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第38話 盗賊の知る情報
「俺らがこの村だけじゃしのげないって思ってたのは事実だ。だからこそわざわざあんな町近くまで行って何か金になりそうな上手い話はないかと探ってたのさ。その時に冒険者がそんなことを言っていたのを聞いたのよ」
「森を焼くって一体何のためにだ?」
「そこまでは知らねぇな。とは言え、何かヤバい匂いがプンプンだったからとっとと引き上げようと思ったんだがそんときにその女を見つけたから序に攫わせてもらったってわけだ。どっちにしろそのまま黙っていたら森と一緒にそいつも焼かれていた筈だ」
だから自分たちが助けたも同然と言いたいわけか。全く同意出来ないけどな。結果的にそうでも攫って好き勝手しようとしていたのは事実だ。
だが、そんなことより問題は、今話していた森のことだろう。エメラルドの顔色も少し悪いようだ。
「そんな……ノマデスの森がそんなことに……」
「で、デタラメを抜かすな! 我らの森が焼かれるなど――」
「そう思うなら好きにしな。だがこの場で俺らがわざわざ嘘を言うメリットがあるとでも?」
「それは、確かに……」
「まぁ、森が焼かれる言うたからといってこいつらに何かあるわけでもないしなぁ……」
「くそっ! だったら今すぐにでも戻らないと!」
「……お前たち、その話が本当だとして決行がいつかは知っているのか?」
クローバーが慌て始める中、助けたばかりのマイリスが口を開いた。彼女の表情には悔しい気持ちが滲み出ている。色々と言ってはいたがやはりノマデスの民を心配しているのだろう。
「さぁな。だが、今から普通に戻ったところで間に合うとは思えないがな。それに事が始まったら森に向かうまでの道には見張りが立つことになるだろうし、そう簡単ではなくなると思うぞ?」
余計な邪魔が入らないように動き出すということか。当然それは冒険者なんだろうな。この領地のギルドは腐っていて所属している冒険者もゴロツキばかりだ。
「ボスどないする? うちらの目的はノマデスの長に会うことやけど」
「でも、何か危険そうにゃん」
「……ヒットの判断次第」
「アンッ! アンッ!」
「こいつの? 馬鹿言うな、こういうときこそ姐御の判断に従うのみですよね!」
「うちはボスに従うで」
「仕方ない。姐御がそういうならな。ほらさっさと決めろ」
「お前なぁ……」
全く相変わらずアイリーンはカラーナラブだな。とは言え、俺の判断と言うならもう決まっている。
「勿論森へ向かう。その話を聞いて放ってはおけないからな」
「何? 手伝ってくれるということか?」
「実際に森が危険と言うならそうなるな。それにノマデスの長には無事でいてもらわないと困る」
「ありがとうございます皆さん……」
エメラルドが頭を下げると肩に乗っていた鷹が甲高い声を上げた。鷹もやる気十分ってことか。
「なら急いで出る必要あるけど、こいつらどないする?」
「う~ん、罪人として突き出すにしても場所がないしな」
冒険者ギルドが機能していないし領主も当然当てに出来ずだ。盗賊の何人かは殺したが、だからといって既に無抵抗な連中を殺す気にはなれない。
「……だったら俺たちも連れてけ」
「は?」
俺は耳を疑った。この盗賊を連れていけだと? 何だ何を考えている?
