第18話 薬草のマネジャー

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第18話 薬草のマネジャー

 まさか!? と俺とメリッサが駆け足で近寄ると、それは如実に顕になる。 「これは結構な量だな。でかしたぞメリッサ!」 「そ、そんな勿体無いお言葉! ありがとうございます」  メリッサが弾んだ声で喜ぶ。しかし本当にお手柄だ。まさかこんなところが手付かずで残ってるなんてな。  隠れスポットというやつか? まぁどっちにしろこれは僥倖だな。  早速メリッサとナンコウ草の採取に勤しもうとするが―― 「おい! お前ら何してやがる!」  ナンコウ草を摘もうと屈みこむと、そこへ何者かの声が背中に響き渡った。  感覚的に俺たちに向けられた言葉か?  何か面倒くさそうな気がしつつも、俺は立ち上がり振り返る。  するとそこには初めて見る男達――例によって三人組の男が肩を並べて立っていた。  そしてこの三人は揃って顔が一緒である。  三つ子というやつだろうか? 三人共四角い顔で黒い髭をぼうぼうに伸ばしてる。    髪も無造作に伸び放題で、身形にはきっと無頓着なんだろうなと察することが出来た。  身体には揃って革の鎧。手には鉈。  きっと冒険者なんだろうなとは思うが、あまり強そうな気はしない。  で、一体こいつらは何でそんなにイライラしてるのかってところだけどな。 「何ってここで依頼のナンコウ草を採取してるんだが?」  とりあえず俺は質問に対しありのままを伝える。  メリッサも今は動きをストップさせていた。  まぁあの連中がやたら睨み効かしてるからだろうけど。 「なんだと? てめぇら俺達のもんを勝手に採取しようってのか! ふてぇ野郎め!」  ……は? 俺達のもの? 「なんだそれは? 正直意味が判らないが、このナンコウ草はお前たちに所有権があるといいたいのか?」 「あぁそうだ。てかお前らこの依頼を受けに来て俺らを知らないとはさては素人だな?」 「……まぁ昨日登録したばかりだしな」  薬草採取に素人も糞もあるのかって話だがな。 「ふん! どうりで」 「全く素人ってのは時に無謀な事をしたがるものよ」 「ここいらをよく知っている連中は絶対に近づこうとしないってのにな」  急に三人でそれぞれ話しだしたがな。しかしそんなに有名なのかこいつら? てかそもそも。 「それより質問だが、このナンコウ草がお前たちのものだって主張するって事は、つまりこの土地か森がお前たちの所有物って事なのか? 権利があるとかそういう事だよな?」 「ばかいえ、この森は誰のものでもねぇよ」  ……いや、だとしたら言ってる意味がますますわからんのだが。 「この森が誰のものでもないなら、このナンコウ草は当然お前らのものでもないよな?」 「はぁ? なんだお前馬鹿か?」 「こんだけいって判らないなんて脳みそとろけてるんじゃないのか?」 「全く一~一〇まで説明しないと駄目なのか、これだから馬鹿は」  なんかやれやれといった感じに言われてるが、お前らのいってる事のほうがおかしいぞ絶対。 「しょうがねぇしっかりレクチャーしてやるか」 「いいか耳の穴かっぽじいてよく聞きやがれ!」 「俺達はこの場所で四年以上このナンコウ草を採取し続けている!」 「そして俺達はこのナンコウ草の採取だけで!」 「マネジャーランクまで上り詰めた猛者だ!」 「冒険者の連中は尊敬の念をこめて俺たち三人をこう呼ぶ!」 「「「グリーンスリースターズと!」」」  ……なんか三人揃って薬草を摘むようなポーズとってキメ顔決めてるが……いや全然格好良くないぞ。  大体なんだよグリーンスリースターズって。緑の三連星? 踏み台にされる未来しか待ってないぞ。    それにしてもこの仕事だけでマネジャーって……いや凄いんだろうなきっと。   でもそれ誇れることか? もっと他にやれることもあっただろうに。 「まぁつまりだ」    あ、ポーズときやがったな。てか顔赤いし恥ずかしいならやるなよ。 「このナンコウ草の狩場は俺達が長年採取を続けた聖地!」 「つまり俺達のシマ! 縄張りだ!」 「それこそがここらへん一帯のナンコウ草が!」 「俺たちのものである断固たる証!」 「その地を他の冒険者が踏みにじるなど許されるわけもない!」 「ここのナンコウ草を採っていいのは俺達だけだ!」 「「「さぁ判ったらとっとと、帰~れ! 帰~れ!」」」 「ご、ご主人様……」  メリッサがやっぱり不安そうな顔をみせてくる。  