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第39話 近道を行く
「くそ、空からとか勘弁して貰いたいぜ!」
「へへ、気をつけんだな。あの魔物は大翼鳥だ。獰猛でしつこいぜ」
くそ、案内役の盗賊たちからは武器を奪っているから戦うすべを持っていない。だから魔物が出たら基本俺たちが相手する必要がある。
盗賊が教えてくれたルートは丘超えのルートでもあった。険しい山を越える必要は無いため、比較的楽だと聞いていたが、世の中そう甘くはない。
その代わりこの辺りは飛行系の魔物が多かったんだ。獰猛な空の怪物が次々と襲いかかってくる。
「ファルお願い――」
エメラルドが放ったファルが唯一この中で空を飛べる仲間だ。大きさは魔物と比べたら随分と小さく思えるが、侮るなかれその戦闘力は高い。やってくる大翼鳥を上手くかき乱してくれた。そしてその間にエメラルドが矢を射っていく。
「風印の術・輪にゃん!」
「ウィンドアロー!」
更にニャーコの忍法とアイリーンの魔法の矢が放たれ、大翼鳥を撃墜した。ふぅ、ま、空の相手は厄介だが、このメンバーは対空にも意外と強い。
戦えるメンバーなら全員何かしらの対抗策をもっているからな。俺だってファルコンという腕に装着した弩があるし。
大翼鳥が地面に落下した。近くまでいきクローバーとエメラルドが祈りの言葉を呟いた。魔物を倒すのもノマデスの民から見れば狩りと一緒なようで命を粗末にしないという意思表示なんだとか。
特に今回は素材を剥ぎ取っている暇が無いというのもあるので、それだけ祈りはしっかりやっているようだが。
「おいおい、急いでいるのにそんなの倒す度に祈ってたんじゃ意味ないぜ?」
「貴様、ノマデスの祈りを愚弄するか!」
「臨機応変ってのがあんだろうが。それとも大切な森が焼かれてもいいのか?」
「ぐぅ……」
頭が言った。う~ん、確かにそれは言えるかも知れない。盗賊に指摘されるのもなんだかなぁって感じだが。
「ま、確かにうちもそう思うわ。流石に一々足を止めていたら近道の意味ないで」
「だが我らはノマデスの民として!」
「わかりました。確かにそうですね。祈りは移動しながら捧げるようにします」
「え? そ、それでいいのかエメラルド?」
「今は先を急ぐのが先決です」
「エメラルドは結構融通が利くのよね。クローバーは偏屈だけど」
「誰が偏屈だ!」
マイリスが呆れ顔で言うと、クローバーが眉を怒らせた。気に触ったようだ。
「ガルルルゥウウウ」
「……フェンリィが警戒している。あまり一箇所に留まらないほうがいい」
「にゃん、空の魔物は獲物を見つけるのが得意にゃん」
「全く厄介だね。いざとなったら山賊とヒットを囮に逃げましょう姐御!」
「「「「ざ、ざけんな!」」」」
「どさくさに紛れて俺まで囮にいれるな!」
チッ、とアイリーンが舌打ちした。カラーナが堪忍なと右手を顔の前で立てた。ま、まぁ冗談だと思ってるから気にしないけど。冗談だよな?
