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第36話 村で大暴れ
「おおおおぉおおお! いいぞやってしまえ~~~~!」
「盗賊共をぶっ殺せぇええええ!」
な、中々過激な声援が村人から浴びせられた。俺たちは今、盗賊に占領された村に入り、向かってくる盗賊相手に大立ち回りを演じている。
村を占拠している盗賊たちは正直言えばここまで様々な相手と戦ってきた俺たちからすれば大したことはない。盗賊たちはジョブも高くても上位止まりといったところだ。こっちのメンバーは高位職が揃っているし、俺は最高位だ。それに俺とカラーナはセカンドジョブだって持っている。手こずる理由がなかった。
「ぐ、こ、こいつらツエ~!」
「お、おい先ず女を捕まえろ! 話はそこからだ!」
「馬鹿、その女がそもそも強いんだよ!」
「何? だ、だったらそっちのひ弱そうな男だ! そっちを狙え!」
「誰がひ弱だ!舐めるなリーフカッター!」
「ギャッ!」
「は、葉っぱがまるで刃物みたいに!」
うん、クローバーは見た目魔法職だし、なんとかなると思っていったんだろうけど、ドルイド系は詠唱の手間がないから魔法の行使が早い。村には雑草もそれなりに生えていて、ドルイドからすればそれも立派な武器なようだ。
「だ、だったらそっちの女を狙え! 弓使いだが纏めて強引に攻めろ!」
盗賊共が次に狙ったのはノマデスのエメラルドだ。確かに彼女はこのメンバーで言えば若い、まぁもっと若い子がいるけど、とにかく少女相手なら数で攻めればなんとかなるように思えたのだろうが。
だがそれは甘かった。彼女は弓を扱うが同時に鷹を操るフォルコナーでもある。ファルと名付けられた鷹が彼女に襲いかかってきた盗賊共に空中から鋭い角度で急降下、回転を加えた突撃で数人が吹っ飛んでいく。鷹ってこんなに強いのか……ジョブの恩恵もあるとは思うけど異世界は動物も中々アグレッシブだな。
「な、なんだこの鷹は! 畜生が!」
「ごめんなさい――」
「へ? ぎゃっ! いてぇえええぇェ!」
エメラルドは一言謝りながら弓で盗賊たちを射抜いていく。ただ、殺してはいないようだ。ノマデスは争いを好まないといったか。そういえばクローバーも相手を殺してはいない。
無力化程度に抑えているようだ。とはいえやられた盗賊は戦線からは離脱する形となり相手の戦力はどんどん削り取られていっている。
「こっちだこっちの餓鬼を捕まえろ!」
すると盗賊の何人かが声を上げ、よりにもよってエリンに手を出そうとしている。
「あぁ、お前らそれは止めておいたほうがいいぞ」
「馬鹿が! 止めるかよ! やっぱこいつが弱点だったか!」
「さっさと捕まえてやれ!
「むぅ、悪い人にはお仕置きなのーーーー!」
「「「「「へ? ぎゃぁああああぁあ!」」」」」
うん、エリンが地面を捲りあげて盗賊共をふっ飛ばした。エリンはドワーフの怪力とエルフの魔力を有したハイブリットエルフだからな……とは言え子どもだから何かあったときのために、いつでもキャンセル出来るよう警戒はしておいたけど見事に杞憂だったな。
さて、セイラはフェンリィと一緒に盗賊共を次々と倒していってるし、カラーナとアイリーンも短剣や弓に相手は手も足もでない。
ニャーコも忍術で相手を寄せ付けず今も口から火を吐いて火達磨になった盗賊たちが地面をゴロゴロ転がっていた。
俺は俺で群がる連中を双剣でぶった斬っていき、足元には動けなくなったり命をなくした盗賊が転がっていた。もう数もかなり減ったな。相手の方が数が多かった筈だが、もう仲間の大半がやられたからか残りの面子は完全に腰が引けてしまっている。
「テメェらそんな連中相手に何手間取ってやがる!」
するとひときわ大きな声が村中に響き渡った。残ってる盗賊達が足を止め、かと思えば走って俺達の前から離れていった。
「頭! そうは言ってもあいつらめちゃくちゃ強くて!」
「仲間も大分やられた、もう戦えるのそんなに残ってねぇ」
「何? テメェらよくも仲間を!」
盗賊たちが縋るように向かった先で立ってるあれが頭か。結構デカいな。といってもこれまでだって体格のいい連中は散々相手してきたから、今更驚くほどでもない。
