第47話 とりあえずの味方

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第47話 とりあえずの味方

「結局助けられたな」 「ふん!」  ボンドンとの戦いが終わり、改めて俺はガンダルにお礼を言った。鼻を鳴らして見下ろしてくる態度には相変わらずふてぶてしさも感じられる。 「ところでヒット殿。この方は?」 「……あ」  スピニッチに問いかけられ俺は言葉に詰まる。何せこいつらはマイリスを攫った張本人たちだ。 「俺達は盗賊だ。お前ノマデスか?」 「……そうだが?」  スピニッチを見下ろしながらガンダルが答え、逆にスピニッチに問いかけていた。    返答するもスピニッチは奴を警戒しているようであり。 「どうせわかることだから先に言っておいてやるよ。俺達はあのマイリスって女を攫った盗賊だ」 「何だって?」  途端にスピニッチが弓を構え、ガンダルの仲間も武器を構えた。おいおい―― 「待ってくれスピニッチ。確かにこいつらは盗賊で、いい奴らとは言えないが、この森に戻るまでの近道を教えてくれたりと協力してくれた連中でもあるんだ」 「協力?」  俺はマイリスを助けた時の事を彼に話した。 「……なるほど。ですが納得は出来ませんな。そもそもこの連中が攫わなければ近道など使う必要もなかった」  スピニッチが真剣な顔で言う。それは、まさにそのとおりだ。結果論と言えばそれまでだがこいつらが何もしなければここまでの手間は生じてなかった。 「そのとおりだ。だが俺らは別にそれを反省するつもりなんざこれっぽっちもないがな」  ガンダルが肩を竦める。 「……正直、信用も出来なければ許しも出来ないというのが本心です。だが、我々ノマデスの民は無益な殺生を好まない」  そこまで言ってスピニッチが弓を下ろす。 「それに、少なくとも今回助けてもらったのも事実。だが、何故お前たちは私達を助けたのだ?」 「それは俺も気になるところだな。一旦は立ち去ると言っていただろうに。一体どういう風の吹き回しだ?」  スピニッチと俺が問うと、ガンダルは顎を擦りしげしげと俺達を眺めながら答えた。 「別に大したことじゃねぇよ。俺達は盗賊だ。正義の味方なんて思ってないし人助けをする気もない。だが、今じゃ冒険者の連中が俺らよりよっぽど盗賊らしいことしてやがる。それが気に食わねぇ。それに連中がいる限り俺達も安心して盗賊家業に精が出せないしな」    それは別に出さなくてもいいんだが…… 「そういうわけで、どうせやるならお前たちを利用しようと思ったってわけだ。お前らそれなりに強いしな」 「利用とか随分あっさり考えを語るにゃん」 「どうせ俺らみたいなのをお前らは信用しないだろう? だったら素直に話した方が面倒がなくていい。それに俺も利用するがお前らはお前らで俺を利用すればいい。どっちにしろ今のところは共通する敵は一緒だ」  共通する敵は一緒か……その間は持ちつ持たれつでいこうとそういうことなんだろう。 「……お前らは、この件が片付いたらどうするつもりだ?」 「ガウガウ」  セイラがガンダルに問う。フェンリィも威嚇するように吠えているが。 「そんなの決まってる。今まで通り盗賊として暮らすさ」 「また悪さをするってことか?」 「盗賊は悪さをしてなんぼだ」 「そんなこと許されると思ってるにゃん?」 「面白いことを言う猫耳だな。俺たちゃ自分たちが悪人だって知ってる。許す許されるじゃねぇんだよ。はなから許されるなんて考えで行動はしてないんだこっちは」 「――この戦いが終わった後、お前たちを放置しておくとは限らないぞ。寧ろ悪さするとわかってるなら捕まえるのが前提となる」 「好きにしな。勿論俺達だって安々捕まるつもりはねぇ。ある程度片付いたらさっさと逃げさせて貰うぜ」  ここまで聞いていて、ある意味素直な連中だと思った。