ赤に染まった。アイリーン……その質問の仕方はどうかと思うが。
「な、なんて奴だ、お、女のくせに、一体どっちが破廉恥だというのか」
「うっさいわね! 童貞野郎は黙ってな! それでどうなの?」
アイリーンが激しく言い返すと、クローバーが、な! と絶句した。うん、手厳しいなアイリーン。そして彼女に問い詰められたエメラルドは頬を両手で押さえつつ。
「そ、そんなことをあの方がするわけありません。た、確かにお胸はお好きだったようですが、凄く紳士的で、それにあの方のおかげで村は救われたのです」
「救われた? ブルーが何か助けになるようなことしたんか?」
「はい。ブルー様は、村に掛けられた呪いをあの美声で救ってくれたのです。あの方の助けがなければ多くの人間の命が無情に奪われたことでしょう」
呪いを解いた、か。ブルーの歌ってどうしても妙なあの歌を思い浮かべてしまうけど、実際のスキルの歌はまた別だったしな。前も眠りを解除してくれたし、呪いを解く歌があってもおかしくはない。
「ですがブルー様のお知り合いであれば、信頼に値します。クローバーも納得しましたね?」
「う、うぅ……」
「納得したのなら、先ず謝る」
「くっ……さっきは失礼な事を言って、わ、悪かった」
エメラルドに促されクローバーが俺たちに謝罪した。ふぅ、これで彼の誤解もとけたか。
「にゃん、どうやら女の子に頭が上がらない様子にゃん」
「う、うるさい!」
「う~ん、それにしても一体どういう関係なんや?」
「クローバーは私の幼馴染なんです」
「ふん」
どこか照れくさそうにクローバーがそっぽを向いた。
「しかし、皆様は兄とお話に向かわれるのですか」
「うん、兄?」
「ノマデスの酋長でもあるグリーン・ノマデスは私の兄なもので」
そうだったのか、これはまた妙な偶然があったものだな。でも、それならと、エメラルドには簡単に俺たちの目的を伝えてあげた。
「……なるほど、ブルー様がいよいよ反旗を翻すおつもりなのですね」
反旗を翻すか……確かに結果的に戦争になりかねない戦いだとブルーも言っていたし、そうなるとそういうことにもなるのか。
「その様子だと、事情は知っているのかな?」
「ブルー様のお考えの全てがわかるわけではありませんが、レクター領の現在をかなり憂えてはいたようなので」
憂えていたか、当時から領地をなんとかしたいと思っていたということだろうか?
最初はそんな感じには思えなかったけど、アドベンウッドをきっかけに色々思うところはあったようだしな。
う~ん、そうなるとやっぱただの吟遊詩人ってことではないんだろうな。
「しかし、正直言って今、その話に協力するのは難しいとは思うぞ」
エメラルドと話していた俺たちだったが、そこで意見を口にしたのはクローバーだった。難しい、か……。
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