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ハイポシスⅡ
柴川が講演会に出席するため地元に帰って来ると言うので、久しぶりに2人だけで会う約束を取り付けた。私は奮発して品がある個室居酒屋を押さえ、今日は受賞のお祝いだから好きなだけ飲め、と地酒を勧めた。
私は柴川に聞きたいことが山ほどあって、受賞決定の裏話や新たに発見した宇宙の秘密など、いろんな質問を投げ掛けた。柴川も旧友の前でリラックスしていたのか、聞いている私の方が心配になるほど、いろんなことを包み隠さず打ち明けてくれた。
いよいよ話も盛り上がってきたところで、2人の幼い頃の話題になったので、私は思い切って、岡本氏が持って来た雑誌の写しを鞄から取り出した。記事に目を移した柴川の表情が、サッと曇る。
「この記事は?」
「先日、記者が家に持ってきたものだ。この間、UFOのことは話すなと言われたから、こんなものはデタラメだと言っておいたよ。」
安堵とも不安ともつかない、柴川のこんな表情を見るのは初めてだ。
「君は覚えてるんだろ?この時のことを。話してくれないか?」
「そうか。秀ちゃんが覚えていないのも無理ないな。でも覚えてるったって、子どもの頃のことなんだ。何が起きたかなんて、正しく理解出来る年齢ではなかったんだよ。」
「あの時の君は理解出来なかったとしても、今の君はどう考えてるんだ?」
「今の僕か…いや、今の僕でも、この記事に書いてあることは真実だと言うのかもな。」
「それじゃ君は、私たちが本当にUFOに連れ去られたとでも言うのか?」
思わず私は声を荒らげたが、柴川は今や世界的な宇宙論研究者だ。その彼が、根拠もなしにUFOの存在を肯定するはずがない。柴川は、やおら地酒を1杯ごくりと飲み干すと、意を決したように「それじゃ、あの時僕が何を見たのか、全部話そうか。」と言って、ポツリポツリと語り始めた。
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