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第44話 まるで盗賊の様だ
途中でノマデスの弓使いであるスピニッチを助けた俺達は、彼らの暮らす集落に向けて足を進めていた。
案内はスピニッチが買ってくれたが、途中途中で森を燃やしている連中と遭遇しそのたびに排除していくことになった。
流石に放置してられないしな。それで森が燃えては意味がない。
「しかし随分と冒険者の数が多いな。一体どれぐらいの人数が来てるんだ?」
「私が見た限りでは百人近くはいたかと思うのだが……」
そんなにいるのか……この森でそんなに投入するとは、ちょっとした部隊だな。
「おい、何か仲間を殺して回っているのがいるらしいが、あいつらだろ!」
「よくもやってくれたわね!」
「ぶっ殺してやる!」
すると今度は正面と背後から冒険者が近づいてきた。全部で五人か。しかし身勝手な理屈だな。
「お前らだってこの森で好き勝手暴れてるだろうが」
「……やる覚悟があるならやられる覚悟ぐらい持つ」
「ガルルウゥウ!」
俺の反論にセイラが乗ってきた。フェンリィも闘争心を顕にしている。
「黙れ! 俺らは冒険者だ! 逆らう連中は殺したって罪にならないんだよ!」
「にゃん、そんな馬鹿な話あるわけないにゃん。ローカルルールにしても酷い話にゃん」
ニャーコが呆れ顔で言葉を返す。こいつ一応王都で受付嬢やってたわけだしな。冒険者の規則なんかも当然熟知しているのだろう。
「黙れ、どこの馬の骨ともわからん連中が好き勝手いいやがって」
「あのな、一応俺は冒険者なんだけどな」
「ニャーコは受付嬢にゃん」
こいつらと一緒にはされたくないが、一応断っておく。ニャーコも自分にとって無関係でもないと知らしめるように俺の後に続いた。
「何! だったらどうして俺達を攻撃する!」
「冒険者だから?」
「は?」
男の一人が眉を顰めた。しかし、俺からしてみれば冒険者は困ってる人の味方だ。理不尽に森を焼いている冒険者の方がおかしい。
「そもそもニャーコ達はお前らの所属している盗賊みたいなギルドとは別にゃん」
「つまりよそ者ってことね」
「よそ者の冒険者風情が人の庭に勝手にやっていて干渉してるんじゃねぇ!」
「そうだそうだ!」
と言われてもな。ノマデスの民を守るのは俺達にとって大事な目的の一つだ。
「森を焼く方が悪いなの! 絶対に許せないなの!」
するとエリンがフェンリィの背中に乗ったまま冒険者達を説教した。な、何て立派なんだ。まだこんなに小さいのに、清く正しい心を持っている。
きっと将来は立派なエルフになるだろう。その血には半分ドワーフが混じっているが、そこは気にしないでおく。
俺がエリンの成長に感動していると、冒険者連中がエリンに注目しはじめた。
「おい、エルフの子どもがいるぞ!」
「あれは高く売れそうだ」
「こいつらはよそ者よ。なら奪っても問題ないわね!」
「ひゃっほぉ! 森を焼きに来てエルフゲットとはついてるぜ!」
「おい、よく見るとあの猫耳もメイドも上玉だぜ。色々と楽しめそうだ」
こ、こいつら。もう思考が盗賊とかわらないだろう。これで冒険者だなんて世も末だな。
「なんて嘆かわしい。森を愛し森と生きる至高の存在たるエルフに対してそのような考えしかもてないとは実に嘆かわしい。どうやら私も覚悟を決めねばいかぬようだな」
スピニッチが弓を構えた。確か彼のジョブはティアトーレだったか。そしてこちらの動きを見て向こうも攻撃態勢に入った。
「しゃらくせぇ! トリプルアロー!」
「炎が生まれた、この手に生まれた、それは無数の炎子、一つ一つは弱々しく、集まり塊まれば焔の顎門で貪り尽くす。さぁ踊れ炎爆なる灼弾よ!」
