第28話 厄介事は連鎖する

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第28話 厄介事は連鎖する

「よぉ兄ちゃんちょっと待ちな」  ドワンから依頼書を受け取りギルドに戻る為、馬車に乗り込もうとした時、後ろからそんな声が掛かった。  なんとなく嫌な予感がしたから、メリッサには御者台に乗ってもらい、俺は声のした方を振り向く。  そしたら三人組の男が肩を並べて立っていた。  ドワンの店の周囲は転回出来るスペースがあるが、その先の道は狭くこのままでは馬車は通れない。  全くこの手の連中はとにかく面倒だ。おまけに見た目がもろ悪人顔だからな。  何の用事か一発で判るぞ。この辺りは特に基本人の目が少ないし。  スラムまでそこまで遠くないというのもあってガラの悪いのも多いのかもしれない。  しかしなんだろうか。金を出せとかか? 面倒だからそんな話なら即行でキャンセルするとしよう。   「兄ちゃんというのは俺の事か?」    俺がそう訊くと真ん中の男が一歩前に出て口を開く。 「お前以外には誰もいないだろう」  まぁそりゃそうか。 「で、何のようだ?」  みる限り其々短めの剣を腰に下げてるが鎧の類は着ていないな。  あまり冒険者という感じはしない。  ガラの悪いチンピラって感じだ。 「おいおいそんなにびびんなって。別に取って喰おうってわけじゃないんだぜ?」  戯けた感じに両手を左右に振ってそんな事を言ってくる。   「俺らはただお前たちに忠告をしようと思ってな」 「忠告?」  俺は思わず怪訝に眉を顰めた。一体何の忠告だ? この辺りはおれらの縄張りだとでも言う気か? 「お前ら今そこのドワーフの店から出てきただろ?」  うん? 「あぁそうだな。武器と防具を見に来た」  とりあえず適当にそれっぽいことをいう。 「おいおいあんちゃんマジかよ、この店で装備を買うなんてな」 「この店は出来が最悪ってもっぱらの噂だぜ? 値段が高い割に粗悪な品を掴まされ泣く羽目になった連中を何人も知っている」  ……なんか前もって申し合わせていたかのようなセリフを、しっかりタイミング合わせて言ってきたって感じだな。  まぁ実際そのとおりなんだろうけど。  しかし恐喝の類ではないのか。寧ろ狙いは俺たちじゃなくて―― 「まぁそういうわけだ。だから兄ちゃん、もうこの店は使わない方がいいぞ。武器の修理もやめた方がいい。これは噂だがかなり資金繰りに苦労しているらしく、材料もまともに入らねぇらしい。どこもいつ潰れるかわからない店に物は売りたかないからな。そんなとこに武器を預けたら次の日には店は無かったなんて事も十分ありえるぜ?」 「そんないいかげ――」    メリッサが御者台から口を挟みかけたので、俺は後ろ手で制した。  それで意図を理解したのかそれ以上は口にしなかったけどな。 「なんだあんた可愛らしい奴隷を連れて歩いてるんだな」 「まぁな。それで用件というのはそれだけかい?」  なんとなくこいつらの目的と、裏で糸引く人間は判ってしまったが、まぁそれは態度に出さないようにして問うように告げる。 「まぁな。俺らは少しでも詐欺まがいの店で騙される奴らが減るようにと教えて回ってるんだ。だがあんたもいきなりこんな事を言われても、次に行く店に困るだろ?」 「……まぁな」 「だったらこんな湿気た場所にある店じゃなくて、路地を抜けてメインの街路沿いにある店を使うといい。あの辺りの店はどこもこの街の武器屋や防具屋を取り纏めているボンゴル商会に加入してる店ばかりだ。こんなむさいドワーフのやってる店とは信頼度が違う」  ……本当に判りやすい連中だな。  それにしてもこいつらがドワンの店の悪い点として挙げたのは、資金繰り以外は全部そのボンゴルの店に当てはまることだろう。  まぁそれもメリッサに聞いた限りの話だけどな。  でもこんなうすらバカ三人のいうことを聞くぐらいなら当然メリッサの話を信じる。  まぁとはいえここは素直に頷いておくか。 「そうか、まぁ店の件は考えておくよ。情報どうも。それじゃあな」  俺はそういって踵を返し馬車に乗ろうとするが。 「おっとチョット待ってくれよ兄ちゃん。今言ったようにこの店は経営がやべぇ。だからあんたが持ってる依頼書も破棄したほうがいい。そんな店の依頼ギルドに持っていくわけいかないだろ? 