だが――
「仲間たちがやられた落とし前はたっぷりつけてやりたいが――そっちの二人はノマデスだな! 雰囲気でわかるぜ!」
クローバーとエメラルドを指差して頭が言った。そしてグイッと縄で縛った少女を引き寄せる。恐らくだがあの子がノマデスの森から攫われた町長の娘なんだろう。
「マイリス!」
「え? エメラルドにクローバー……どうしてここに?」
エメラルドが叫ぶと頭に捕まっている少女が反応した。やっぱりそうか。
「へへ、やっぱりな。この女を取り戻しにきたってところか。だったら話がはえーお前ら今すぐ武器を捨てろ! さもないとこの女がどうなるか、わかってるな?」
下卑た笑みを浮かべて頭がいった。全く、盗賊のテンプレみたいなやつだな。
「くっ、卑怯な真似を!」
「は、なんとでも言え。大体こいつを助けにきたのに正面からくるのが馬鹿なんだよ!」
「何や好き勝手言うてくれんなこのハゲ」
「は、ハゲぇ? ハゲだとテメェ! よく見ろ! 髪はあるだろうが! どこがハゲだ!」
カラーナが叫ぶと、頭は左右に残ってる髪を指でなぞるようにして訴えた。あ、うん、そうだな。確かに頭頂部以外はまぁ、髪はある。うん、つまり真ん中だけ見事に髪がない。
「……気にしてた?」
「ニャン、そうみたいにゃん。女々しい盗賊にゃん」
「誰が女々しいだコラ!」
「ねぇねぇ、どうしてあのおじさん真ん中だけ髪がないなの? 変なの! 変なの!」
「うん、まぁあれだ。歳を取ると色々あるんだよエリン」
「誰が年だこら! 俺はまだ二十五だぞこら!」
え? に、二十五だ、と? 嘘だろおい。見た目だけならその倍でも驚かないぞこっちは。
「驚いたなの! 全然子どもなの!」
そしてエリンが驚いたように言った。うん、そうだね。エルフ感覚で言えばね。
「エリンちゃうで、人間とエルフは寿命がちゃうんや。二十五ちゅうことはエルフで言えば二百五十歳ぐらいや」
「驚きの事実なの!」
エリンが目を大きくさせて両手を開きながら可愛らしいことをいった。くそ、なんて破壊力だ!
「畜生! なんだその生き物は可愛すぎだろ糞!」
「お前が言うな汚れる」
「は?」
「……その台詞だけで万死に値する」
「軽く死刑にゃん」
「グルルルルルウウゥウウウ!」
全員から総批判された頭が目を丸くさせて、俺そこまで言われるようなことしたか? という顔をしているがお前はエリンを見た時点で罪だからな。
「くそ、舐めやがって。まぁいい、こっちには人質がいるんだ。わかったらとっとと武器を捨てて俺の言うとおりにしろ! 何、安心しなそっちのエルフと女は可愛がってやるよ。男は死ね!」
清々しいぐらい思考のハッキリした頭だな。至極わかりやすい。
「おらさっさと武器を捨てろ!」
「くっ、言うことを聞くしか無いのか……」
「クローバー仕方ありません、ここは」
「だが断る!」
「「はい?」」
俺が叫ぶとエメラルドとクローバーが目を丸くさせた。まぁ俺もちょっと叫んでみたくなったわけだけど。
「は? え? お前何言ってるの?」
「だが断ると言ったんだ」
「アホか! そんなことは聞いてねぇ!」
「そうだぜ。大体だがってなんだよ! そこは普通に断るでいいだろ!」
「いや、お前ちょっと黙ってろ……」
盗賊の手下が俺にツッコミを入れてきた。細かいやつだ。
「いいか俺は武器を捨てろと言ったんだぞ? そうでないとこの女がどうなるかわかってるのか!」
「そうよ! 何考えてるのよ! 貴方馬鹿じゃないの!」
「……は?」
おいおい、何か頭に捕まってるマイリスが眦を裂いて怒り出したぞ。
「武器を捨てないとこいつ私に酷いことするとか言ってるのよ! さっきだって私のことを孕ませるとか頭のおかしなこと言ってきて襲おうとしてきたんだから! 危なかったんだからね! 助けに来るならもっと早くきなさいよ馬鹿!」
「はぁ、え~と……」
「なぁ、あいつ助けなくてもえぇんか? えぇよな?」
「いや、それは……」
カラーナがマイリスを指差しながら不機嫌そうにエメラルドに問いかけた。
彼女が困った顔を見せてるが、しかし、気の強い女だな……。
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