「ふざけるな! 貴様らのような悪党を連れて行くわけないだろう!」
「ふん、お前には聞いてないさ。嬢ちゃん、あんたは後悔しているんだろう? 自分の不甲斐なさをな。だったら汚名返上の為に俺らを頼れ。俺たちは森までの近道を知っている」
「何ですって?」
マイリスの耳がピクリと動いた。今はとにかく時間が惜しい。そう考えれば近道が真実ならば頼りたいどころかもしれない。
「本当に、近道があるのか?」
「嘘は言わねぇよ。ここまで来たらな。もし嘘だったら俺の首を差し出してやる」
「おかしな話やな。そんなことをわざわざ教えて何か魂胆あるんちゃうか?」
カラーナが疑いの眼差しを向ける。それは当然のことだ。クローバーにしても疑念を抱いている。
「勿論タダじゃねぇさ。教える代わりに生き残った俺たちの命は保証しろ。そうすれば森の近くまでは連れて行ってやるよ」
交換条件ってことか。こいつらもやばり命は惜しいらしい。
「だったらこんな連中の言うこと聞かなくても、あたいが近道を吐かせてやるよ。姐御任せてください」
「やめいアイリーン。それにこういう条件を出す以上そう簡単に口は割らへんよ。こっちには時間がないんやしな」
カラーナの言うとおりだ。今にも森が焼かれそうになっているというならこんなところでボヤボヤしている場合ではない。口を割らせるのに掛ける時間なんてない筈だ。
「そういうことだ。そんな無駄なことに時間を食うぐらいなら俺らを頼った方がいいぜ?」
「……お前たちの仲間を殺した。恨みがないのか?」
「ガルルゥ……」
セイラが問いフェンリィが唸る。恨み――確かにこの盗賊の仲間はかなり殺した。それを後悔することはないが、頭には思うところもあるかも知れない。
「は、盗賊なんかに手を染めてる以上、ろくな死に方はしねぇってのは全員承知の上だ。覚悟だって決めている。お互いそんな感じだからな。仲間が殺されたからってそれを根に持つつもりはねぇよ」
「覚悟の上なのにお前たちはいま命乞いをしているだろうが」
クローバーが吐き捨てるように言う。顔を顰め、当たり前だがこの連中を良くは思っていないのがわかる。一方でエメラルドは沈黙を保っているが、表情には戸惑いも見られた。
「当たり前だろうが。覚悟を決めるのと助かるかも知れない命を無駄にするのとはわけが違うんだよ。少しでも生き延びる可能性があるなら地べたを這いつくばってでも縋ってやるさ」
生に対する執着はあるってことか。ま、それは当然といえば当然だろうが。
「――わかった。その言葉は信じましょう。ただし武器は持たせないという条件で」
「へ、それぐらいは仕方ないか」
いや、ちょっと待てよ。
「マイリス。そんな大事なことを勝手に決めるのはどうかと思うが……」
「ボスの言うとおりやで。あんたまだわかってないのか?」
「わかってるわよ! だからこんな相手でも信じないとどうしようもないじゃない!」
「……マイリス――」
俺とカラーナが口をはさむとマイリスが叫び目に涙を浮かべた。エメラルドが切なそうに彼女の名前を呟く。
「それとも、森に戻るのに他にいい手があるの? どうなの!?」
ヒステリックな声をマイリスが上げた。確かに……馬車は使用していないからステップキャンセルでも全員を運べない。それにあれも体力はしっかり消費する。長距離の移動であれば全く休み無くは厳しい。
するとエメラルドが決意の込められた目で顔を上げ。
「……彼らを信じましょう」
「何? 本気かエメラルド!」
「はい。それに、それこそここで言い争っている場合じゃありません」
「へへっ、決まりだな。それに俺らを頼れば今なら馬もついてくるぞ。ここから歩いて戻るには少々距離があるしな」
馬か……それは有り難いと言える。マイリスの言う通り武器を奪えば少なくとも手を出されることはない。頭には戦闘を走ってもらい俺が続けば逃げようとしてもキャンセル出来る。
「エメラルドもこう言っているなら、頼るのも悪くないだろうが。だが、村人がどう思うか……」
「わしらはその連中が出ていってくれるならそれでえぇ」
俺が問題点を上げると、聞いていたのか一人のお爺さんがやってきて口を挟んできた。
「そんな連中下手に残される方が迷惑だ。助けてくれたことは恩に着るが、わしらは人を殺すような真似もしたことがないしな。だからとっとと連れて行ってくれ。頼む」
逆にお願いされてしまった。こうなると仕方がないな。しかし、村人は俺たちに感謝はしているようだが、よそ者は受け入れられないといった様子もあった。
「本来は何かお礼でも寄越せと言われるところだろうが、その連中のせいで食料も水も不足している。どうしてもと言うなら女でも子どもで持っていけ。それでそいつらを連れて出ていってくれると助かる」
「ちょ、あんたら、こっちは村を解放してやったのになんだいその言いぐさは!」
「よせアイリーン。仕方がない。村にも余裕がないんだろう。とにかく人はいらない。こいつらは連れて行く」
「……済まんな」
そして老人は俺たちから離れていった。仕方がない。とにかく今は先を急ぐべきだろう。連中に案内してもらい馬を使い移動を開始した――
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