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第37話 盗賊からの救出
「とにかく! 私はこんなところで死ぬなんて嫌だからね!」
マイリスはなんというか、人質としては当然のことを言った。うん、ま、まぁそうだよな。誰も死にたくもなければ酷い目にも会いたくはないよな。でも、なんだろうモヤッとする!
「……俺が言うのもなんだが、お前ら本当にこいつを助けるつもりか?」
「うちは助けへんでもえぇ気がしてきたわ」
「私も姐さんと同じ気持ちですよ」
「ニャーコはもうどっちでもいいにゃん」
「ヒットお兄ちゃん、エリンね、ねむねむなの」
な、なんかあの頭の質問への回答が投げやりだ。エリンについては瞼をこすり始めたし! いや、確かに疲れやすいんだけどねエリンは!
「皆さん、そのお気持ちはわからなくもないですが、どうか」
「……あれでも一応はノマデスで責任を持って預かった女なのだ」
「あ、あぁ。勿論助けるつもりはあるから、そんな顔しないでくれ」
クローバーとエメラルドが不安そうな顔を見せた。だけど乗りかかった船だし今更見捨てる気はない。
「ふん、まぁいい。ようやく理解できたようだな。ならもう一度言うぜ。大人しく武器を捨てろ!」
「断る! 俺はそう言った筈だぜ?」
「は?」
「ちょ、ちょっとあんただから何言ってるのよ! 私が死んでもいいの!」
「落ち着けって」
マイリスはやはり不機嫌そうに文句を言ってくるが、俺は話を続ける。
「そいつはマイリス、あんたを必要としている。人質だと言ってるが、最初から殺す気なんてあるわけないんだよ。なぁそうだろ?」
俺は盗賊の頭に挑発まじりの言葉をぶつけてやった。すると、チッ、と舌打ちし。
「俺も舐められたもんだ。確かにこの女を利用するつもりはあったが、いなきゃいないでどうとでもなるんだよ!」
「違うな。お前は焦っている。このまま村で隠れ潜むのにも限界があると思ってるんじゃないか? レクターも冒険者を取り込み動きが活発化しているからな」
「……なるほどな。それでこいつは殺せないと踏んだか? だったら、先ずこいつの腕を一本切り落とす! それで少しは俺の本気がわかるだろうよ!」
「え? きゃ、キャーーーー!」
頭がマイリスの腕を取り、得物の曲刀を振り上げたわけだが。
「その時を待ってたぜ! キャンセル!」
「何? な、なんだ? 何で振り上げた筈なのに!」
「――フェンリィ」
「アオオォオオオオオン!」
俺のキャンセルで頭の動きが中断され腕も下ろされた。そしてそのタイミングでセイラが声を上げ、密かに忍び寄っていたフェンリィが頭に襲いかかる。
「な、お、狼だと! ち、畜生どうして!」
「今だマイリス走れ!」
「あ!」
フェンリィの強襲で頭の腕が緩んだ。武器を持った腕も下ろされている。その隙にマイリスが頭の手から逃れこっちに向けて走ってきた。
「く、くそ! お前らさっさとなんとかしろ!」
「「「「「「くそ! 撃て撃て!」」」」」」
頭の側にいた手下共が弓を構えマイリスを狙ってくる。だがそうは問屋が卸さない。俺はファルコンの照準を定めキャンセルを組み合わせてボルトを放った。
「コインショットバースト!」
「ウィンドショット!」
その上でカラーナのコインとアイリーンの魔法の矢も重なり、手下共は次々と地面に倒れていった。頭もフェンリィに引きずり回されもう抵抗できる状態じゃない。
「はぁ、はぁ……全く、焦ったじゃない本当!」
そしてマイリスも無事だ。ただ、見捨てられると思ったのか若干不機嫌そうではあるのだけどな――
◇◆◇
「くそ! こんなところで――」
頭を含めた生き残りは縄で縛り一箇所に纏めた。盗賊はそれなりの数いたが、今残ってるのは十人程か。恨みがましい目で俺たちを見てきている。
「俺たちをどうするつもりだ?」
そして縄で縛られた状態の頭が俺を見上げ額に汗を浮かばせながら問いかけてきた。
しかし、どうすると言われてもな。
「戦いは終わったし、マイリスも戻ってきた。もう俺達から何かしようとは思わないが、村人がどう思うかってところか」
盗賊達が周囲を見回す。村人が縛られた盗賊に殺気を向けていた。このまま村に置いて出ていけばきっとそれ相応の報いは受けることになるのだろうが。
「助かりたいならあんた達、この私につきなさい」
「はい?」
しかし、この状況でマイリスがそんなことを口にしだした。何だ? どういう意味だ?