先ず弓を持った男が矢を放ち、後方の魔法使いらしき女が詠唱を開始する。前後から挟み撃ちするつもりか。
「あの弓は私におまかせを」
「なら、魔法は俺が対処する!」
「では、シールドアロー!」
スピニッチーが矢を放つ。すると途中で矢が盾のような形状に変化し相手の矢を全て受け止めた。
多分スキルだろうが、変わったスキルだ。防御に役立ちそうだな。
「ファイヤーバウ――」
「キャンセル!」
「ル、へ?」
そしてこっちでは俺のキャンセルで魔法が打ち切られ、魔法使いの動きが止まる。
「おしおきなの!」
そこへいつの間にか抜いていた樹木を丸太にしてエリンが投げつけた。当たったのは地面だがその余波で後方の三人が吹っ飛んでいく。
「やったなの!」
「ガウガウ!」
フェンリィの上でエリンが喜ぶ。しかしいつのまにかフェンリィの背中に乗ってるが何か馴染んでるな。
「な! 鎧が!」
俺達の進行方向上にいた戦士の鎧が砕けた。スピニッチの矢か。鉄の鎧が砕けるとは大した威力だな。
「にゃんにゃん!」
「ぐわっ!」
「……ウィップショット」
「ぐぉっ!?」
そして接近したニャーコの攻撃で戦士は喉が掻っ切られ、セイラの鞭スキルで弓使いもふっ飛ばされて頭から落ちて首が折れた。
こりゃ、エリンにやられた方はまだましだったか。もっとも向こうからやってきている以上、俺でも殺していたと思うが。
「やったなの!」
「アオン!」
エリンが喜び、フェンリィが称えるように鳴いた。エリンは本当に癒やしだな。
こんな可愛らしい子が虐殺するところなんて見たくないから、甘いかもしれないけどエリンはこれでいいと思う。
とは言え、このまま放置してはおけないか。ニャーコとセイラも近くに戻ってきたな。なら森に何するかわからないし拘束――うん?
「何だこいつら?」
「お人形なの?」
エリンも首を傾げていた。藪の中から妙な形をしたのが現れたからだ。エリンの言うように確かに人形っぽいな。同時に妙に機械っぽくてロボットみたいだ。この世界にロボットがいるとは思えないが、形はそれっぽい。
「え? う、うそ! 何でこいつらが、い、いやお願い! やめて!」
すると、気がついた魔法使いの女が突然慌て始めた。他の二人はまだ気を失っているが――
「セット」
「あ、い、いや! た、助け――」
するとその人形が女の肩に手を置き、セットと発した後、女を持ち上げ俺たちに向けて投げつけてきた。
何かよくわからないが、嫌な予感がする。
「皆逃げろ!」
「任せるなの!」
俺は全員に退避を求めたが、エリンが精霊魔法で大地をドーム型の壁にして皆を囲んでくれた。
「い、いやぁああぁああ!」
あの女の悲鳴が聞こえ、途端に激しい爆発音がしてドームが大きく揺れた。
「ひ、こいつらボンドンの!」
「やめろやめてくれ!」
「「セット――」」
壁の外から聞こえる声で残りの二人が抵抗している様子がわかる。かと思えばまたセットという声がして二人の悲鳴と爆発音が交互に聞こえた。
かなり激しい爆発だ。エリンの作った壁も半懐してしまっている。するとエリンが瞼を擦り、うつらうつらとしていた。
「うぅ、眠いなの――」
「エリン、助かったよ。無理せず休んでいな」
「――うぅ」
「……フェンリィしっかり守って上げて」
「ガウ!」
エリンはまだ子どもだから瞬間的なパワーはかなりの物だが持続力がない。暫くは眠ってしまうだろう。
しかし、ぞろぞろとあの人形が姿を見せる。冒険者の姿はなかったが、周囲の草が焦げて煙を上げている。
もし、俺の予想通りなら、あの連中は爆弾として利用されたということになる。それをこの人形がやったということか――
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