俺らが処分しておいてやるからこっちに寄越してもらえないかい?」  ……なるほどそういう事か。  俺は返した脚を元に戻し再び三人と対峙する。 「格好で冒険者と判断したのはなんとなく判る。だが、どうして依頼があったなんて思う?」   「それはまぁ俺ら地獄耳だからよ」    ……一人シーフがいるな。いや全員の可能性もあるか。  そう思ったのはシーフのスキルに聞き耳というのがあるからだ。  これはゲームでは扉の向こう側に誰かがいるかなどの情報を掴むために使用していたスキルだが、この世界ならドア越しの会話なども聞こえてる可能性もある。  シーフならある程度気配も消せるだろうしな。 「俺は依頼なんて請けてない。勘違いじゃないのか?」 「嘘は良くないぜ。俺らはあんたが依頼を請けてると確信してる」 「そうか。しかし、だとしても依頼書を渡す義理が俺にはないな。処分するかどうかぐらいは自分でも決められる」 「おいおいこっちは親切で言ってやってるっていうのに恩を仇で返す気かい? だったらこっちにも考えがあるが?」  ついに本性が出たか。同時にシーフの予想も当たってたな。  何せ―― 「な!?」  三人の一人が驚愕といった様子で目を見開き後方に下がった。ナイフは地面に突き刺さっている。 「今のは警告だ。俺のメリッサに手を出そうというなら次は狙うぞ?」  話に気を取られている間に忍び足のスキルで俺の横を抜け、メリッサを人質にとでも考えたか?  悪いがこっちはお前らなんかより高い能力を持ってるんだ。  その程度のスキルはすぐに看破できるんだよ。 「ちっ。この間の奴はあっさり渡したってのによ」 「……それはラグナの事か?」 「なんだ知り合いだったのか? だったらてめぇがどれだけ馬鹿な事をやってるかわかりそうなもんだがな」    別に知り合いじゃないけどな。今さっきドワンから聞いただけだ。 「メリッサを人質にとろうとするような卑怯な連中が、そんなに脅威には思えないがな」 「ふん。それは少しでも穏便にすまそうという優しさだ。事を荒立てたくは無かったんだがな――」  男の声に反応するように建物の影からぞろぞろといかにもって連中が出てきやがった。  数は全部で……三〇人ぐらいいるか? 男たちも一旦後方に下がり出てきた連中の波に混ざる。 「ご、ご主人様私も手伝います!」 「いやいい。大事なメリッサを傷つけたくないしさせはしない。とにかくそこでじっとしててくれ」  馬車はドワンの店の前につけてある。連中は俺の正面から出てきているし、ある程度距離もある、俺の横を抜けなければメリッサには辿り着けない。  シーフだって通しはしないさ。 「ふん素直に依頼を放棄すれば痛い目みずに済んだってのによ」  リーダー風の男は腰の剣を手早く抜き、正面に構えた。  佇まいはそれなりに場数をこなしてるような雰囲気もあるな。 「もう一度言うぞ? 怪我したくなかったら大人しく依頼書を渡せ」 「やなこった」  俺は舌を出して返す。 「チッ、だったら力ずくでいくぜ! てめぇらやっちまいな!」  男の号令で全員が一斉に剣を抜く。よし、この時点で俺の正当防衛は成立するな。  だから俺も双剣――は抜かずマジックバッグからスパイラルヘヴイクロスボウを取り出し肩に担ぐ。  すると――どよめきが起きた。 「て、てめぇ! 何だそりゃ!」 「さぁなんでしょう?」    俺は思わずニヤリと悪魔の笑みを浮かべながら――先ずは一発、シュート!  トリガーを引いた瞬間心地よい風が俺の髪を撫で、そして発射されたボルトは先頭に立つ一人の胸をまず穿ち、更に貫通して後方に立つ四、五人の腹や心臓や首を貫いていく。  そして連中が纏めて貫通されたのを確認した後、俺はキャンセルでボルトを元に戻した。  この武器はなんといってもこの貫通性の高さが魅力だ。  だからこそ俺のキャンセルと組み合わせることで対集団戦において威力を発揮する。 「な、なんだあの武器! 一瞬で何人も死にやがった!」 「あ、あわててんじゃねぇ! 見ろあの武器を! 確かに威力はすげぇがクロスボウだ! 一発売ったら次の矢を込めるのに時間が掛かる! もう射てやしねぇよ!」  その場のほぼ全員が驚愕に身を竦めていたが、リーダー風の男が言った言葉で冷静さを取り戻したようだ。  あぁそうだな。確かに普通のクロスボウならそうだとも。  だが俺は連中の気持ちを折る一発を更に射ち込む。  