第43話 植物の相性

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第43話 植物の相性

 カージちゅう女の魔法が途切れへん。空中からバラバラバラバラとほんま鬱陶しいねん!  しかもあいつ、空中で爆発繰り返してジャンプし続けてるからさっぱり下りてけぇへんのや。ほんまなんやねんこいつ!  「アッハッハ! 逃しはしないよヒートイレイザー!」  な、今度は杖から赤い光線を撃ってきおったで。しかも、あたった箇所が煙を上げて溶けてるやん。  こんなん喰らったひとたまりもない。しゃあないな。 「ダークスペイスや!」 「何? 何なのよそれ!」  うちのスペシャルスキルや。辺り一面を黒く染めたで。これで狙いはつけられへんやろ。 「お、おいさっぱり見えないぞ!」 「安心しぃや。うちにはしっかり見える」  そしてうちが指定して皆を誘導したる。カージが魔法を行使してくるけど、当てずっぽうでしかない。これで上手いこと逃げたるで。 「ふ~ん、なるほどね。だったら――ナパームレイン! ナパームレイン! ナパームレイン!」  チッ、今度はやたらめったらと火の雨を降らせる作戦に変えてきたようや。せやけど、うちには当たらへんよ。 「このまま逃げるか、有利な位置に移動するかやな」 「いや、待って……もしかしてこれって――クローバー!」    何や? マイリスが急にクローバーに近づいていって何や話しとるで。  せやけど、その間もカージって女の魔法は降り注いでくるし、ぼやぼやしてられへんで。 「急ぐんや、とにかく安全な場所まで」 「ま、待って姐御、何か急に息苦しく」 「わ、私もです……」  何やて? そ、そういえばうちも、頭もフラフラしてきたやん…… 「――やっぱりそうだった、んだ、あの女の目的は、酸素を奪うこと――」  酸素やって? つまり空気を奪ったちゅうことか。しもうた、こんなことで―― ◇◆◇ sideカージ    ふふ、上手く言ったみたいね。あの妙な黒っぽい靄が消えたかと思えば、全員倒れてしまっているわ。  ふふ、火はね周りの酸素を奪うのよ。これだけ派手に燃やしたら当然そうなるわよね。周囲の森も大分焼けたようだし。  何かあの子達の周りに生えてる雑草だけ残ってるけど、しぶとい草もあったものね。  まぁいいわ。そろそろ酸素も戻ってる筈だし下りても大丈夫そうね。  ちなみに私は耐火体質というスキルのおかげで火によるダメージはうけない。だからこそ足元で爆発させて空中で状態を維持できる。  私は爆発を繰り返しながら高度を下げて地面に着地した。倒れた連中どんな顔して死んでるかしら? 酸欠で死ぬなんてマヌケよね。  でも、酸欠ならまだ綺麗なまま死ねるんだし、少しはマシかもね。フフッ―― 「さて、うん、やっぱり顔も綺麗なものね。まるでまだ生きてるみたい」 「そりゃそうや、生きてるんやからな!」 「な!」  ど、どういうこと? どうしてこいつら生きて―― 「コインショット!」 「無駄よ!」  褐色の女が私に向けてコインを弾いた。でも私にはフレイムシールの効果がある。生物以外なら近づいた瞬間燃やし尽くす魔法よ! 「勿論、それはフェイクや!」 「何? キャッ!」    横から飛んできた鷹が私に襲いかかってきて押し倒された。コインで気を取らせて鷹を動かした! くっ、しかもこいつ、鳥のくせに凄い力―― 「無駄です。ファルの爪の力は岩だって砕くほどなんです。大人しくしてないと肩の骨が壊れますよ」  鷹使いの女が私に警告してきた。何なのこれ? しかも周りに急に木が生えてきたし。 「どうして! 酸素は私の火の魔法で奪われた筈!」 「あぁそのとおりだ。正直マイリスが気づくのが遅れていたら危なかっただろう」  植物魔法を使っていた少年が口を開く。そうよ! あれだけの炎に包まれていたら例え当たらなくても酸素不足で死に至る筈なのに。でも、気がついた? あの、ただ守られているだけの女が? 「そして、お前の狙いを知った後すぐ周囲にこの草を生やした」 「草、その雑草のこと!」 「これは雑草なんかじゃない。魔法で生み出したオゾン草だ。この草は多くの酸素を吐き出してくれる」  酸素を、吐き出してくれる、そんな草が! そうかそれで! 「ほんまマイリスの手柄やで。それがなかったら危なかったでほんま」 「ま、認めてあげなくないこともないわね」 「べ、別にこれぐらい、どうってことないわよ!」 「とにかくこれでもう貴方も終わりです。大人しくしていてください」  私が終わりですって? 「エメラルドの優しさがあるからお前は生かされている。もうお前はチェックメイトだ無駄な抵抗はやめることだ」  こいつ、何を偉そうに! 私は火を極めし魔法使い! こんなところで負けてるものですか! 「馬鹿にしないでほしいわね。こんなことで私は終わらない! フレイムギガンテス!」  そう、私はまだ全てを見せたわけじゃない。スペシャルスキルが残っている! このスキルは私の内側から炎の巨人を生み出すのよ! 「ファル!」  鷹使いの女が叫んだ。肩から鷹が去っていく。ふん、異変に気がついて鷹を戻したようね。だけど無駄よ。 「ちょ、あの女から巨人が!」 「しかも炎に塗れた巨人や……」 「そうよ! 私が生み出したこの巨人はあらゆる物を燃やし尽くす!」  ふふ、ビビってるわね。だけど今更後悔しても遅いわよ! 「無駄だと言っただろう。既にこっちも手は打ってある。その植物でな」  植物? この周囲に生えてきた木のこと? こんなもの! 『ウォオオォオオオオォオオオオ!』  私が生み出した巨人が周囲の木を薙ぎ払う。炎に塗れた腕で倒れた木が次々と燃えていった。 「言ったでしょう! 私の魔法とお前の植物では相性が最悪なの! この程度の魔法じゃ話にならないわね!」 「……いや、これで俺たちの勝ちだ」  は? 何言ってるのこいつ? 自信満々の顔して? 「ふん、所詮ただの強がりよ。さぁこいつらをさっさと燃やし尽くしな――え?」  あ、あれ? 私の膝が意思とは無関係に折れ地面が近づいてくるのがわかった。力が入らず前のめりに倒れてしまったからだ。  全身が痺れて、全く動けない―― 「残念だったな。お前が燃やしたのはキョウチクマトウ。全身に毒を持つのが特徴の樹木だ。そして燃えた時に発生する煙にも強い毒性がある」  あのドルイドの小僧が語りだす。そして説明を受けている間に、生み出した巨人も消滅してしまった。毒、ですって? 煙に毒、それで、でも、だとしてもおかしい。どうして? 「どうして俺たちは平気なのか? て顔だな。当然だろう。俺は植物に精通しているドルイドだ。当然、毒に対抗する植物も生み出せる。前もってそれを摂取しておけば俺たちが毒に冒されることもないということだ」  そ、そういうことね。ふふ、参ったわね。火属性の魔法は植物に負けないなんて言っておきながら、結局その火魔法が原因でやられることになるんだから本当、ざまぁない――
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