勿論盗賊行為を肯定するわけにはいかないが。 「スピニッチ。とりあえず今は少しでも戦力がいる。それは事実だ。手放しで信用できるとは思えないが、わざわざ戻ってきたわけだしここは一先ず協力する形でも?」 「……どちらにせよ私から命を奪うつもりもありません。今は皆さんに任せます」 「というわけだ。一緒に来てもらうことになるが、妙な真似をしたらこっちもそれ相応の対応をとらせてもらうぞ?」 「あぁ、それでいいぜ」  お互いが納得したことでガンダルを加えて移動を再開させた。  その途中でガンダルが聞いてくる。 「そういえばあの嬢ちゃんはどうした?」 「マイリスのことか。今は別行動だ」 「別行動? 大丈夫なのか?」 「俺の仲間も一緒だ。何だ心配してくれてるのか?」 「そんなんじゃねぇよ。人質から解放されてあっさり殺されるのもバカバカしいと思っただけだ」  そう答えてそっぽを向いた。しかし、もしかしたらこいつらが戻って来たのもマイリスが気になったからなのかもな。    さて、今話には出たがマイリス達のことも気になる。俺達は火をつけて回っている連中を片付けながら先を急ぐことにした。まだまだ森を燃やしている連中は多くいる。くそ、火の手も多いな。 「水芸――」  すると盗賊の一人がスキルで水を放出して火を消してくれていた。これは今はもってこいのスキルだ。 「助かる。しかし変わったスキルだな」 「うふん。褒めてくれて嬉しいわん。あたしはゲイズ。パフォーマーのジョブ持ちよん」 「そ、そうなのか……」  く、口調が何というか……それに何か視線が気になるのだが―― ◇◆◇ 「ヒヒヒヒヒヒヒッ! 燃える燃えろーーーー!」  まるで吹き上がる炎のような灼熱の髪を有した男が、けたたましい笑い声を上げ、周囲の木々を焼き尽くしていく。  手から火球を生み出し、口からは炎を吐き、そんなことを繰り返し他の仲間達とともに森を焼いていた。 「やめなさい」  すると一人の男が姿を見せ、その行為を嗜めた。緑色のローブを纏った男だ。年の功は三〇代そこそこといったところか。  上背が高くわりとがっちりした肉体。頭から被ったフードからは緑色の髪が肩に向けて飛び出ていた。手には木製の杖が握られている。 「ヒヒヒ、誰だお前は?」 「私はこの森を守りしノマデスの長グリーン」 「へぇ! ヒヒッ、そうかいお前がノマデスの酋長か。これはいい!」  叫ぶように声を上げ、両手を広げた後交差させるように腕を振るう。発生した二発の火球がグリーンへと向かう。  だがグリーンの前に躍り出た人形が炎彼を守った。木や草花で出来た人型の存在であり植物のゴーレムといった印象を与える。 「ヒヒッ、なんだそりゃ? 燃えてるじゃねーか。長だから知らねーが俺の火とはは相性悪そうだな!」    確かに盾になった人形は火が燃え移り炭へと変わった。更にヒートだけではなく、周囲の連中も火矢を放ってきたり、火魔法で攻撃したりと徹底していた。 「アップグラン」  しかしグリーンは魔法で土を隆起させ壁にして相手の攻撃を防いだ。土であれば火からは身を守れる。 「あまり戦闘は好まないが仕方ありませんね。ネイチャーブレス――」  今度はグリーンが口から煙を吐き出した。それが周囲に充満していく。煙にはキラキラした光の粒子が混じっていた。 「チッ」  炎を操っていた男が枝の上に回避。一方仲間たちは煙に巻き込まれ苦しげに呻き倒れていった。 「死にはしません。暫く寝ているといい」 「ヒヒヒ、なかなか愉しませてくれるぜ」  グリーンは枝に飛び乗った男を見上げる。火球を弄びながら、男はその口角を吊り上げた。 「引き下がる気はないのか?」 「ヒヒッ、ねーな。むしろやる気がわいたぜ。お前はこの俺、アーソニストのホーカ様が焼き尽くしてやるよ」
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