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第42話 炎導師カージ
sideカラーナ
うちらの目の前に妙な女が立ちふさがってきたわ。真っ赤な髪に紅色の瞳。それに赤いローブを着て、杖まで赤いわ。本当徹底した女やな。
「また新手か! すぐに終わらせてやる! グリーンウィル! 根よ縛り付けろ!」
クローバーが魔法を行使したで。地中から太い根が飛び出してきてカージという女に迫ったんや。先手必勝やな。
ウネウネとうごめく根が女の体を縛り付けようとする。これで身動き取れなくすればうちらの勝ちや。
「――バルカン!」
せやけど、どうやらそこまで甘い相手ちゃうようや。燃える炎を模した杖の先端から小さな火の玉が数えるのも馬鹿らしくなるぐらい発射されて周囲に撒き散らしてきたんや。
「くそ、グリーンウィル! 植物よ壁となり皆を守れ!」
咄嗟にクローバーが魔法を行使したら、うちらを守るように植物が壁になってくれた。せやけど、それもカージの放った炎ですぐに焼き尽くされる。
一時しのぎってとこやな。でも、あいつは目の前でピンピンしとる。根も全部焼き尽くされたようや。
「ははは、坊やドルイド? だったら残念ね。私はカリエンテよ。炎に特化した私と植物を操る貴方じゃ相性が悪いわ」
カリエンテやって? また妙なジョブを持った女が現れたわ。
「だったらこれでどうだい! アクアアロー! フリーズアロー!」
「ファル!」
アイリーンが魔法の矢でカージを攻撃した。水の矢と氷の矢やな。確かに炎には効果ありそうや。更にエメラルドが呼びかけて鷹のファルが背後から迫ったで。
せやけど、先ずアイリーンの射った矢がカージに当たる前に燃え尽きおった。
「な、矢が!」
「残念。矢も相性悪いわね。触れたものは燃やし尽くすもの」
「ファル! 退いて!」
あわててエメラルドが命じたから、近づく前に旋回してファルば無事やった。
しかし、どないする? 近づいたら燃えるってそんなんずっこいやろ!
「姐御! 数ではこっちが上回っているんですから、全員で一気に攻めましょう!」
確かにうちらは皆遠距離攻撃を持っているのが強みや。向こうも魔法系なら接近するタイプちゃうやろうから魔法で攻撃してくるやろが、数の違いは大きいやろ。
「フレイムマジシャン! フレイムビースト!」
そう考えていうちらやけど、カージが更に魔法なのかスキルなのか、とにかく攻めを続けてきたで。あいつの周囲に魔法使いや獣を模した炎が現出しよった。
「あははは、数が上回っていれば勝てるって? だったらこれで数は逆転したね! 行けお前たち!」
チッ! どうやらこの燃える獣や魔法使いみたいな見た目の人型の炎も意思を持って動いているようやわ!
魔法使いっぽい見た目のは、しっかり魔法まで使ってるやん。
火の玉や炎の槍がばんばん飛んでくるしいやになるで!
「駄目や、こいつら切っても手応えあらへん!」
「矢も駄目なようです」
「くそ、植物は言うまでもない!」
クローバーが悔しそうに言いよった。炎の獣も魔法使いも通常攻撃が効かへん。しかもこいつら数が多いで! こんなのまで相手するの流石にちとしんどいで。
「姐御!」
「しもうた!」
炎の獣の一匹がうちに飛びかかってきたで、くぅ、反応が遅れてもうた! あかん、これは避けきれん――うちは覚悟を決めて耐える姿勢を取った。
せやけど、炎の獣がうちに噛み付く前にアイリーンの放った矢が当たり凍てついて砕けたんや。
「やった! 姐御! こいつらには氷が効きます!」
「おお! でかしたでアイリーン!」
「はい、こいつらはあたいにまかせてください!」
そしてアイリーンが氷の矢を乱れ打ちして炎の獣や魔法使いを減らしてくれたで。
「コインショット!」
「トリプルアロー!」
「リーフカッター!」
アイリーンのおかげでカージまでの射線が開いたで。うちらは一斉に攻撃を仕掛けたけど、やっぱ当たる前に燃え尽きた。これじゃあどうしようもないで――
「メガフレイドル!」
くそ、しかもこの女、詠唱無しで魔法を使ってくるで!
