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第35話 盗賊が支配する村
「くっ、私をこんなところに連れてきてどうするつもりだ!」
拠点にしている村まで攫ってきた女を連れてきた。しかし、ふん、全く気の強い嬢ちゃんだぜ。一応は町長の娘ってことでこれでも丁重に扱ってるつもりなんだがな。
「まぁまぁ、そんな怖い顔するなって。別に取って食おうってわけじゃないんだこっちは。むしろ感謝してほしいぐらいなんだぜ?」
「感謝ですって?」
睨むような目で応じてきた。しかしたまんねぇなその目つき。全く、思わずこのまま襲いかかりたくなるが、少しは辛抱しねぇとな。
「あんた、父親を殺されたことを恨んでるんだろう? 当然そうだよなぁ? だから、その復讐に俺らが協力してやってもいい。どうだ? 悪い話じゃないだろう?」
「ふざけるな! こんな無理やり人を連れ去るような連中、信じられるものか! 大体お前ら盗賊だろう!」
「確かに俺らは盗賊だ。そして盗賊の中には領主に寝返って協力して尻尾を振る犬ころもいる。だがそんな連中、俺らからしたら盗賊の風上にもおけねぇ連中だ。いいか姉ちゃん、俺らもあんたと一緒なのさ」
「一緒だと?」
「そうだ。領主の事が気に食わない。だからこうして拠点を持って反旗を翻すそん時を待っているんだ。だからこそこの村も俺たちに協力的なのさ。だがな、そのためには俺らにも何かしらのまとめ役がいる。旗頭って奴だ。それを嬢ちゃんあんたに任せたいんだ。どうだ? 悪くないだろ?」
「旗頭ですって?」
かかっ、食いついたな馬鹿め。確かに俺らは領主に与しちゃいないが、それは余計な役目を押し付けられるのが面倒だからだ。俺らは好き勝手やって盗賊として奪い犯し殺せればそれでいい。
この村も領主からしたら取るに足らない小さな村でしかなく目をつけられにくいから選んだだけだ。勿論たまには様子を見に来るかもだがその時だけ上手く隠れてやり過ごせばいい。それでこの村が見捨てられるようなら奪うものだけ奪っておさらばすればいいだけだ。そんときはまた丁度いい村を探すだけだしな。
とは言え、最近は領主の動きも活発でしのぎがキツい。こんな小さな村でせせこましくやってても仕方ないのも事実だ。
だからこいつを利用する。こいつを建前でも旗頭扱いで置いておき、こいつの父親と懇意にしていた連中からカンパを集める。理由は何でもいい、不幸な娘を救うためでも、来るべき日に備えて軍資金が欲しいでもな。
そうやって大金をせしめたら、ま、こいつはお役御免だが、中々いい女だしな。奴隷として手元においてやっていてもいいか。
「本当に私に協力してくれるのですか?」
はは、やっぱ所詮女だな。しかも若い。だからこんな口車にすぐに乗せられるんだよ。
「勿論だ。我々は盗賊だが、この国を変えたいという気持ちは一緒だ」
「そうですか。なら今すぐ兵を用意してください。グレインベースの町を解放するための兵です。集めたらすぐに出陣するのです」
「は? いやいや、それは流石に気が早すぎだぜ」
この女無茶いいやがる。大体こっちは本気で領主に楯突く気なんてないっての。
「何故ですか? 旗頭は私なのでしょう? 協力もしてくれるといったじゃない。それならやってよ。やりなさい!」
眉を怒らせて偉そうに口にしてきやがった。全くこっちは少しでも気を引かせる為に旗頭なんて適当な役目与えてやろうってだけなんだぜ?
