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第48話 アーソニスト
sideクローバー
「ほんま鬱陶しいねんこいつら!」
カラーナという褐色の女が森を焼いている冒険者連中を切りつけた。目に見えないナイフを操って軽やかに動き回っている。
ガサツだが猿みたいにすばしっこい女だ。なんだか独特ななまりがあって、当初はなんとも胡散臭く感じたもんだが、こうやって一緒に行動しているとその強さがわかる。
しかも粗暴な言動の割に動きは軽やかだしナイフさばきは洗練されている。
「流石姐御! あたいも負けてられないね!」
そしてもう一人こっちも暴力的な女でカラーナを姐御と呼び慕っている女だ。
俺に対して生意気な発言を繰り返したり、性格には難がありそうだが、弓をもたせると強いな。しかしあの胸で良く狙えるな……
マジックボーダーというジョブ持ちで矢に魔法を乗せて扱えるのが特徴だ。氷の矢や水の矢は森の火を消すのに役立ってるからそういう意味では感謝している。
この二人のおかげで森を進むのも大分スムーズだ。このままいけば間もなく首長の下へ辿り着ける筈だ。
「な、何やこれ――この辺りは火の手が早いで!」
しかし、首長の暮らす区域に近づくとカラーナの言うように火の勢いが強まってきた。一体何が起きてるんだ?
「あ、お兄ちゃん!」
エメラルドが叫んだ。お兄ちゃん……グリーン首長がそこに立っていた。そしてその目の前には炎を思わせる真っ赤な髪の男。
「ヒヒヒ、どんどん燃やしていくぜ!」
男の両手が燃えていた。そして首長に向けて炎を連射している。首長の魔法であるグリーンガーディアンで生まれた植物のゴーレムが守っているけど、火が相手じゃ分が悪い。
「あれが首長のグリーンちゅうわけやな。ほな助けるで!」
「はぁあああ! フリーズアロー!」
アイリーンが氷の矢を連射した。それに合わせてカラーナも動き出す。
「ヒヒヒ、新手かよ!」
男が薙ぐと炎の盾が生まれて氷の矢を受け止め溶かした。あいつ、詠唱もなしに炎の魔法を?
「ヒヒヒ、全くいいところで邪魔してくれるぜ」
「マイリスは私から離れないでください!」
「う、うん……」
エメラルドはマイリスの側で守ることに専念するようだ。マイリスは戦闘力を持たないしそれが良いだろう。
「マイリス! 無事だったか!」
首長がマイリスに気が付き声を上げた。マイリスは若干複雑そうな顔で首長を見る。
「……それでエメラルド、その方たちは?」
「えっと、お兄ちゃん!」
首長が一緒にカラーナやアイリスについて聞いてきたが、あの妙な男が首長に向けて火球を連射した。
「このアーソニストのホーカ様を無視してんじゃねぇ! オラオラオラオラオラオラオラオラァアアァアアア!」
くっ、凄まじい爆発と衝撃。土煙が舞い上がり視界が悪くなる。あんな連射を受けては首長だって無事では済まないのではないか!
「やれやれ、全く。私達はただ静かに森で暮らせればそれでいいというのに」
だがその考えは杞憂だった。首長の正面にはどことなく存在感の希薄な人型が立っていて、炎から首長を守ったようだ。
あれはネイチャーコーリングだ。グレイトネーチャーのスキルで、自然の意思を具現化させる。
やはり首長は凄い。ジョブは上位になればなるほど強力なスキルも増えるが、同時に扱いが非常に難しくなるものだ。
しかし、首長はあれだけのジョブを完璧に使いこなしている。
ただ――森が焼けているのは芳しくない状況でもある。俺のドルイドもそうだが、自然を操るジョブは周囲に自然が多ければ多いだけ力を発揮できる。
しかし、自然にとっての弱点は火だ。火はあっというまに森の力を弱める。直接的な火は勿論、発生する煙だって森を痛める。
とにかく、早いところこいつを倒してしまわないと!