まぁそれにしてもこいつらも無茶苦茶な連中だな。  やっぱり三人組に碌なのはいない。   ようはこいつらは俺たちが長年ここで採取を続けてきたからもう俺のもんだ! といいたいわけだろ?  アホか! そんな道理がまかり通るなら、誰もが自分勝手にこれは俺の物とかあれは私の物とか言い出すだろ。  つまりこいつらの言ってることは何の証拠にもならない只のゴリ押しだ。  そんなものに、いちいちこっちも付き合ってられないな。  とはいえまともに相手するのもくたびれそうな連中だ。  ここは俺は合理的に行かしてもらう。 「言ってることは判った。ところで一つ質問だが、お前たちはこれを依頼として請けてる認識はあるんだよな?」 「? そんなのは当たり前だろ」 「依頼でなきゃこんなものやってられるか」 「これを採取してギルドに持って行き報酬を得るのが俺たちの仕事だ」 「そう良かった」    俺は連中にいい笑顔を見せ。 「じゃあその依頼――キャンセル! キャンセル! キャンセル!」 「はぁキャンセルってお前な……」 「あれ? 俺らなんでここに?」 「いやそれはあれだろ、えっと?」 「なんだお前ら何の目的もなくここにきたのか?」  疑問符混じりに顔を見合わせる三人に俺は悠々と尋ねてやる。 「あ、あぁ……」 「そうか、だったら俺たちがやってる事にも特に問題はないよな?」 「ん? あ、あぁそうだな」 「よくわかんねぇけど……帰るか」 「そうだな……」  こうして三人はとぼとぼと街へ帰っていった。  うん上手く言ったな。  ちなみにいま俺が使ったのは依頼キャンセル。  ゲーム中にも存在していたキャンセルスキルの一つだ。  まぁ効果は読んで字の如く依頼を自由にキャンセル出来る。  そういえば最初、そんなスキルになんの意味が? と思う連中もゲームでは多かったな。  しかしこのキャンセルの特徴の一つはまずペナルティーを受けなくなること。  ペナルティーというのは依頼を受けておきながら失敗したり、もしくはギブアップしたときに課される罰だ。    これがたまると請けられる依頼に制限がでたり罰金がとられたりと思ったより馬鹿に出来ない。  だがこの依頼キャンセルをつかえば一方的に依頼がキャンセルされペナルティーもなくなる。  ……そういえばあの受付猫娘、ペナルティーに関しては言ってなかったな。  この世界にはないのか? ……いやあれの場合単純に忘れていた可能性のほうが高いな。  まぁいいか失敗しなきゃいいだけだし。  まぁとにかく、ここまでが通常の使いかた。  しかしこのスキル、なまじパーティー組んで行うミッションでも使える仕様にしたのが悪かった。  そのために起きた弊害。  なんとこのスキルは自分だけでなく他のプレイヤーにも使用できた。  つまり勝手に他のプレイヤーの依頼をキャンセルできるわけだ。  依頼にはレアな報酬が貰えるという貴重な依頼もあったが、ゲームでも依頼を達成したあと報酬を受け取るにはギルドに向かう必要があった。  その為、一部のキャンセラーがギルドの前で待ち伏せし、依頼を終え報告のため喜び勇んで帰って来たプレイヤーの依頼をキャンセルするという嫌がらせが横行した。  そしてこれがまた不遇職のキャンセラーが嫌われますます腫れ物扱いとなった要因でもある。  とはいえどんな依頼でも自由にキャンセル出来るというわけじゃなく護衛などは依頼が開始されるまでだけ。  ただ討伐系や採取系なら間違いなく出来た。そしてレア報酬はこういった依頼がらみが多かったから余計質が悪かったわけだが。  まぁそんなスキルだから、俺も真面目にやってる連中には使おうと思わないけどな。  だがあんな身勝手な持論で馬鹿なことをほざいてる連中に容赦する必要はないだろ。 「さてっと。これで気兼ねなく採取ができるな」 「は、はいそうですね……ところで今のもご主人様の魔法なのですか?」 「あぁまぁ似たようなもんだな」 「やっぱり! 流石ですご主人様! やはりご主人様は素晴らしいです!」  なんかそう言われると照れるけどな。  まぁとにかく俺とメリッサはそれから奴らが縄張りとかほざいてた範囲のナンコウ草を根こそぎ狩り尽くした。  結構な量だったが全てマジックバッグに詰め込んで、これで依頼達成ってことでいいだろう。  うん、上出来上出来――
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