第17話 薬草採取にきたけれど

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第17話 薬草採取にきたけれど

「ご主人様――ご主人様」 「ん……あ、おはようメリッサ」  朝はメリッサの優しい呼び声で目覚めることが出来た。  彼女の揺らし方はとても心地よく、更に視界に飛び込んできた顔は空に浮かぶ太陽のように輝いて見える。  て、いつの間に眠ってたのか俺は。  昨日は結局あの後メリッサに眠ってもらうよういったのだが、ご主人様を差し置いて私が眠ることなど出来ません、と言って中々眠ろうとしなかったので、結局色々話しをしてれば眠くなるだろうと踏んで、話し込んでいたんだが――  まさか、俺のほうが寝てしまってるなんてな。全くもって情けない。 「すまないメリッサ。寝ていないだろう? 大丈夫かい?」 「はい。眠らないのは前のご主人様の時にもよくありましたので平気です」  ……そ、そうか前の、う、うん。そうだな奴隷だったわけだし。  あ、あまり詮索しないでおこう。 「!? ち、違いますよ! お仕事です! 帳簿などは私がやっていたので、時期によっては忙しくとても眠る暇がなかったという意味です! そういう意味じゃありません!」  あれ? 俺顔にでてたか? かなりメリッサが焦ってるな。  うん、なんか可愛いなメリッサ。 「うん? 違う? 何がだ? 俺は何もいってないが、そういう意味って?」  俺がつい意地悪な質問をぶつけると、そ、それは、と顔を真っ赤にさせて瞳を伏せてしまった。  可愛いけどちょっと意地悪だったかな。 「ごめんごめん冗談だよ。悪かった」 「……ご主人様ったら意地悪です」  プイッとメリッサは拗ねるような仕草を見せる。  うん、朝からこれはくるものがあるな。その表情も破壊力ありすぎだ。 「でも本当にあまり無理はするなよ?」 「大丈夫です本当に無理はしてませんから。それよりもご主人様。そろそろ依頼の方を始めた方が宜しいかと思います」  うん? あぁそうだった。メリッサには話の流れで昨日説明したが、今日はナンコウ草を採りに来たんだったな。  本当は朝イチの予定だったけど、太陽の位置は結構上がってきてる。  午前の8時か9時ってところか? 不便だから今度時計を買わないとな。  まぁいいや。それでもまだ余裕はあるだろ。  朝ごはんが食べられないのがちょっとメリッサに悪いけどな……てか夕食も食ってないし、俺はなんとか我慢できるけど。 「メリッサお腹は空いてないか? 大丈夫か?」 「私の事は本当に大丈夫です。ご主人様こそ結局昨晩も食べていないですよね?」 「うん。まぁそうだけど大丈夫さ。まぁここでいってても食料が手に入るわけじゃないしな。悪いなメリッサ。そのかわり街に戻ったら美味しいものを食べよう」  俺がそういうと、はい、と笑顔で返してくれた。  うん、やる気がでてきたな。  さて、このまま依頼に向かうわけだが問題は馬車だな。  これマジックバッグに入るかな? とりあえずメリッサに降りてもらって試してみる。が、やっぱ生き物は無理だ。    箱だけならもしかしてって可能性もあるが、それだと馬をどうするんだって話だから結局一緒だ。  仕方ないから馬車で少し森のなかにはいり、適当な幹にロープでつないでおくことにする。  ロープは馬車に元々積んであったしな。 「さてとりあえずこれでいくとしようかな」 「あの、私が馬車でみていましょうか?」 「それは駄目だ。大事なメリッサがまた昨日みたいな目に遭うのはゴメンだしな。それに採取に向かうとすぐに駆けつけてこれない」 「だ、大事な――嬉しいです……」  頬を染め小さな声で呟いてるけどしっかり聞こえてるからちょっと照れるな。  まぁいいか、それじゃあこの世界に来てからの冒険者としての初依頼、頑張るとしよう。 ◇◆◇  ……油断していた。完全に計算外だ。よもやこんな事になるなんて――  本当にこればっかりは俺の浅慮さが嫌になる。   「ご、ご主人様――」  メリッサも不安そうだ。それもそうだ今俺の目の前には大量の男どもが、いや女もいるか。  とにかく初依頼でいきなりピンチに陥ってるそんな気さえする。何せ―― 「おい! あっちにナンコウ草が生えてたぞ! お前あっちにいけよ!」 「うそつけや! あっちにはぺんぺん草一つ生えてねぇよ! 騙そうたってそうはいかねぇ!」 「あ! お前それ、俺が先に見つけたナンコウ草だぞ!」 「うるせぇ! 