第24話 銀行

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第24話 銀行

「す、凄いにゃりね。ナンコウ草を一人でこんなに採ってきた冒険者は初めてにゃりよ」  冒険者ギルドに付きご多分に漏れず査定の為に別室に連れて行かれた俺は、この猫娘受付嬢に随分と驚かれた。  ちなみに本来一般的に採取される程度のナンコウ草の量だとその場で受け付けるんだそうだ。  だけど今回は俺が採取した量を告げて別室に招かれることになった。  勿論冒険者ではないメリッサは入れないが今回はカウンター近くで待っているよう言っておいた。馬車には馬車見を付けてるし、昨日の事を考えると寧ろ受付嬢がいるギルドの方がまだ安心だろうという結論に達した。  この受付嬢にもいって他の受付に気をつけておいて貰うよう頼んでるしな。  厄介事があったら呼びに来るはずだ。  あぁそういえば馬車を盗まれその冒険者を俺自ら粛清した事は結局告げなかった。  話の流れでスラムの事にちらっと触れたら慌てた様子で、 「絶対に近づくなにゃり! あそこに行ったまま行方不明になった冒険者も多いにゃん! ギルドも特別な依頼がない限り手を出さないにゃりよ!」 とか言ってたしな。  だったらもう行方不明って事にしておいたほうがいいだろ。面倒事はゴメンだ。馬車も無事戻ったし。  てかこの猫段々にゃりの比率が上がって来てないか? 「それにしてもどうやったにゃん? あのアロエーの森はいい仕事にありつけなかった冒険者が殺到する事で有名にゃん。魔物はビギナーでも苦戦するのが少ないにゃりだけに、狩り場としても人気にゃんが人気すぎて逆に狩るのも採るのも苦労するにやりよ」  首を傾げ猫耳をピコピコさせて訊いてくるけどな。 「秘密だ。情報は簡単に漏らすものじゃない。どうしてもというなら情報料を貰う」 「むぅケチにゃりね。大体受付嬢から情報料を貰おうとする冒険者なんて初めてみたにゃん」 「情報は金になるからな」    俺はしれっという。実際俺は守衛から情報を買った身だしな。 「まぁいいにゃん。ナンコウ草は全部で三十二kgと五六五gになったにゃん。四捨五入にゃので三十二kgと五七〇gで査定したにゃん。全部で十六万二八五〇ゴルドにゃん。凄いにゃん! 新記録にゃりよ!」  予想よりちょっと多かったな。でもこれで資金は一〇〇万は超えた。明日までに一五〇万は流石にキツそうだが、予約制度を利用して五日以内に一五〇万貯めるのはなんとかなりそうだな。  ただ……新記録か―― 「なぁ新記録っていってたけど他にはいなかったのか? ちょっと小耳に挟んだんだが薬草採取だけでマネジャーまで上り詰めた連中がいるんだろ?」  俺がそう告げると猫娘受付嬢は不快そうに顔を歪めた。 「それはグリーンスリースターズの三兄弟の事にゃりね。確かに連中は採取の実績が評価されて冒険者ランクは上がったにゃん。でもにゃりが、勝手に縄張りを作って他の冒険者を追い立てたりしてるにゃりから評判悪いにゃん。ギルドとしてにゃそのやり方に規制はないにゃりし文句はいえないにゃりがね」  なるほどな。まぁ確かにあんな態度で強引な事をしてたら評判も悪くなるか。 「にゃんけど、それでもあの連中は最高でもリュックにたっぷり詰めて一日六kgが最高記録にゃん。ヒットにゃんはその五倍以上にゃん。桁違いに凄いにゃりよ」    六kg? 三人でか? いや確かにマジックバッグという物の恩恵もあるだろうが、薬草専門って事は一日中あそこで採っていたのだろう。  もし途中で帰ってるとしたら縄張りなんて保てないだろうしな。  それにしては遅いが……そうなると器用さか。あいつらは見た目には不器用だったしな。  ゲームでは数値として明確にはでてこなかったが器用さというものは存在した。  これが低い場合例えば宝箱の鍵開けでもはっきりと判るぐらい差がでたりしたわけだ。  それが薬草採取にも反映されてるわけか。  そういえばナンコウ草にしても四分の三は俺が採った。  別に手伝ってくれたメリッサが遅かったというわけじゃない。  むしろかなり速い方だったとも思う。だがそれよりも俺のほうが圧倒的に速かった。  これはゲームでかなり鍛えていた影響なんだろうなやっぱり。  ……まぁそれでもあいつら不器用すぎだけどな。  三人もいて一日で六kgって…… 「ところでヒットにゃん。これだけ報酬を稼げるにゃら銀行を利用してみないにゃりか?」  うん? 銀行? 突然猫娘にそんな事を訊かれたが……銀行か。  銀行に関してはゲームでも存在した。ゲームでは死んでしまった後教会で復活だったがその際に所持金の半分が失われる仕様だった。  だが銀行に預けておけばそれがない。預けたお金はどこの街の銀行でも引き落とせたしな。  特に損はないから利用しているのも多かった。  だがこの世界だと必要か? て話だが……寧ろ必要だろうな。リアルになったこの世界じゃ何がおこるか判らない。  窃盗やスリなんかの類もゲームより頻繁に発生してる危険性が高い。  勿論俺はそんなものに遅れを取るつもりはないが、それでも絶対とは言い切れない。  基本マジックバッグ頼りなところもあるしな。  今はメリッサが持ってくれていることも多くそこを狙われないとも限らない。  