「あはは、メガフレイドル! メガフレイドル! メガフレイドル!」
巨大な火球が何発も連射される。なんとか避けるけど、着弾するたびに火柱が生じとるで。
「くそ、向こうは攻撃し放題かよ!」
あの女を守っている炎がなんとかなれば、えぇんやけど――
「駄目ファル!」
その時、エメラルドが叫んだんや。見るとエメラルドの相棒の鷹がカージの背後から突っ込んでいったで。せやけど、近づいたら燃えるだけや!
「な、くそ!」
せやけど、思ってもみないことがおきたんや。カージがファルを避け、ファルはそのまま通り過ぎて上空に飛んでいった。
でも、何で避けたんや? 確かに矢もコインも燃えた、せやけど――
「そうか! 生き物は駄目なんや! あいつが燃やせるのは物だけなんやな!」
「そうか! ならファル続けて!」
ファルが翼をバッサバッサと上下させた後、嘴と鉤爪でカージを狙いに行ったで! カージが苦虫を噛み潰したような顔を見せとる。これはビンゴなようや。
「舐めないで欲しいね! フレイムサークル!」
カージの奴がまた妙な魔法を使ったで。足元に大きな魔法陣が生まれたんや。
「エメラルド、一旦攻撃をやめさせるんや」
「はい、ファル待って!」
えぇ子や。エメラルドの声を聞いてファルが軌道を変えて空中に去ったのを認めた後、うちは投擲用のナイフを一本投げつけた。
するとサークルの上に差し掛かった途端炎が燃え広がった。ナイフも黒焦げになっておちてもうたな。
「ふん、よく気がついたね。だけど、この魔法陣は生物でも燃やすよ!」
そしてまたカージがサークルを作り出した。どうやら一回で効果は消えるようやな。
「一度で効果が消えるならいくらでもやりようはあるで!」
「馬鹿ね、ただ黙ってみているわけないじゃない。ナパームレイン!」
周囲一体に炎の雨が降り注がれたで! くそ、避けるのだけでもしんどいで!
「ジェントルステップ!」
「ホップリーフ!」
うちはファントムシーフのスキルのステップでなんとか炎の雨から逃れていく。クローバーは大きな葉っぱを出現させてそれに飛び乗って大きく跳躍した。アイリーンはファルが爪でしっかりキャッチして空中に回避する。あの鷹、力強いんやなぁ。
「お前たちも使いたきゃ使え!」
「アイリーンはそれに甘えるんや!」
うちはこのステップでなんとかなる。アイリーンはうちを心配しとったけど、ステップを見て大丈夫と判断したんやろ、クローバーの後に続いていた。
それにしても無茶な奴や……しかも森が――
「あぁ、森がこんなに……」
「くそ! 折角消したのにまた火の手が!」
「姐御、大丈夫ですか!」
「問題ないで。しかし腹立つ女やな」
とは言え、うちらはナパームレインとかいう魔法の範囲から逃げるためにあの女から結構離れたで。
癪に障るけど、わざわざ戻る必要もないな……あいつは魔法系のジョブやしおいついてはこれへんやろう、と思っとったら轟音が鳴り響き、空中に飛び上がるあの女が見えた。
な、何やあいつ飛べるんか! いや、飛べると言うより高くジャンプしたってところか。
「あはは、見つけた! 逃さないよ! ブレイズキャノン! ブレイズキャノン! ブレイズキャノン!」
あいつ、空中から魔法を連射してきた! 火炎弾が地面にあたり爆発していく。闇雲すぎやろ!
全く、何やねんこいつ――
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