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第46話 戻ってきたガンダル
「よぉ。全くこんな人形ごときに遅れを取るとは情けない限りだぜ」
「いやいや、お前ら立ち去ったんじゃなかったのか?」
まさかこいつらが援護してくれるとは思わなかった。マイリスの事もあって近道を教えてくれたりもしたが、所詮は盗賊だ。一度立ち去ったら流石にわざわざ戻ってくるなんてありえないと思ったんだがな。
「ヒット殿。この者は一体?」
スピニッチが訝しげな目を彼らに向けた後、俺に尋ねてきた。
あぁ、その気持ちもわからなくもない。こいつらはもう何というか、雰囲気がアウトローぽい上、実際そのとおりだからな。
「え~とこいつは……」
「にゃん! ヒットにゃん、説明は後にするにゃん。また人形が来たにゃん!」
くっ、倒したと思ったらまた次々と現れやがる!
「フェンリィはまだ見つけられないにゃん?」
「……まだ――」
「おい、この人形はスキルで出てきてるのか?」
俺達のやり取りを聞いていたガンダルが口を挟む。
「恐らくな。だから本体を見つけようとしているんだが――」
「ふん……バード頼む」
「へいボス」
ガンダルが命じると鶏冠頭の男が返事した。そして一旦目をつむり、直後カッ! と目を見開く。
「もしかして本体の場所がわかるのか?」
「バードはスカウトのジョブ持ちだ。ホークアイのスキルが使える。それで怪しい場所がないか見てるのさ」
ホークアイ――上空から俯瞰するように周囲が確認できるスキルだ。ただ、隠れている相手をそれだけで知ることが出来るのか?
「――こっから向こうへ一から二キロの範囲内が怪しい。特にこの辺りにある大木の周辺や――」
バードは地面に地図を描き、本体が潜んでいそうな場所を絞り込んでくれた。どうやら盗賊の勘も働かせて怪しい場所を見つけてくれたようだ。
すぐにセイラが指笛を吹く。それでフェンリィに本体が潜んでいそうな場所を知らせたのだろう。
「にゃん! できれば急いで欲しいにゃん!」
ニャーコが必死にやってくる人形に対応してくれていた。スピニッチもだ。
スピニッチはスペシャルスキルの使用もあってか表情に疲れが見える。
「俺も出る!」
ファルコンで離れた人形を狙っていく。人形は直接攻撃すると爆発するから対処するには遠距離攻撃がメインになる。
ただ闇雲に倒しても人形が補充されるだけだ。フェンリィが上手いこと見つけてくれれば――
「……主様、来る――」
戦闘が暫く続き、とりあえず全ての人形を倒したと安堵した直後セイラが呟く。来る? まさか本体か?
「う、うわぁあぁああぁあ!」
何かがゴロゴロと転がりながら戦闘の現場に飛び込んできた。随分と丸々とした男だった。
「グルルルルウゥウ!」
「ヒッ!」
そして追いかけるようにフェンリィが現れ男に向けて唸る。男は完全にビビってしまっていた。
なるほど、こいつか。
「お前がこのふざけた人形の本体か?」
「あ――」
男の目が泳ぐ。ボサボサの髪をした男だった。脂肪に包まれただらしない体をしていて、その様子だけ見てるととてもまともに戦えそうに見えない。
なるほど、だからこそ、人形を使用していたのかもだが。
「く、くそ、このボンドン様がこんな奴らに……」
憎々しいといった感情のこもった目を俺達に向けていた。だが、それはむしろこっちのセリフだ。
「にゃん、こんなのに追い詰められていたなんて、自分が情けなく思うにゃん」
「だ、だまれよ猫耳の獣人風情が。誰か知らないが俺達に逆らったらお前らはもう終わりだ。へへ、猫耳のテメェも捕まる。そしたら俺が部屋で愛玩動物として飼ってやる、アギャアァアアァアァアア!」
ボンドンの悲鳴が響き渡る。セイラが鞭を振るったからだ。
「……黙れ、立場をわきまえろ」
うわ~冷え切った瞳で見下ろしながらのそのセリフ。
なんか途端に女王様って感じが出てきたな。敵には容赦ない。
「は、はは、この俺を、ボマーのこの俺様を舐めるなよ!」