早い者勝ちだ馬鹿!」 「私のお祖母ちゃんが危篤なの! このナンコウ草がどうしても必要なの、お願い譲ってください」 「え? あ、それじゃあ仕方ないよね。はい……て! ナンコウ草は只の傷薬の材料だろうが!」 「チッ、ばれたか!」 「ついでにそいつは男だぞ」 「「「「なんだってぇえぇええぇえ!」」」」  とまぁこんな感じでまさに目の前は戦場。  ナンコウ草とやらを巡って一〇〇人を超す冒険者達が鎬を削っている。  うん、なんだこれ。 「ご主人様。ナンコウ草は手に入りますでしょうか……」  メリッサが心配そうな顔で俺を見上げてくる。  といってもな。流石にこれは想定外だ。  ゲームでは冒険者が薬草に群がるなんてなかったしな。  しかし、こうなると不安はむしろ狩りだな。ギルドで聞く限り、魔物を倒せば素材を買い取ってもらえるみたいだか、薬草でこれだ。  ゲーム時代でも狩場とかいわれて魔物にはプレイヤーが集まる傾向にあったわけで、この状況を見る限りそれが再現されてる可能性も高くなってきた。  頭痛い。お金稼がんといかんいうのに。 「とりあえずメリッサ。ここは離れよう。どっちにしてもこんな冒険者がうようよいるところじゃ碌な採取も出来ない」  俺はそういって、メリッサを連れて別のポイントを探してみることにした。  で、そこでみた光景の一つが。 「グリーンラビットだぁああ。お前ら追い詰めろぉおぉおお!」 「あのラビットを盗らせるな! おれたちが狩るんだぁあああああ!」    ……案の定だ。  ちなみにグリーンラビットは緑色のうさぎだ。  それだけだ。本当にただの緑色のうさぎだ。  いやゲームでは只の雑魚だったからそう思えるのかもしれないが、ただリアルになってもやはり見た目はただの緑色のうさぎにしか見えないが。    その緑色のうさぎ一匹相手に、パーティー組んだ冒険者が何組も襲いかかっている。  正直かわいそうになる。勿論うさぎが。  ちなみに素材は肉そのものだ。毛は色が悪いから価値がないらしい。  まぁいい。てか流石にあの中にまじる気は起きないしな。  俺とメリッサはとりあえずどこか他に割の良さそうな場所がないか探し歩くことにした。  俺とメリッサはナンコウ草を求めて森を歩き続けたが、どこの群生地も大勢の冒険者にあふれて酷いものだった。  かといってせめて魔物でも狩るかと思っても、この辺りの魔物は冒険者による取り合いになっていてとても手が出せる状況じゃない。  正確には出してもいいんだがそこまでの価値はない。  ゲームでもこの森の敵は初心者に毛が生えたぐらいの冒険者のメイン狩場だった。  つまりその分出てくる魔物も弱く手に入るお金も大したことがない。  ギルドでも魔物ごとの素材リストをちょっと読んでみたが、この森にでる魔物は手に入る素材が大したことないしあまりいいお金にならない。  それでもここまで酷い状況じゃなければ少しでも足しにと倒してもいいのだが、これだけ一体の魔物に冒険者が群がってるような状況だと、そんな気も起きない。  彼らも真面目に狩りを行ってる冒険者である以上、キャンセルをかけるなんて無粋な真似はしたくないしな。  それにこんだけ人が溢れてる中のキャンセルは流石に目立つしな。  まぁそんなわけでメリッサと既に半ばピクニック気分で森を巡っている。  木々の密がそれほど高くないので空も見えるし、綺麗な花なんかも咲いていたりする。  依頼の事さえ考えなければ(ついでにその辺の喧騒をきにしなければ)中々いい散歩コースともいえるかもしれない。  魔物の脅威もないしな。何せ勝手に冒険者が倒してくれる。 「空気が綺麗だなメリッサ」 「え? あ、はいそうですねご主人様。ですが、いいのでしょうか? このままだと依頼が達成できず終わってしまいますが……」  メリッサは真面目だ。現実逃避しようと思っても直ぐに引き戻されてしまう。  悔しいから横顔を見つめてやる。 「あ、あんまり見つめられると恥ずかしいです――」  う~んこの、初なところもいいなメリッサは。 「あれ?」    それから暫く歩いているとメリッサが何かに気がついたように声を発した。 「どうかしたか?」 「はいご主人様。あれを見てみてください」  メリッサの白魚のような指が示す方向へ、俺も目を向ける。  すると、ナンコウ草が沢山生えている場所が確認できた――
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