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第1話 俺はキャンセラー
俺の名前はヒット。まぁとはいってもこの名前はゲームで使用してたプレイヤー名だが、実はそのゲームをプレイしていたらいつの間にかゲームの世界に入っていた。
< 俺のいた世界は地球の三分の二ぐらいある巨大隕石が落ちてきていて、もう世界は滅亡だって話になっていた。
だけど日本人というのはそれでもわりと冷静で、みんな意外と普通に事実を受け止めて、最後は家族と過ごしたり、恋人と来世でも一緒になろうねとかささやき合ってたらしい。
で、俺はというと好きなゲームをやっていた。どうせ死ぬならゲームをやりながら死にたいと思ったんだ。
オンラインゲームだったけど意外にも結構な人がいて驚いた記憶がある。
まぁそれはそうと、
『もう隕石落ちるってさ』というチャットの文字をみて、さようなら、またどこかで、転生してぇええぇええ! 隕石キターーーーーー! という文字が画面を埋め尽くした瞬間、目の前が真っ白になって、そして気がついたら森にいた。
あたりを見回したけど雰囲気がやってたゲームにそっくりだ。
それに頭のなかに俺の状態が浮かぶ。
ジョブがキャンセラーで固定スキルにキャンセルとある。
これは俺が直前までやっていたゲームのものと同じだ。
ついでに顔も自分で触れてみるが、どうやら顔自体は元の自分と同じらしい。
まぁゲームのキャラメイクでも自分ぽく作ってはいたからその影響かも知れないが、短めで逆だった感じの黒髪に、切れ長と言われる瞳。
少し彫り深めでハーフっぽいと言われた顔立ちも同じようだ。
上背も元々高めだが視点の位置は以前と殆ど変わってないと思う。
身長は最近は測っていなかったが、最後に測った一七八cmから変わってはいないだろう。
ただ体つきはちょっと違うか。
かなり引き締まった、いわゆる細マッチョに変化しているようだ。
これはゲームの能力がそのまま引っ張られた感じか。
そう考えてみると装備も同じだ。
ウィンドクロスアーマーにウィングスの胸当て。
腕にはスピードグラブ。
そしてズボンの上からはマッハグリーブだ、どれも素早さを上げる装備となっている。
といっても俺が別に誰よりも速くなりたいとか、風になるぜ! などと思ってるわけじゃない。
理由はいまのジョブにある。キャンセラーというジョブは成長することで様々な事にキャンセルが出来るようになる。
キャンセルというのは格ゲーなどのコンボで使う技術みたいなもので、行動を途中で省略するというのが基本、ただこのゲームの場合行動がなかったことになるというのがしっくりくるかもしれない。
とりあえず腰に手をやる。うむ、得意としてた双剣がそのまま残ってるな。
更にサブウェポンとしていた投げナイフも手元にある。どうやらゲームの状態はそのまま維持されてるみたいだ。
体力消費を軽減したり自動回復する腕輪や指輪なんかもそのまま嵌められている。
それにしてもネットの小説ではみたことあったがいざ自分の身に起こると不思議なもんだな。
まぁいい。どうせ地球は滅亡した。俺はこの世界でいきていかないといけないんだ。
とにかく実験だ、キャンセルがしっかり働くか試してみよう。
俺は適当な樹の幹にむかってナイフを投げた。投げ方はなんとなくわかったし、装備の効果でかなり素早くそして鋭く投げることが出来た。
ゲームの能力がそのまま身体能力に影響してるのだろう。
風を切りつけながらナイフが幹に命中する。狙い通りだが、今はそれは問題ではない。
俺はナイフが幹に命中した瞬間キャンセルを発動した。
するとパッと突き刺さっていたナイフが消え去り、俺の手の中に戻っていた。
どうやらキャンセルは、俺の知っているものそのままだったようだ。
因みに幹にはしっかりナイフの跡が残っている。これは別にナイフを投げた事はキャンセル出来ても、あたった事実までもキャンセルされるわけではないからだ。
さてとりあえずもう一回俺はナイフを投げる。そして幹にあたる。
それを今度は少し時間を置いてからキャンセルを使う、が、発動しない。
思ったとおりだ。こういった武器を使うようなキャンセルは、その行動によってキャンセルポイントがあり、そのポイントを越えてはキャンセルは発動しない。
ちなみにナイフ投げの場合は投げてから幹にあたった瞬間までだ。
結構長いポイントに思えるが、これは俺が元々スキルの熟練度を上げていたからだ。
キャンセルは熟練度が低いうちは殆どキャンセルが出来ない。
それがこのジョブが不遇職と言われていた所以でもある。
そう、キャンセラーは不遇職扱いだった。開発元の運営はこのキャンセルというスキルが強すぎると思ったのだろう。
だからキャンセラーは初期能力値がやたらと低かった。