痛みに呻いていたと思えば、右手に爆弾を現出させ振りかぶった。スキルで爆弾を生み出したのか。
「キャンセル」
「死ねっ! へ? ぎ、ぎゃぁああぁああ!」
ボンドンの右腕が飛んだ。爆弾はキャンセルで消した。スキルでしかも使用した直後ならただのキャンセルでも消せる。
だが、右腕を切り飛ばしたのは俺じゃない。
「にゃん、無駄な抵抗するからにゃん」
ニャーコだった。風の忍術で腕を切り飛ばしたんだ。こいつも中々容赦がないな。
「あぎぃいぃいいい! 痛ぇよぉおおお!」
無様に泣き叫びゴロゴロと転がる。こいつ、思ったとおり直接対峙すれば大したこと無い。スキルにしても爆弾を作るまでに時間が必要だし、触れて爆弾にするのにもそれなりの物が必要だ。
人形もここまで近くにいれば出す暇もないだろう。それに、わざわざ潜んで人形だけを動かしていたわけだし人形を生み出すのにそれなりの時間がいる可能性もある。
恐らく数秒程度のことだとは思うが、このレベルの戦いならその数秒が命取りになる。本人が直接戦えるジョブなりスキルなりあればまた別だろうが、どうみてもそういうタイプにも思えない。
「あ、うぐぅ……」
「どうやらお前ももう終わりのようだな」
右腕も失いこいつはもう戦えないだろう。こっちも時間がない以上、あまりこいつに構っていられない。
「とどめを刺させてもらうぞ」
「ヒッ!」
セイコウキテンを抜く。こいつのジョブは遠隔操作で本領を発揮するタイプだ。このまま見過ごすわけにはいかない。
当然ここで始末しておくべきだろう。それにそれだけの罪を犯しているのは間違いない。それはこいつの腐れきった思考と言動からも明らかだ。
「ま、待て! 待ってくれ!」
「にゃん、往生際が悪いにゃん」
「そ、そうじゃない! 俺は他の連中の情報を知っている! それを教えるから命だけは助けてくれ!」
情報……仲間を売るってことか? こいつは、いや、まぁ見るからにそんなタイプだが。
「ヒット殿。その、私としては命乞いしている相手まで無理に命を奪うのは――」
スピニッチが神妙な面持ちで言う。
う~ん……エメラルドも相手の生命を奪うのには躊躇いが見えた。ノマデスの民には命を敬う考えの人が多いのかも知れない。
「……ならその情報ってのを聞かせてもらおうか」
「あ、あぁ勿論だ! い、いいか、あれだ。この森に襲撃に来た連中は、すげぇ連中ばかりで、正直お前らだけでどうにか出来る相手じゃなくてな」
こいつ、話が回りくどいな。説明が下手くそだし。まぁ、見た目からしてあまり人と話すのが得意そうには思えないが。
「だから奴ら――へっ?」
ボンドンの説明はなおも続く、かと思われたが斧が飛んできてボンドンの頭に命中した。間の抜けた声を上げ、目玉がグルンっと上を向き倒れていく。
「お、おいどういうつもりだ!」
慌てて後ろを振り向くと、ガンダルが腕を前に突き出したポーズを保っていた。斧を投げたのはガンダルで間違いなさそうだが、一体何故?
「俺は悪党だからな。悪い連中の考えていることは大体わかる。そいつは間違い無しに何かを企んでいた」
「何だって?」
「ちょ、なんにゃんあれは!」
するとニャーコが叫び声を上げる。改めてボンドンが倒れた場所に目を向けると赤い爆弾が鎮座されていた。数字が浮かび上がっており今は三となっていて、それが二に変わっていた。
「てヤバい! キャンセル!」
俺は慌ててスキルキャンセルで爆弾を消し去った。あ、危なかった。残り一、つまり一秒であの怪しい爆弾は爆発していたということだ。
しかも本人が死んでも消えない爆弾だ。わざわざ秒数が表示されている辺りからも普通のスキルではなかった可能性が高い。
ボマーだと言っていたが高位以上のジョブだとしたらスペシャルスキルだった可能性もある。そうなると威力も絶大だろう。
け、結局またガンダルのおかげで助かってしまったということか――
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