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コンクルージョン
プルルルル…。ようやくマスコミや親戚の騒動も落ち着いたと言うのに、今だにこうして時々電話が掛かって来る。まだ話していない柴川のエピソードなどあっただろうか、と考えながら受話器を取る。
「私だ。先日、被験者と接触したようだが、彼の調子はどうだったかね?」
男性とも女性とも区別のつかない独特の声質で、すぐに相手が誰か分かる。
「ええ、ここまで来るのに随分と時間は掛かりましたが、実験は順調に推移しています。彼の脳は飛躍的な向上を遂げ、今や地球一の頭脳の持ち主と言えるほどです。」
「そうか。脳覚醒手術の方は成功とみて良さそうだな。懸念されていた、記憶除去手術の方はどうかね?」
「彼自身が脳外科手術を受けたことは、一切覚えていないようです。但し、自身がUFOに連れ去られたことや、私が手術を受けたことなどは一部記憶しており、記憶のまだら症状が起きていたことを確認しました。」
電話先の相手は、何かを考え込んでいるのか、しばし沈黙が流れる。
「なるほど、そういった弊害が表れるか。これは貴重な症例だな、今後の参考としよう。ところで、君の方はどうなんだ?」
「ええ、私の方は特に異常ありません。完全に脳機能が停止している状態で母体に侵入できたので、拒絶反応なども起こりにくかったようです。」
あの日、脳を損傷した小崎少年をすぐに発見できたことは、成功要因の一つと言えるだろう。私はスムーズに小崎少年の脳を乗っ取ることができたし、そのお陰で、柴川少年に施した脳覚醒手術の進行をつぶさに観察し、母星に報告する役目を担うことができた。
「ところで、もしかすると近々、被験者がそちらにコンタクトを取る可能性を示唆しておりました。惑星のおおよその位置は掴んでいるものかと。」
電話先の相手は「そこまで彼の脳は覚醒したのか。」と喜びの声を上げた。私はその日がやって来るまで、引き続き、彼の観察を続けようと思う。
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