ステータスの伸びもそこまで高くない。
更にジョブチェンジがなかったのも大きかったな。何せキャンセラーは隕石落ちます宣言の少し前に実装されたキャラだ。
運営は専用の上位ジョブを考えているとはいっていたが、隕石が落ちるとあってはいくら冷静な日本人でも無理だ。というか時間が足りなかっただろう。
でも俺は別に後悔していない。キャンセラーは確かに能力は低かったが、このジョブ特有の楽しみ方はあったからな。
特にこのクラスは全ジョブ中唯一コンボに特化したものでもある。
俺が素早さに特化した装備を選んでるのはそれが理由だ。
出来るだけ動きが速いほうがコンボに便利だ。
キャンセルが使えても動きが遅いと意味がない。
と、まぁそんな事を考えていても仕方ないか。
とりあえず今後どうするか決めないと。
この森は多分コンボ大森林だろ。俺の腰にはマジックバッグも装着されている。
これは最大一〇〇〇kgまでアイテムを中に入れることが出来る魔法のバッグだ。
無制限のアイテムボックスみたいなものは流石にないが、これでも十分だろう。
俺はその中から地図を取り出す。魔法の地図だ。このゲームは画面に常にマップが出るようなことはなく一々アイテムから取り出して確認する必要があった。
妙なところに拘ってる作品で、ステータスもジョブとスキルが判るぐらいで、他のは画面に出ているキャラの表情や体つきの変化で推し量る必要があった。
だから数値的データはない。それでも能力がわかったのは有志によるネットのデーターベースのおかげだ。
だがこの世界ではあまり関係がない、
とにかくバッグから取り出した地図を見る。魔法の地図は現在地は表示されている。こういう状況になって初めて知るが便利なものだ。
現在地は森の中より若干南南東の辺りだ。
東にはコンボ川が流れているな。
あまり流れは急じゃなかったはずだし寄ってみようか。
それに川沿いに林道が走ってたと思う。喉も乾いたしな。
よし決まりっと。
◇◆◇
「いや~~! やめてください~~」
「うるせぇ! あばれんじゃねぇよ!」
「おいそっち押さえとけ!」
「へい!」
「たく、どうせてめぇは奴隷だろ? そこの野郎の上で毎晩腰振ってたんだろうが」
「全くだ俺らにもちょっと楽しませてくれよ」
「ぎゃ~ぎゃ~喚くなって、やることやったら適当にぶっ殺してやっから」
「おっとお前それ酷いね」
「「「ぎゃははははっ!」」」
さてっと……とりあえず河原のある場所まで出たら、なんていうか、まぁそういう状況に出くわしたよ。
う~ん確かゲームでも馬車の護衛とかそういうのはあって、こういう盗賊みたいな連中をやっつけるとかはあったけど、リアルな世界としてみると生々しいな。
何せ三人の賊連中から少し離れたとこでは、身なりの良い恰幅のある中年のおっさんが、腹から臓物飛び出させて倒れてるし、その周りも護衛の冒険者になんのかね? その連中が倒れまくってる。
馬車もあるし殺されてるのは商人ってところか。
護衛ぽい連中は、ゲームだったらプレイヤーになるだろうから死んでも街に戻るだけだけどな。
流石に現実化した世界じゃそうもいかないか。
で、盗賊連中に捕まってるのは女の奴隷だ。年齢的には一五か一六ってとこなのかね。
前の持ち主の趣味なのか随分と薄い格好させられてたみたいで、しかも盗賊に捕まってビリビリに破られ、下着がもろ見えちゃってるよ。
う~ん、結構胸がでかいな、いやそんな事いってる場合でもないか。
「おほっ! 柔らけぇ、たまんねぇなこりゃ!」
「おいおい俺もう我慢できないぜ! やるぜ! やってやるぜ!」
男の一人がいきり立ってズボンを下ろし始めたな。きたねぇケツがもろ出しかよ。
俺としては女の娘の方をみてみたいとこだけどな。でも流石に一五とか一六とか俺のいた世界じゃそれだけでアウトだな。
まぁ遠目からみても結構可愛い娘だし、発見しちゃったからには仕方ない。
だから俺はナイフを腰のベルトから取り出し、そして連中に向かって投げつける。
「さぁ、へへっ、それじゃあ前の方をみせ……ぎひいいぃいいい!」
あ、見事に突き刺さったな後のホールに。マジかよ、キャンセルして手元に戻したけどこれ臭そうだなマジでキモいぞ。
「あっぎゃぁああぁ! いてぇ! いてぇよ~~~~!」
「お、おい! アナール! どうした突然自分のケツ押さえて!」
「なんだおい? 興奮しすぎておかしくなったのか?」
……アナールって名前だったのかよ。もろじゃねぇか。
てかめっちゃゴロゴロしてんな。ケツというか穴押さえて絶叫しながら転がりまくってるよ。
小太りだからでっけぇ肉団子みてぇだ。
で、それを心配して横でみていた男が近づいていくな。俺は藪の中に潜んでる上、ナイフはキャンセルして手に戻したから気づかれていない。
が、やっぱこれは捨てよう。別にナイフは余ってるし。