なのにくそ、この女、調子に乗りやがって。だが落ち着け、とにかく上手いこと言って丸め込まないとな。
「いやいや、それは無茶だぜ。大体物事には順序というもんがある。慌てちゃ駄目だ。先ずは準備を整えるのが先決さ。だからあんたを旗頭とした上であんたの親父と親交のあった貴族に協力を仰ぐんだ。そのうえでカンパを集めて軍資金を揃える。話はそれからだ」
俺はできるだけ穏やかに、相手を立てながらなんとか説得を試みたんだが。
「とんだお笑い草ね」
「何?」
こいつ、人を小馬鹿にするような目でそんなことを抜かしやがった。
「まさかそんな話に私がホイホイ乗るとでも思っていたの? 馬鹿にしないで! 最初から私をダシにして金や物資を集めるのが目的なんでしょう? そもそもこの村だってあんたらたちが力で支配しているだけじゃない! 村の人が協力的なのか無理強いなのかぐらい目を見ればわかるのよ。この村の人には全く生気が感じられなかった! 本気で協力しようって人の目じゃないのよ!」
チッ、この女、世間知らずの餓鬼と思いきや、多少は頭が回るらしいな。だったら――
「あぁわかったわかった。そのとおりだ認めるよ。こっちはテメェを使って金をせしめることが出来ればそれでいい」
「やっぱり……」
俺は両手を広げてあっさり考えを明かしてやった。もうこれ以上ごまかす必要がねぇからな。こうなったプランBだ。
「あぁ、だからな」
「え? きゃ、きゃぁああああぁああ!」
「うるせぇ、おら暴れるなおとなしくしやがれ!」
へっ、こうなったらこっちの手、暴力のBでプランBさ。
さぁ行くぜ。無理やり犯して子どもを産ませるんだ。いくら口で言っても所詮は女よ。餓鬼が出来れば大人しくなんだろ。それでもうるせぇならちっともったいないが廃人にして体だけ利用する。餓鬼が出来てればカンパを募る理由付けぐらいにはなるからな。少し時間がかかるのが欠点だが仕方ねぇ。
はは、しかしこんなことなら最初からこうするんだったな。
「か、頭大変です!」
「ああん? うるせぇ、今忙しいんだ見てわかんねぇのか!」
「ん~! ん~!」
女の口を塞ぎながら衣服を剥ぎ取ろうとしていたら手下が入ってきやがった。少しは気を遣えってんだ馬鹿が。
「そ、それどころじゃないんですって! 村にやってきた連中が暴れまわっていて!」
は? 何だと?
◇◆◇
地図にあった村に俺たちは向かった。盗賊たちが隠れ蓑にするのに丁度良さそうな村がそこだって話だったが、確かに険阻な山に囲まれた盆地にひっそりと存在するような村だ。ろくに道も整備されておらず行くだけでもわりと一苦労だった。
ステップキャンセルも障害物が多くて道が悪い場所だと効果は薄いし。
とは言え斥候役のカラーナやセイラの活躍もあって最短のルートを行くことは出来た。そうこうしている内に正面に村らしきものが見えてくる。
途中に畑もあり、畑仕事をしている農民の姿もあったが皆死んだ魚のような目をし、俺たちを見ても無関心と言うか、構う気力すら無いという有様だった。
その段階で村がどういう状況なのかほぼわかったようなものだ。村の前には武装した屈強な男が数人立っていた。農民は痩せこけていて碌に食べ物も与えられてなさそうなのに正面の連中は血色が良く元気そうだ。
とりあえず俺たちは作戦通り襤褸を纏って近づいていく。顔だけは認識できるようにしていたわけだが。
「あん? なんだテメェらは?」
「はい、実は今の領主の酷い仕打ちで村が潰されてしまい、なんとか命からがら逃げてきたのですがここ数日何も口にしておらず、水すらも碌に飲めない有様なのです。なのでどうか、少しで構わないのでお恵み頂けませんか?」
俺はとにかく本気で困っている体を装った。正面の男が面倒くさそうな顔で文句を言う。
「は? ふざけんな糞が! 誰かそんな貧乏たらっしい連中に……」
「おい待てよ。こいつ、連れてる女はかなりの上玉だぜ?」
「うん? ヒュ~よく見ればたしかにな。こりゃいい。よしわかった、おいお前女だけおいてけ?」
「へ? いや、ですが、それは、それに食べ物もまだわけてもらっては……」
「うるせぇ! だから女だけ俺らで可愛がってやるから寄越せってんだよ!」
「ま、嫌だと言っても無理やり奪うんだけどな」
「男は殺せ! 女は奪え! てな」
「そ、そんな……それではまるで盗賊ではございませんか」
「カカカッ、ば~かまるでじゃなくて盗賊なんだよ」
「俺らはこの村を支配する泣く子も黙る赤い禿鷹団よ! そんな村にやってきたことを後悔するんだな!」
「なるほど。いや全くあっさり正体を明かしてくれる馬鹿で助かったぜ」
「あん? なんだとて、え?」
俺は目の前の男が最後までいい切る前に、愛用の双剣で首を刎ねた。一応勘違いだったら困るから聞いてみたが、村を支配している盗賊と言うなら容赦する必要もない。
「な、なんだおま、ギャッ!」
「ガルルルルゥ!」
「ひ、狼が、え?」
「悪いけどなぁ、ボス以外には指一本触れさせるつもりないねん」
フェンリィが一人の首に噛みつき一撃で仕留め、カラーナも得意のナイフで心臓を一突き、そしてアイリーンの弓が他の連中に眉間を射抜いた。
こうして入り口を守っていた門番共は全員始末し、俺たちは村に殴り込んだ――
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