「リーフカッター!」
自然魔法を行使。刃のように切れ味が増した葉っぱがホーカに襲いかかる。
「ヒヒヒ、何処のどいつか知らんが甘いんだよ!」
しかし、ホーカが展開した火の壁に阻まれ葉っぱが燃え尽きた。こいつ、詠唱もなくそれでいて全く魔力の尽きる様子もない。
見た目も魔法系には見えないし、まさか火を操っているのは魔法ではないのか?
「お兄ちゃんの言うとおりです。私達はこの自然の中で暮らしていければそれで良いのです! それなのに森を焼くなんて、どうしてこんな酷い真似を!」
エメラルドが叫ぶ。悲痛に満ちた顔をしている。
俺もそうだがこの森で生まれそして森とともに育ってきた。その森が今まさに目の前で焼かれている。そのことにエメラルドも心を痛めているのだ。
「あん? 知るか。俺はこの森を焼きノマデスの連中を焼滅させろって言われてるからそのとおりにしてんだよ」
悪びれることもなくホーカが言った。ヒヒヒ、と癇に障る笑い声を残し枝から枝へ飛び移り火球をばら撒いてくる。
「ヒヒヒ、燃えろ燃えろ! 大体お前らみたいな少数民族が調子に乗って森を占領してるからこういう目にあってるんだろうが!」
「ふざけるな! 俺たちは森を占領なんてしてない!」
「だったら森からとっとと出ていけばよかっただろうがヒヒヒ」
「それは出来ない相談だ。我々は先祖代々この森を守り続けていた。それは森の神ゲーの大いなる意志でもある」
「ヒヒヒ、神だなんだと馬鹿馬鹿しい。そんな迷信にすがった生産性のかけらもないゴミだから、俺たちに焼却させられるんだよ」
「生産性がない? 散々森を焼いているような連中が何アホなこと言うてんのや! 何やそれ。ボケか? ボケのつもりか? ツッコミ待ちなんかい。だとしても全くおもろうないねんこんボケェ!」
話を聞いていたカラーナがホーカに向けて啖呵を切った。あ、あいかわらず言葉遣いの汚い女だ全く。
首長も目を点にさせているぞ。
「ヒヒヒ、随分な言い草だな。しかし、いいねぇその褐色肌! 胸もデカいし顔も好みだ! いいぜぇ女ぁ! 俺の股間も熱くなるってもんだ!」
「な、姐御を変な目みやがったら射ち殺すぞ!」
「ヒヒヒ、もうひとりも威勢がいいじゃないか。だが、やっぱそっちだ。お前、さっき突っ込まれたいのか? と言っていたが俺はお前に突っ込みたいぜヒヒヒ」
「さ、最低――」
「あの、突っ込むとか突っ込まないというのは?」
「え、エメラルドは知らなくていいことだ!」
キョトン顔のエメラルドに叫んだ。マイリスも顔が赤い。全くなんて下品な会話だ。
「悪いけどうちには心に決めた相手がおんねん。お前みたいな脳みそまで焼けてとろけてそうな奴は絶対にごめんや!」
「ヒヒヒ、ますます気に入ったぜ。あぁ焼りてぇ、そしてお前みたいな小生意気な女を徹底的に焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼って焼りまくって、内側からファイヤーして内臓ごとどろどろとに溶かして焼りてぇえええんだよぉおおおおたまんねぇえええぇえ!」
「あかん。変態やあいつ」
「いいかげんにしろ!」
聞くに耐えられなかったのか、眉を怒らせてアイリーンが氷の矢を放った。
「ヒヒヒ、無駄なことを」
しかし、ホーカがまたも炎の盾を展開する。これじゃあさっきと同じで矢は溶かされてしまう。それでは矢が届かない――
「キャンセル!」
「何? ぐはぁああぁあ!」
しかし、何処からともなく聞こえてきた声でホーカが展開した盾が消え、氷の矢をまともに喰らって飛んでいった。
「全く。やっと合流できたと思えばまた妙な奴と戦ってるな」
「ボス! 信じてたで!」
ふぅ、どうやら一旦分かれて行動していたヒット達も無事合流できたようだ。これで形成は逆転出来たな――
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