「あなた達、言ってたじゃない。私に協力するって。それを実際にするのよ。私の為に兵となって戦うって誓うなら、許してやらなくもないわ」
「ちょっと待ちなよ! あんた何勝手なこと言ってるんだ!」
「むぅ、何か厄介な女な気がしてきたにゃん」
アイリーンが文句をいい、ニャーコは不安を募らせた。確かにそんなことを勝手に決められても困るな。
「おいマイリス何を言ってるんだ! お前はこいつらに攫われたんだぞ? それに兵って、まさかまだ一人で父親の敵討ちなんて馬鹿なこと考えてるのか?」
「そうよ悪い!」
クローバーが語気を強め渋い顔を見せた。そういえばグレインベースの町で町長をしていた父親が処刑されたんだったか……。
「私は貴方達みたいな臆病者とは違う! 相手にいいようにやられて、それでも抵抗せず森の奥でびくびく隠れて過ごすような弱虫な民族とは違うのよ!」
マイリスが叫ぶ、それを聞いていたエメラルドは物憂げに目を伏せた。
この子は父親を失った悲しみと復讐心に心が囚われているのだろう。ただ、だからと言って……俺が一人黙考していると、カラーナがつかつかとマイリスの側まで近づき、その頬を引っ叩いた。
ええぇえええ!
「痛ッ! な、何するのよ!」
「だまりや! さっきから自分勝手なことをベラベラとくっちゃべってばっかやけど、あんたその前に先ずするべきことがあるやろが!」
「は? な、何がよ!」
「何がよじゃあらへん! さっきからあんた謝罪もなければお礼すらないやろ! あんたこの二人に、そしてあんたを匿ってくれていたノマデスの人たちにどんだけ迷惑かけたと思っとるんや! このクローバーとエメラルドかて、あんたみたいな小生意気な女でも心配してここまで探しに来た上、危険とわかっていても盗賊に立ち向かったんや! それなのに臆病者呼ばわりするなんて最低やで!」
「ぐっ、あんたに何がわかるのよ! 私はお父さんを殺されたのよ!」
「……せやな、人の気持ちなんてそう簡単にわかるなんていい加減なこと、うちには言えへんわ。でもな、誰かを失う悲しみを抱えているのが自分だけやなんて思い上がったこと言うのはガキの証拠や! ここにいるアイリーンだってな父親を殺されとる。せやけどあんたほど馬鹿ではない!」
「……姐御――」
カラーナの言葉にアイリーンが涙ぐんだ。そうだ、こんな世界だから何かしらの悲しみを背負ってる人間は多い。そもそもカラーナだって大切な仲間を失った過去がある。
「……復讐なんて馬鹿らしい、なんていう気はこれっぽちもないわ。せやけどな、命を懸けて守ってくれた人や自分を心配して駆けつけてくれた相手を軽んじるようなもんに、一体何ができる言うんや?」
「…………」
カラーナの言葉にマイリスは俯き、肩をプルプルと震わせた。その瞳には涙が溜まっていた。そして――
「……エメラルド、クローバー、二人共、心配掛けてごめんなさい。そして、皆も助けてくれてありがとう……」
そうお礼と謝りの言葉を述べた。心からの言葉なようだな。
「ふん、お涙頂戴のいい話ってか? 全くヘドが出そうだぜ」
だがそんな俺達を見ていた頭が吐き捨てるように言う。こいつらこの状況でよくそんなことを口に出来たもんだな。
「お前ら自分の立場わかってるのか? 大体二人が苦労したのもお前らのせいなんだぞ?」
「俺らのせい? は、馬鹿いえ。寧ろ感謝してほしいぐらいだぜ。結果的に俺たちはその女の命を救ったようなもんだからな」
「命を救ったって、何わけのわからないことを言ってるにゃん?」
「少しでも助かりたい思うて言うとるなら見苦しい話やで?」
「は、ちげーよ馬鹿。そもそも俺たちがその女を攫ったのは、前もって情報を掴んでいたからさ」
情報?
「おい、一体何の情報だ?」
「はは、それはな、あの町の連中が森を焼いてノマデスの連中を燻り出し排除に掛かるって情報だよ」
「な、何だって!」
頭の話を聞いて驚きの声を上げたのはクローバーだった。しかし、森を焼くとは――
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