だから銀行に預ける自体はいいのだが、気になるのはなぜそれをここで訊かれるのかだな。 「銀行を利用するのはいいが、なぜ冒険者ギルドがそれを訊くんだ?」    俺は思った疑問をそのまま猫娘にぶつける。  すると耳をピクピク揺らしながら人差し指を立てた。 「それはにゃん。冒険者ギルドと銀行が提携してるからにゃりよ。にゃのでギルドで銀行に登録すればにゃん。報酬をギルドから銀行に預けることが可能にゃり。更に冒険者証を銀行で見せることで引き落としも可能になるにゃん。便利にゃん」  ふむ……なるほどそういう事か。確かにそれは便利だが。 「ここでも引き落とせるのか?」 「それは無理にゃん」  まぁそれもそうか。だけど預けられるだけでも便利は便利か。 「預けられるのは報酬だけか?」 「それは大丈夫にゃん。預けるのは好きに出来るにゃん」 「そうかじゃあ――」  俺はとりあえず必要な分、まぁとりあえず半端な分の七万三三三六ゴルド残しておけば大丈夫だろう。それは手元に残しておいて。 「今回の報酬分と合わせて一〇〇万ゴルドになるよう預けておく。それは大丈夫か?」  俺がそう尋ねると、にゃん!? と耳もピンっと立てて随分驚いた顔で一声上げて。 「も、勿論大丈夫にやり! それにしても驚いたにゃん。太っ腹にゃん」  太っ腹と言ってもな、預けるだけだし。 「何か記入とか必要なのか?」 「大丈夫にゃん。ギルドに登録されてる情報がそのまま流れるにゃん」  ……いいのかそれ? まぁ異世界で個人情報がどうの言っても仕方ないか。それに別に知られて困るような事も書いてない。 「とりあえず査定はこれで終わりか」 「そうにゃん。折角だから何か聞きたいことあったら教えるにゃん。でもスリーサイズは秘密にゃん」  いや、聞いてねぇし。あぁでも。 「そういえば名前を知らなかったな」 「そういえばそうにゃんね。ニャーコって言うにゃん」  ……わりとまんまだな。 「可愛いと思ったにゃん?」  猫のポーズでそんな事言われてもな。見た目は普通に可愛いが口調が色々邪魔してるし。  いや名前の件か。 「まぁ可愛いんじゃないか?」 「にゃん! でもものにするなら簡単にはいかないにゃんよ」  にっこり微笑んで言われたがそんなつもりはないから問題ない。 「それはそうと折角だから聞きたいんだが、アロエーの森みたいな事は他でもあるのか?」 「むぅ、にゃんかはぐらかされた気がするにゃん。まぁいいにゃん。それで他でもというと何にゃん?」 「あぁだからナンコウ草の採取や魔物を狩るために取り合いになったりといった意味だな」 「そういう事かにゃん。アロエーの森は特別にゃん。あそこはビギナーからアマチュアランクの冒険差が活動しやすいから特に酷いにゃん」 「他はそうでもないのか?」 「そうにゃんね。冒険者は領主様が変わってから増加傾向にゃん。みんな稼ぐのに必死にゃん。でも新人が多くなりすぎてアマチュアまでのランク冒険者が有り余ってるにゃん」  そんなに増えてるのか……まぁ冒険者は手軽になれると思われてる感じなのか。   「でも冒険者だってそんなに甘いものじゃないだろ? 危険だって付き物だろ?」 「そこにゃん。前にアマチュア冒険者数名がレベルに合わない魔物を狩りに向かったにゃん。少しでも稼ごうと思ったようにゃんが、その結果は散々たるものだったにゃん。殆ど死亡し生き残った冒険者も二度と冒険者として、というより日常生活もまともにおくれなくなったにゃん」  なるほどな。確かにアロエーの森みたいに危険の少ない魔物ばかりの筈がないからな。 「そしてその噂があっという間に冒険者の、特にアマチュア以下の冒険者の間に広まったにゃん。そういう噂は広まるのも早いにゃん。それから冒険者は我が身可愛さに無茶する者が減ったにゃん」    その結果があのアロエーの森ということか。でもそれだと。 「でもあんなとこで活動したり魔物狩りしてるだけでランクは上がるのか?」 「当然厳しいにゃん。だからアマチュア以下が余ってその上が中々増えないという事態になってるにゃん。でもそうなるとアマチュア以下が可能な依頼は取り合いにゃん。確かにアマチュア以下でも出来る仕事は多いにゃんが絶対数は決まってるにゃん。結果としてランクが上がりにくい状況にゃん。ギルドでは殆どの冒険者はマネジャーまで上がれればいい方と言われてるにゃん」  ふむ。それであの緑の三連星って奴らも偉そうにしてたのか。  やり方はどうあれマネジャーまで上り詰めただけでも大したもんだったってことか。   「でもヒットにゃんはなんとなくこのままいけばかなり上のランクまでいけると思うにゃん。ニャーコの予感は結構当たるにゃん」  まぁそういってもらえるのは嬉しいし実際俺もそのつもりだ。  寧ろ今の話を聞く分にはランクアップ自体はそこまで難しくないかもしれない。  しかし……ランクか。俺はふとあの男の事を思い出す。 「なぁ、ところでザックって冒険者は知ってるか?」 「!? な、なんでその名前を知ってるにゃん!」    て、なんか食い付き気味に問い返されたな。  ただ表情は険しくなっった感じだ。  これはやはり厄介なタイプだったのか?
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