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第50話 自然の怒り
「ヒヒヒヒッ! 燃えろ燃えろーーーー!」
炎に包まれたホーカと分身が口から火を吹いたり、火球を投げつけてきたりと暴れまわる。
「ほんま無茶苦茶な奴やな!」
カラーナが苦い顔を見せる。しかし、これは不味いな。
「水印の術・指弾にゃん!」
「静氷なる疼き、手の中に礫、放つは氷塊――アイスボルト」
「フリーズアロー!」
ニャーコ、セイラ、アイリーンの三人がそれぞれ火に対抗できる魔法やスキルを行使した。しかし相手の手数は多い。
「アオォオオォオオン!」
風をまとったフェンリィが分身を狙おうとする。しかし炎相手ではフェンリィの風では分が悪そうだ。
「スキルキャンセル!」
俺はキャンセルで分身を消してみた。しかし消した側からホーカが分身を追加する。
「無駄だ。この状態の俺はスキルも使い放題だ!」
チッ。本体のスキルをキャンセルすべきか。だがこの森と増えていく炎。相手の動きも素早く対象が絞りにくい。
「――いいかげんにしろ! これ以上横暴を続けるなら災いが起こるぞ! 森は怒っている!」
族長が声を上げる。見るからに怒りが強そうだ。これだけ好き勝手されればそうだろうな。
「ヒヒヒ! 馬鹿が貴様らは俺達の火には敵わない。植物は火には弱いんだよ!」
分身も含めてゲラゲラとけったくそ悪い笑い声を揃えた。腹の立つ奴だ。
族長が厳しい目を炎に向けた。そして杖を掲げて口を開く。
「――致し方あるまい。大いなる自然の怒りを受けるがよい。大自然魔法・グリーンインフェルノ!」
族長が魔法を行使すると、地面から太い根っこが飛び出してきてホーカ達に向けて襲いかかった。
「馬鹿が! そんなものいくらでも燃やし尽くしてやる!」
ホーカが得意がるが――しかし、火達磨のホーカに根っこが巻き付きバラバラに引き裂いていった。
あの根っこ、全く炎を寄せ付けない。
「ば、馬鹿な何故分身とは言え俺の火が!」
ホーカが叫ぶ。どうやら今やられたのは分身だったようだ。とは言え確かにあの根っこは炎に強そうだ。
「……土の中にあったあの根は水分が豊富――」
セイラが呟く。なるほどそういうことか。そもそも植物とは言え本来生木は引火しにくい。あいつらはそれでもお構いなしに焼いて回っていたようだが、土中の水分をたっぷりと吸った根っこまでは無理ということか。
「さすがグリーン様だ!」
「あぁ。またたく間に炎が消えていく」
「はい。ただ兄さんはあまり好ましく思ってないでしょう……あの魔法は森の怒りが膨れ上がったときにしか使えませんから」
エメラルド、スピニッチ、クローバの三人が族長のグリーンに感心しているな。だけど、そうかこれは森の怒りが源なのか。
逆に言えば森に危険が及ばなければ使えないわけで族長としては複雑な気持ちだろう。
おまけにグリーンインフェルノの名前通り根は随分と荒ぶっている。積極的に炎も消していってるようだ。
「畜生が! 分身は消せても俺はそういかねぇぞ! ヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」
ホーカが叫び、迫る根っこを燃やしていく。あいつの炎は分身より強力なのだろう。
だが、それもここまでだ!
「調子に乗るなよ。キャンセル!」
分身を魔法が消してくれたおかげで自然と本体が浮き彫りになった。これでスキルキャンセルが可能だ!
「な! 俺のスキルが!」
ホーカに纏われていた炎が消え去り本体が顕になった。ホーカも随分と慌てている。
「残念だったな。これでお前は終わりだ」
「あ、ち、畜生がぁああ!」
「悪事はメッ! なのーーーー!」
その時だ。エリンの声が聞こえたかと思えば鉄砲水がホーカを飲み込み勢いよく大木に叩きつけていた。
「……おいおいマジかあの嬢ちゃん」
「俺らもしかしてとんでもない連中相手してたんですかね……」
ガンダルを含めた盗賊たちがエリンの精霊魔法を見て呆気に取られていた。
うん……気持ちはわかる。とにかく、これでとりあえず森の悪党は退治できたか――
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