それに今度は別の武器も試してみたい。
俺はマジックバッグに手を突っ込み、そして中々ゴツイその武器を取り出した。
その武器はスパイラルヘヴィクロスボウ。肩で担ぐタイプのかなり長大な本体が特徴な、まぁ弩といってもいい代物だ。
これは勿論扱うボルトもサイズがデカイ、普通のクロスボウの数倍ぐらいデカイ。
そしてそれもそうだが、この武器の銘が示すように、このクロスボウは特殊な作りで打ったボルトが螺旋を描きながら射出される。
まぁようは銃なんかと似た感じで突き進んで行くって事。そのおかげで軌道が安定して貫通力が高い。
まぁそんなクロスボウ……俺の持ってるのはレア武器に入るが、ゲームではクロスボウ自体にはあまり人気がなかった。
理由としては威力は高いが連射が出来なかったということに尽きる。
能力によって持てるクロスボウの種類はかわり、これみたいに強力なものも扱えるようにはなるが、基本的な特徴が変わらないのがクロスボウで、どんなに能力が高いプレイヤーが使っても、一発撃つ度に特殊な装弾動作が必要になるのは変わらない。
それがクロスボウという武器であった。一方でロングボウやコンポジット・ボウのような弦を手で引くタイプのものは、能力によって連射速度が上がるという仕様であり、更にジョブによっては弓専用のスキルも使うことが出来た。
この影響からか、威力があっても連射ができずスキルも使えないクロスボウは次第に廃れていったわけだが――
しかし俺にとってはこのクロスボウは非常に使える武器の一つだ。
そして俺は肩に担いだクロスボウで狙いを定める。流石にちょっと目立ちそうだが、これを撃った後はどうせバレるだろうしな。
転がってる肉団子の傍により、背の低い男が屈んでケツをみる。
そして怪我に気づき立ち上がってこちら側に顔を向けた。怪我から方向を察したのだろう。
だがその瞬間に俺はトリガーを引く。弦として使っているワイヤーが凄まじい勢いでボルトを前に押しだし、一瞬髪を揺らすほどの風圧を顔に感じる。
バシュン! とナイフより更に激しい裂波音。矢弾は大気の壁を螺旋の動きで貫きながら、狙いをつけた盗賊の眉間を見事に穿ち風穴を空けた。
ボルトの大きさの影響か、額にまるで眼が出来たかのような錯覚に陥る。
それぐらいの大きさのある穴が穿かれたのだ。
そして俺はその瞬間を認めた直後、キャンセルでボルトを元に戻した。
視線を肩に乗せていたクロスボウに向ける。そこにはしっかりボルトが装着された状態に戻っていた。
つまり弦が引かれた状態でだ。
これが俺がクロスボウを選ぶ要因。
実はこれを普通の弓矢でやると引いた状態には戻らない。
ただ矢が手元に戻るだけなのだ。
それだと矢は無駄にならないかもしれないが再度引き絞る必要がある。
それに対しクロスボウはセットされた状態に戻してくれる。
これが俺がやってたゲームのキャンセラーの特徴だ。
熟練度の上がった戦闘用のキャンセルスキルは、行動をキャンセルすることで直前の状態に戻すことが出来る。
ある意味では巻き戻しに近いといえるかもしれない。だがその間は一瞬だ。
それに投げナイフでも試したように与えたダメージはそのまま残る。
実際矢弾を喰らった一人はそのまま死に絶えた。
「だ! 誰だ! で、出てきやがれ!」
おっと、死体に近づいて流石に気がついたか。
まぁおかげで女からは離れてくれたな。
女はそのまま逃げるかな、と思ったが、ぐすっぐすぅ、と鼻を鳴らして涙を流している様子。
まぁこの世界はゲームがベースとはいえ存在するのは生きている人間だ。
当然感情はあるだろう。
しかしこの世界がゲームの世界がそのまま具現化したものなのか、それとも死んだ時にやっていたゲームに近い世界へ神様か何かが送ってくれたのか――詳細は判らないが、やはり女の娘を泣かす連中は許せないな。
可愛いとなれば殊更だ。
さて、とはいえ別にあんな馬鹿の命令なんて聞く必要もないし、このまま矢で撃ちぬいても楽だが――この程度の相手なら寧ろまだ試して置きたいことがある。
だから俺は藪をかき分け、残った盗賊の目の前に姿を晒した。
お知らせ
別作品ではありますが
「300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品が、軒並みチート級の魔導具だった件」
https://estar.jp/creator_tool/novels/25515465
こちらの作品の漫画版が配信されてます。漫画では主人公が発明した様々な魔導具が素晴らしい画力で再現されております。少しでも興味が湧きましたら上記リンク先のあらすじに詳細がかかれてますのでどうぞ宜しくお願い致しますm(__)m
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