とにかく祈りの件は簡易対応にしてもらうことにして馬を駆る俺たちだが。
「チッ、来たぜ人食い鳥女――ハーピーの群れだ!」
「「「「「グギイッギイギイッギイィギイィイギイィイ」」」」」
耳を貫くような奇声があたりを支配した。空から近づいてきたのは頭から胸までが女。下半身と翼が鳥という魔物だった。
ファンタジーではわりと定番の魔物でもある。顔は美しかったり老婆だったりと言われるが近づいてきているのは異様に口が裂けていて、牙がびっしり生え揃った女の顔だった。ぶ、不気味過ぎる。
「ハーピーの金切り声は精神を狂わすぞ。お前らも耳をふさげ!」
頭は他の仲間にむけて忠告。だが、俺たちはいちいち耳なんて塞いでいられない。
だが、長時間戦うと声で状態異常を引き起こされる可能性が高まる。短期決戦で行くべきだ。
「全員で一気に蹴散らすぞ!」
「任せてや!」
「お前が命令するな。姐御の為に頑張ります!」
どっちでもいいよ戦ってくれるなら。
俺はファルコンとグレネードボルトの組み合わせで矢弾を射っていく。貫通し次々と爆発して近くのハーピーも巻き込んでいく。
カラーナはコインで、クローバーも魔法でハーピーが撃墜されていった。中々にしつこかったが、移動しながら全て撃退。ふぅ、助かった。
「おいおい、あれだけのハーピーを倒しきっちまうとは、そりゃ俺らじゃ勝てないわけだ」
頭が感心したように言っているが、この手の盗賊に褒められてもな。
「それで、森まではどれぐらいで着くんだ?」
「このペースで行くってんなら明日の昼頃には着くと思うぜ」
明日の昼か……それでも普通に行くよりはずっと早いようだ。勿論全く休み無く走れば更に早いだろうが、馬も全く休み無しというわけにはいかない。
俺たちは適度に休みながら丘越えの最短ルートを進んでいく。勿論魔物からはやたら狙われたが、とにかくすべて倒しながら進んでいく。
「後はこのまま問題なく進めばいいんだけどな」
「ここまでくれば後はそこまで強力な魔物はいない筈だ」
「まぁ、ロック鳥が出たなんて話があったりするけどな」
「ははは、それは噂レベルだろ。それにいたとしても、たまたま出くわすなんてありえるわけないしな」
盗賊の頭と仲間が口々にそんなことを言った。おいおい、それって嫌な予感しかしないんだが――
「クケェエエエエエェエエエエエエ!」
「な、なんやこのでっかい鳥は!」
「ろ、ロック鳥だ! くそ、本当にいやがったとは!」
「なんて運の悪い連中なんだ!」
「お前らがフラグっぽいこと言うからだよ!」
「意味わかんねぇよ。何だよフラグって!」
今置かれているこの状況のことだよ! くそ、大翼鳥も大人の男性を三人や四人纏めて捕まえられそうな程でかかったが、こいつはそんなもんじゃすまねぇぞ。マンモスでもそのまま丸呑みできそうだ。一瞬巨大な雲かと思ったぐらいだし、こいつが出てきた途端辺りが暗くなったからな。
「姐御、ここはいよいよ囮の出番です。さぁお前達そしてヒット、私たちの為に死ね!」
「「「「「冗談じゃねぇ!」」」」」
「アイリーン、冗談言ってる場合じゃないで。あと、ボスが死んだらうちも死ぬ!」
「ぐぬぬぬぬ、何でお前ばっかり!」
何かアイリーンが歯ぎしりして恨みがましい目を向けてきた。この状況で何を言ってるんだ!
「……とにかくやるしかない」
「ガ、ガウ――」
「ロック鳥を倒すなんて、神の使わせた鳥とも言われる魔獣ですよ」
「全く罰当たりな連中だ」
魔物じゃなくて魔獣だったのか……道理で。
「これは流石にこれまでの相手と違いすぎにゃん……犠牲は覚悟しないといけないかもにゃん……」
いつも脳天気なニャーコでさえ真剣な顔で語る。そこまでの相手なのかよ……。
「ね、ねぇ、何か作戦あるのよね?」
「これといって無いぞ……とにかく全員で全力攻撃するしか……」
「ちょ、何よそれ大丈夫なの?」
マイリスが不安そうに口にするが、こっちだって正直確実に勝てるという保証がない。見ていてわかる、それほどの相手だ。
俺のキャンセルでもどれだけやれるか。いや、だがしかし、恐れおののいていても仕方ない。ここは俺がしっかりしないと!
「邪魔な鳥なの! エイッ! なの!」
「クケェエエエエェエエエエェエエエ!」
しかしその時、エリンが巨大な岩石を生み出し、ロック鳥に向けて投げつけた。ロック鳥すら悲鳴を上げるような投石だった。そしてバッサバッサと引き返していった。
「「「「…………は?」」」」
「鳥さん逃げたなの! 偉い? エリン偉い?」
「……せやな。うん、偉い偉い、結果オーライやボス!」
「あ、あぁ、そうだな」
いいのかそれで? いや、まぁいいんだな。深く考えるのはよそう。
そして俺たちは遂にノマデスの森の側まで来たわけだが、俺達の目に飛び込んできたのは何本も煙が立ち上がる森の姿だった――
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