再び、シュパァアァアアァン! といい音を奏で更に五人ばかしが血だまりの中に沈んだ。  連中の顔が恐怖に歪む。 「お、おいどうするんだよ? 絶対やばいぞこいつ!」 「くっ! し、仕方ねぇ! 一旦引き上げて――」  はぁ? 引き上げる? 冗談でしょう? 折角正当防衛って大義名分が出来てんだ。  それに唯でさえこっちは銀行で苛ついてる。  それなのに逃すわけねぇだろ!  俺は踵を返そうとする連中の頭に土手っ腹に、下腹部の棒に、きたねぇ尻の穴も、容赦なくキャンセルシュートで穿ち貫いていく。 「ひぎぃぃいいいぃい!」 「おでのケツ穴がぁあぁああぁあ!」 「ぎひゅいあぎゅいげひぇえぐぇえええ!」  狭い路地に汚ぇ叫声が響き渡り、キャンセルシュートを四回ほど繰り返してリーダー風の男を除いた全員の屍体が積み重なっていった。  勿論一人残したのはわざとだけどな。 「て、てめぇ! な、何者なんだ!」  最後に一人残った男は、及び腰のまま歪んだ表情で俺を睨めつけてくるが、只の強がりなのはその膝の震えで理解した。 「別に。ただのビギナー冒険者さ」 「う、嘘つけ! た、ただのビギナー冒険者がそ、そんなわけのわかんねぇ武器持ってるわけねぇだろ!」  あぁこいつ。俺の武器が特殊だと思ってるわけだなるほどね。 「なんだこの武器のせいで負けたと思ってんのか? だったらいいぜほら」  俺は肩に担いでいたクロスボウを脇に下ろし、そして何も持たず両手を広げ奴に告げる。 「ほら。どうだ? 所詮ビギナーの俺がこの状態で相手してやろうってんだ。少しはあんたにも勝ち目が出てきたぜ?」 「な、なめやがって……」  ほぼノーガード状態の俺に小さく呟き、唇を噛みつつ男は本気の眼で剣を振り上げ前に出た。  が、俺は遠慮なくまずキャンセルで相手の構えを解く。  ノーガードでもスキルを使わないとは言ってないしな。 「え? な、どう――」  そして相手が戸惑ってる間に俺は双剣を抜き、ファングスライサーを使用した。  こいつの腕ぐらいならこれでも切り飛ばすことは可能。  そして案の定、剣を持っていた右の腕が宙を舞う。 「ぎ、ぎいぅううぇえ"ぇ"え"ぇ"え"え"え"え"ぇ"」  男は絶叫を上げて片膝をがくりと折る。  そして残ったの方の手で、腕の消えた左の断面を押さえた。 「あ、ぐぅ、腕が、俺の、腕……」 「気を失わないだけ偉いぞ。だがまぁその状態で歯向かおうってんなら只の馬鹿でしかないがな」 「あ、ぎ、ゆ、許してくれ、た、頼む――」  懇願するような瞳で俺を見上げてくるが、ふむ――じゃあ先ずは。 「だったら質問に答えろ。お前らを雇ったのはボンゴルだな?」 「そ、それはいえぎひいぃいいぃい!」  取り敢えず右耳を斬り飛ばした。残った手で今度は耳のあった部分を押さえようとするが俺が刃を向けて制す。  今の俺はマジで気が立ってるからな。 「おれは質問に答えろと言っただろう? それ以外の選択肢はないんだよ。馬鹿なのか? ほら、どうだ、雇ったのはボンゴルなんだろ?」 「そ、そうだよ! ボンゴルに雇われた」 「そうか。目的は?」 「し、知らねぇよ! ヒッ! 本当だって! ただ店の評判を落とせというのと依頼を請けさせるなと言われただけだ!」  ふむ刃を向けて随分震えてるな。う~んこれは嘘ではなさそうか。 「他にも雇われてるのはいるのか?」 「そ、それは俺達だけだと思うぜ。もし他にいたらかち合っちまうし」  なるほど確かにそうだな。ふむ―― 「で? 報酬は貰ってるのか?」 「そ、それは、いでぇえぇえぇ!」  俺は今度は左足に刃を突き立てる。 「迷うな。すぐに答えろ」 「ね! ねぇよ! 仕事が終われば貰える予定だったけどよぉ。本当だって許してくれよぉ」  チッ! それで少しは補填できると思ったんだが甘かったか…… 「な、なぁもういいだろ? み、見逃してくれよ」 「……あぁそうだなここで止めておこう」  クズ野郎はほっと息を吐きだし安堵したようだが。 「だから一思いに殺してやる」  そう言って俺はその屑の首を跳ねた。全く、気が立ってるといったろ? 唯でさえ金がなくて腹ただしいんだ。   第一ここで見逃したら恨んで報復に来るかもしれないだろうが。  それだと俺はともかくドワンに迷惑がかかる。    ……まぁ多少は憂さ晴らしってところもあったけどな。
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